新撰組の想い人 ~幕末にタイムスリップしたオメガの行方~

萩の椿

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第60話

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新選組屯所は、未だに明かりがついていた。数時間前までいた場所。

 結局、一日も逃げきれず捕まり、屯所に戻されている。

「土方さん、怒ってましたよ」
「え?」

 
 屯所の門をくぐった沖田が、手を引きながら言った。

「待ってると思いますよ、地下室で」

 血の気が引いていく。今は土方とは顔を合わせたくない。

 地下室へと向かう時間がやけに長く感じる。

 階段をおりて、引き戸の前に着いた時には、慧は顔面蒼白になっていた。

 




    沖田が扉を引き、地下室に押し込められる。

 中には、背筋の伸びた男があぐらをかいて座っていた。

「連れて帰りましたよ、土方さん」

 やれやれと言った様子で、沖田は縄を手に取った。

「やだっ」

 またあの縄を首に巻かれるのは嫌だ。行動が制限されるし、なにせ呼吸がしにくい。

 しかし、慧の必死の抵抗もむなしく、沖田に組み敷かれる。

「土方さん、ちょっと腕を押さえていてください」
「ああ」

 顔の横に手を押さえつけられ、身動きが取れなくなる。

沖田は慣れた様子で慧の首に縄を巻いた。きつく締められ、まるで呼吸を沖田に制限されているような感覚に捕らわれる。

 土方と関わるようになってから暫くつけられていなかったので、この違和感には慣れない。


「どこにいたんだ?」

「となみやの通りです。この時間帯ですから、人通りもなくすぐに見つけられました」

「そうか」

 土方と沖田は慧の上で会話を交わした後、慧を見下ろした。

 そのぞっとするほど冷たい視線に、慧は自分がとってしまった行動を深く後悔した。







                               ◇◇◇◇◇



「あっ! うぅ……」

 慧の着物ははぎ取られ、体を隠す布はない。両手は土方によって顔の横に押さえつけられ、慧の欲望は沖田の大きな手に包み込まれている。

「何故、屯所を抜け出した」

 土方の問いと共に、張り詰めた慧の欲望を沖田が勢いよく擦る。しかし、達してしまいそうになると沖田がその手を緩め、上り詰めた白濁を出すことは許されない。


 もどかしい感覚に慧の腰が揺れる。


「言えば楽になる」

 土方はそう言って答えを促してくるが、理由なんて言える訳がなかった。

「妊娠してしまったかもしれない恐怖で屯所を飛び出してしまいました」なんて言ったところで絶対に信じてもらえない。

 それに、慧は今となみやの通りで見た景色の事で頭がいっぱいだった。

 あれは確かに、現世で見てきた景色だった。

 なぜあの場所に現れたのかは分からない。

 一瞬、夢を見ているのかもしれないと思ったけれど、あまりにも具体的で、鮮明だった。


 夢なはずがない。


 あのとなみやで見た景色は現世に帰る方法に何らかの関係がある。確証なんてないけれど、そう、慧は思っていた。
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