恋の御伽噺を異世界で

冬咲 椿

文字の大きさ
14 / 68
第一章 【2人の兄編】

目が覚めたら……空腹だった

しおりを挟む
イケメンが料理をしている光景は目の保養になった。歳が三十代前半でも見た目は二十代だしね。イケメンは健在だ。

もしも僕が料理をしてもこうはならないだろう。

だって今の僕って可愛い系の顔で髪も腰まであるからね。服装は男だけどドレスとか着たら女の子に間違えられると思う。

まあ可愛い系といっても言うほど可愛いってわけじゃないんだけどね。

「ノエル様、出来ましたが食堂で食べますか? それともご自分のお部屋で?」

白くて丸いお皿に盛り付けられた野菜と肉の炒め物。それを両手に持ち僕の前へやってきた料理長さんはどこで食べるのかと聞いてきた。

「ここで食べます! もう我慢できません!」

「でもさすがにテーブルがないと……あそこの部屋まで我慢できますか?」

そういって指差したのは厨房の奥にあるドア。

「あそこは何があるんですか?」

「休憩室ですよ。私やコックの人たちがお昼を食べるときにも使用します」

「ならすぐに行きましょう! もう限界です!」

催促すると料理長さんはにっこり笑って足早にドアへと向かう。僕はその後について行き、部屋の中へと入った。

中は中央に大きなテーブルと椅子が備えられ、壁沿いには小さな棚や着替え用のエプロンなどが置かれている。

ひとしきり観察し、一番近くの椅子へと座る。料理長さんは棚からフォークを取り出し、肉と野菜の炒め物と一緒に僕の目の前に置いた。

白くゆらゆらとした湯気と、食欲をさらに奮い立たせる匂いに喉を鳴らす。

フォークを手に取ると中央に突き刺し、すくい上げるようにしてそれを食べた。

口の中に広がる肉の旨味と、まだ若干シャキシャキとした食感の野菜がマッチしてとても美味しい。

空腹は最高のスパイスと聞いたことはよくいったものだ、と思った。

「ふふっ、美味しそうに食べてもらえて何よりです」

夢中で食べていて気がつかなかったが、いつの間にか料理長さんは僕の向かい側に座り、頬杖をつきながら僕のことを幸せそうな顔でじっと見つめていた。

「すごく美味しいです。すみません、朝早くに……そういえばこんなにはやい時間から何をしてたんですか?」

「調理のための下ごしらえを少し。あとは食材の確認と調味料の整理とかです」

「すごいですね。こんなに朝早くから」

「ええ。でもとてもやりがいがありますし、楽しいんです。何より、ノエル様のように美味しいと思ってもらえることが嬉しいです」

「僕も、クッキー作ったとき料理長さんに美味しいっていってもらえて、すごく嬉しかったです」

自分が頑張って作ったものを喜んでもらえるのって、本当にすごく嬉しいことなんだ。

「ふふっ、本当に見れば見るほどお話と聞いた人物像と違いますね」

「え? なんの話ですか?」

「失礼を承知で申し上げますが、メイドたちの間でノエル様はあまり良い印象はなかったです。それどころかその逆でした」

……あ、前世の僕か。まあそりゃメイドに向かって奴隷だ家畜だといっていればそうなるのも当たり前だ。

「でも実際に目にしてみると、話とは全くの逆でした。とてもお優しく素敵な方でした」

「そ、そんなに褒められると、恥ずかしいです……」

「そうして恥ずかしがる姿も、とても可愛らしいです」

可愛い、か。

昨日、レイヴン兄さんが僕をベッドへ押し倒した時、何度も何度も可愛いと言っていた。 

それが僕に向けられているのか、それともノエルに向けられているのかはわからない。

そもそも兄さんは僕とノエルを同じように見ているようだった。

……本当にそれで良いのかどうかは分からないけど、兄さんに認められるならそれでも良いと思った。

もちろん、レイヴン兄さんを恋愛対象とは思っていない。いくら僕がゲイだからと言っても、相手は実の兄なんだ。

ただ、そばにいていいよって、言ってほしい。

「どうしました? 難しい顔をしてますよ?」 

「え?」

「何か悩みでも? ……良ければ、聞かせてもらえませんか? 誰かに相談すれば、気持ちも楽になると思いますよ」

料理長さんが優しく微笑みながらそう言った。

「……それじゃあ、聞いてもらえますか?」

僕のつぶやくような小さな声に、料理長さんは笑顔を崩さず__。

「はい。私で良ければ」と言ってくれた。
しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

転生×召喚

135
BL
大加賀秋都は生徒会メンバーに断罪されている最中に生徒会メンバーたちと異世界召喚されてしまった。 周りは生徒会メンバーの愛し子を聖女だとはやし立てている。 これはオマケの子イベント?! 既に転生して自分の立ち位置をぼんやり把握していた秋都はその場から逃げて、悠々自適な農村ライフを送ることにした―…。 主人公総受けです、ご注意ください。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

転生したが陰から推し同士の絡みを「バレず」に見たい

むいあ
BL
俺、神崎瑠衣はごく普通の社会人だ。 ただ一つ違うことがあるとすれば、腐男子だということだ。 しかし、周りに腐男子と言うことがバレないように日々隠しながら暮らしている。 今日も一日会社に行こうとした時に横からきたトラックにはねられてしまった! 目が覚めるとそこは俺が好きなゲームの中で!? 俺は推し同士の絡みを眺めていたいのに、なぜか美形に迫られていて!? 「俺は壁になりたいのにーーーー!!!!」

BLゲームの脇役に転生したはずなのに

れい
BL
腐男子である牧野ひろは、ある日コンビニ帰りの事故で命を落としてしまう。 しかし次に目を覚ますと――そこは、生前夢中になっていた学園BLゲームの世界。 転生した先は、主人公の“最初の友達”として登場する脇役キャラ・アリエス。 恋愛の当事者ではなく安全圏のはず……だったのに、なぜか攻略対象たちの視線は主人公ではなく自分に向かっていて――。 脇役であるはずの彼が、気づけば物語の中心に巻き込まれていく。 これは、予定外の転生から始まる波乱万丈な学園生活の物語。 ⸻ 脇役くん総受け作品。 地雷の方はご注意ください。 随時更新中。

悪役の僕 何故か愛される

いもち
BL
BLゲーム『恋と魔法と君と』に登場する悪役 セイン・ゴースティ 王子の魔力暴走によって火傷を負った直後に自身が悪役であったことを思い出す。 悪役にならないよう、攻略対象の王子や義弟に近寄らないようにしていたが、逆に構われてしまう。 そしてついにゲーム本編に突入してしまうが、主人公や他の攻略対象の様子もおかしくて… ファンタジーラブコメBL シリアスはほとんどないです 不定期更新

病み墜ちした騎士を救う方法

無月陸兎
BL
目が覚めたら、友人が作ったゲームの“ハズレ神子”になっていた。 死亡フラグを回避しようと動くも、思うようにいかず、最終的には原作ルートから離脱。 死んだことにして田舎でのんびりスローライフを送っていた俺のもとに、ある噂が届く。 どうやら、かつてのバディだった騎士の様子が、どうもおかしいとか……? ※欠損表現有。本編が始まるのは実質中盤頃です

宰相閣下の絢爛たる日常

猫宮乾
BL
 クロックストーン王国の若き宰相フェルは、眉目秀麗で卓越した頭脳を持っている――と評判だったが、それは全て努力の結果だった! 完璧主義である僕は、魔術の腕も超一流。ということでそれなりに平穏だったはずが、王道勇者が召喚されたことで、大変な事態に……というファンタジーで、宰相総受け方向です。

龍の寵愛を受けし者達

樹木緑
BL
サンクホルム国の王子のジェイドは、 父王の護衛騎士であるダリルに憧れていたけど、 ある日偶然に自分の護衛にと推す父王に反する声を聞いてしまう。 それ以来ずっと嫌われていると思っていた王子だったが少しずつ打ち解けて いつかはそれが愛に変わっていることに気付いた。 それと同時に何故父王が最強の自身の護衛を自分につけたのか理解す時が来る。 王家はある者に裏切りにより、 無惨にもその策に敗れてしまう。 剣が苦手でずっと魔法の研究をしていた王子は、 責めて騎士だけは助けようと、 刃にかかる寸前の所でとうの昔に失ったとされる 時戻しの術をかけるが…

処理中です...