扉の先は異世界(船)でした。~拾ったイケメンと過ごす異世界航海ライフ~

楠ノ木雫

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第五章 太陽さんご無沙汰です

◇27 真夏過ぎる

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 ……暑い。

 深海でお風呂上がりに連行されてから毎日、ヴィンスによって夜彼の部屋に連行されている。そのままお喋りをして一緒に寝るのがいつものパターンだ。もう慣れたもので、こっちで寝るのが当たり前になりかけている。

 けれど、海上に戻ってきてから蒸し暑く感じてしまう。不思議なことに船の中の空調管理も自動管理システムで快適に過ごせるようになっている。それでも……


「……暑い」

「文句あるか」

「だから向こうで寝るって言ったのに」

「俺が無理」

「あっそ」

「ナオがあっち行ったら俺が一緒に寝られないだろ」


 あ、はいはい。一緒に寝るのは前提なのね。

 けれど、毎日毎日ぎゅ~っと思いっきり抱きしめられて寝ると、何となく、気分的に暑苦しく感じてしまう。まぁ、空調管理は出来ていても甲板に出れば暑いんだけどさ。

 それなのに私室で寝るって言ってもこの通り帰してくれない。夜眠れない子供かよ。まぁ、夜お喋りをするのは楽しいけれどもさ。

 そんな愚痴を心の中で呟いてはいるけれど、強引に帰ろうとはしていない。面倒くささと……まぁ、いろいろ。だから、嫌がっているというわけではない。悔しい事に。


「……朝ご飯作らないといけないんですけど」

「……俺がやる、から、もうちょい」

「はぁ……」


 お寝坊さんかよこの人は。まだ起きたくないってか。なら私を解放して一人で寝てろ。……と言いつつも、私もまだ寝ていたい気もする。せっかく深海の魔獣達の生息地から抜け出せて安心して寝ていられるんだ。そりゃまだ寝ていたいと思うわ。

 内心ため息をつきつつも、目を閉じた。

 ……ら。


「お~いナオ、起きろ。朝ご飯冷めるぞ」

「……」

「おい、起きろって」

「……マジか」


 目の前には、着替えを済ませてベッドの横に立つヴィンス。そして私は、ベッドの中。

 二度寝して、ヴィンスの方が先に起きて、朝ご飯に遅れるなんて……笑えない。


「……お昼ご飯は私作る」

「別にいいぞ、俺やっても」

「いや、私やる」


 すっごく、恥ずかしかった。

 こんな生活でいいのか、と思いつつも……イケメンを前にして美味しいご飯を噛み締めた。教えた私よりも料理が上手になるってどうなのよ。

 だから料理が上手くなってきてしまっているヴィンスに対抗して、というわけではないけれど、デザートでも作ろうかとキッチンに立った。

 魔道具を手に入れたから、もう無限に牛乳も生クリームもある。まさか本当に出来るとは思わなかった。流石この船の無限シリーズだ。

 そして、キッチンの台に道具を並べようとしていたその時、後ろから声をかけてきた人物が一人。


「ナオ」


 真顔で私を呼んでいた。手に何かを持っている。

 それはタッパか?

 ……いや、まさか。何かやらかしたのか?

 不審になりつつも、見せてきたシステムウィンドウを覗くと……絶句した。


 ______________
 アイテム:魔法のタッパ
  固形食を入れるためのタッパ。
  乳製品専用。
  少量の固形食を入れ3日間冷蔵保存すると増える。
  量は無限大、賞味期限なし。
  雑菌などの心配なし。
  ただし、要冷蔵。
 ______________


 デジャヴった。

 マジですか。


「ナオ、ウチの冷蔵庫の中に入ってる固形乳製品は」

「ミックスチーズ」

「バターはいつなくなった?」

「……一昨日」


 遅かったぁぁぁぁぁ!! 一昨日見つかればよかったのに!!

 そうだよ、もうこれくらいしかないから半分こしてトーストしたパンに塗って食べようって言ったよ。それ言ったの私だよ。

 しかもタッパ3つ見つかったみたいだから、バターの分もあるよ!


「……すみませんでした」

「いや、賞味期限ギリギリだったからナオは悪くない。とりあえず、ミックスチーズ、入れるか」

「うん……」


 ミックスチーズは自宅の冷凍庫に入れてあったもので、こちらに持ってきていたものだ。実はチーズ好きだから取っておいたのだけど、増えるなら万々歳だ。パンに乗せてトーストしたり、オムレツに入れたりパスタに入れたりと大活躍してくれるから最高ね。

 そうして冷蔵庫にタッパ1つを収めた時、私は気が付いた。そうだ、そういえばそれがあった! と。


「ちょっと待ってて!」

「うぉっ!?」


 私はキッチンに置いていたノートを持って自室に走った。テーブルに置きっぱなしになっていたスマホを付けて……検索!!

 見つけたページを、殴り書きで写しキッチンに戻る。


「ヴィンスっっ!!」

「うぉ!?」


 勢い余って危うくヴィンスにぶつかるところだったが今はそれどころじゃない。


「作ろう!!」

「……バターか」

「うんっ!!」

「作れるのか」

「作れますっ!! たぶんだけど!!」


 私の手には、自宅から持ってきた洗ってあった空のペットボトル。そして、これには生クリームも必要だ。


「でも、生クリームの種類が分からないから成功するかどうか分からないけれど、やる?」

「そりゃやるだろ」


 即答だった。パンをトーストしてバターを乗せて食べた時ヴィンスはだいぶ気に入ってたみたいだから当たり前だろう。結構体力いるから、ヴィンスさんよろしくお願いします!


「じゃあこの中に冷やした生クリームを入れます」

「あとは?」

「そのままふたを閉めます」

「は?」


 他にも何かを入れるのだとばかり思っていたヴィンスは、そのままふたを閉めた私に真顔で視線を送ってきた。

 そもそも、何故ペットボトルに材料を入れているのかすら疑問だったらしいし、この容器は何だとまで思っていたみたい。この異世界にペットボトルはないらしい。プラスチックのタッパがあるのに、なんだかもったいない気もするな。


「そして、振ってください」

「どれだけ?」

「いっぱい」

「……マジかよ」

「代わりばんこにしよ」

「いや、俺やる。こういうのは俺の仕事だろ」


 あ、やりたいんだ。目が光ってる。よく分からない事をやらせることになるんだけど、興味津々な様子だ。

 さ、力強く振って頂きましょうっ!!


「はい、どうぞ」

「よっしゃ」


 めっちゃ気合いを入れて振り出したヴィンス。まぁこのあとホイップ状になるんだけど、そこからも振らないといけない。


「音がしなくなったぞ。もっとか」

「えっ早っ!?」

「そうか?」


 いや、さすがに早すぎやしませんか。流石身体能力の高いヴィンス様だ。


「じゃあ、もっと振ってください」

「もっと?」

「うん、もっと。もし中身が振れなかったら外に出て温めて。外真夏だからいけるでしょ」

「りょーかい」


 これ、絶対私一人じゃ中々出来なかったかも。これ結構重労働だよね。いや~一家に一台欲しいヴィンス様だわ。ありがとうございます。


「液体になったぞ」

「じゃあもうちょっと振って。それでおしまい」


 振り続けると、ホイップになり、その後分離して塊と液体になる。

 もう分離が始まっているみたいだから、私はハサミを持って待機だ。


「どうだ」

「うん、よさそう!」


 じゃあ、ペットボトルの口を開けて液体を取り出し、ペットボトルを切って塊を取り出す。


「よしっ、完成っ!」

「これで?」

「うん!」


 システムウィンドウで確認してみると……


 ______________
 食材:手作り無塩バター
  食用バター。
  牛乳から分離したクリームを練って固めた食品。
  賞味期限は2~3日程度。
  要冷蔵。
 ______________


 うん、成功みたい。どれどれ、とスプーンで少しだけ端を取り、一口味見をしてみたら……うん、バターだ。


「賞味期限が2~3日でギリギリだけど大丈夫だよね」

「冷蔵庫に入れておけばいいだろ」


 要冷蔵だから、ヴィンスが見つけてくれて洗ってくれた魔法のタッパに入れて、冷蔵庫に。

 冷蔵庫は大きいけれど、最近詰め込みすぎな気がする。卵ケースと卵パックに、畑で収穫出来たものも入れてるし……まぁ、向こうに大きな冷蔵庫もあるし、冷凍庫だってまだがら空きだから大丈夫か。

 これでバターが食べ放題になったら、いつも油で代用していたパンをバターで作ることが出来る。他にもお菓子作りや料理とかに使えるからもう引っ張りだこだ。大活躍してもらいましょう!


「こっちの液体は?」

「飲んでみる?」

「いいのか?」

「いいよ。あ、私の分も残しといてね」


 残った液体を一口飲んだヴィンスは……少し驚いていた。


「薄い牛乳みたいな味だな……」

「生クリームが分離したものだよ」

「へぇ……」


 ヴィンスの様子からして、この異世界には分離という言葉はあるらしい。説明しやすくてよかった。自分でもそこら辺はいまいちよく分かってないから。

 ヴィンスから残りをもらい一口味見をする。うん、私も初めて飲んだけど、これも好きかも。美味しい。

 バター作りって初めてだったけれど、結構楽しかったな。振ったのはヴィンスだけど。

 魔法のタッパのおかげでバターは無限大になったけれど、もう一回やってみたい気持ちもある。この薄い牛乳も好きだしね。今度は私が振ろう。頑張ります。
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