隣の席の池田君は絶対に異世界帰りだと思う

睦月

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「死んだ…?リックが…?な、なぜ…」
「王家への反逆罪で本日の朝刑が執行されました。彼の名誉のため、民衆には厄災討伐の際の死亡と知らせる予定です。」
「反逆って…リックは何をしたの?まさか昨日のあれで?あれだけで?」
「…貴方が彼の身を案じていたのでご報告に伺ったまでです。それでは失礼します。」
「そんな…」

リックが死んだ。嘘だ、そんなはずはない。だって昨日まではあんなに元気で、一緒に旅をして…

「…そう、うそ、嘘に決まってる…だから会いに行こう。」

私は姿隠しの魔法を使って部屋を抜け出した。扉の前で私を閉じ込める護衛の兵士達は魔法で眠らせた。当てもなく彷徨っていると、一際豪奢な一角に迷い込んでしまった。リックの死を報告しに来た宰相を名乗る男を見つけたので、そいつの後を付ける。男が入って行ったのは王の執務室。誰に咎められることなく、私もその部屋に侵入した。

「…報告を。」
「はっ。勇者リックは本日未明に処刑され、死亡を確認しました。」
「うむ。」
「彼は平民の出。不審な死に声を上げるものなどいないでしょう。」
「強い戦力は国に脅威をもたらす。早めに屠れて良かった。して聖女は。」
「はい。勇者の死を知らせたところ、信じきれぬ様子でしたが、いずれ理解するかと。今後は陛下に物申す気にもならぬでしょう。」
「聖女の血は残せ。アレは有益だ。」
「かしこまりました。」



「…あはは、あはははは。全部無駄だったんだ。あんなに頑張ったのに、2人で、この国を守ろうって、そう言ってたのに、全部全部、無駄だったんだ。この国を一生懸命守ってきた私たちがバカだったんだ。あは、あは、あはははは」

私は姿隠しの魔法を解き、姿を現した。人払いしたはずの執務室に突然現れた聖女に、王も宰相も驚いて目を丸くしている。私は構わず笑い続けた。

「あははははは」
「近衛!この者を捕えよ!」
「あはははははは!兵士は来ないよ、みんな眠らせたもん。ねえ、今の話ほんと?国の脅威だからって理由だけでリックを殺したの?ねえ?彼が平民だから?平民の命はそんなに軽いの?ねえ?ねえ?」
「ぶ、無礼者!陛下の前で何を!」
「ねえ、リックはどうやって殺されたの?貴方達にも同じことやってあげる。私のことひ弱な聖女だと思ってた?聖なる加護と回復魔法しか使えないか弱い聖女だと思ってた?リックが私を守るためにそう報告してたんだよね?信じた?平民に騙されてどんな気持ち?ねえ?ねえ?ねえってば!!!!」
「ひっ」
「ねえ、首を切ったの?首を絞めたの?手足を切り落としたの?ふたつに引き裂いたの?焼いたの?水に沈めたの?教えてよ、同じこと貴方達にするんだから、どうやってリックを殺したの?ねえ?ねえ?ねえ????」


ーーーーーーーーー


「…そうして私は創造魔法を使って帰還の魔法陣を召喚の魔法陣の隣に描き、それを一人で起動して無事帰ってきましたとさ。」
「えっえっちょっとまって。」
「どうしたの?」
「最後だいぶ飛ばさなかった?あれ?王様達どうなったの?」
「…そうして私は元の世界に無事帰って来ましたとさ。」
「ねえ!!」
「それより300年後のトイレどうなってた?私の時代はオマル。」
「…ボットン。」
「ちょっと進化したんだね。私トイレが嫌すぎて膀胱と直腸に溜まった排泄物を分子レベルにまで分解することでトイレに行かなくて済む魔法を開発したの。それで2年間、トイレ行かなかったんだ。」
「すごい!!って話逸らさないで!?」
「どうしたの?記憶消去魔法かけてあげようか?」
「やめて!!いいよ、分かったよ。大体の話は分かったから良いよ。相楽さんも大変だったんだね。」
「うん。王族ってクソだよね。」
「それは同意。」


ーーーーーーーーー


「…ごめん、池田君。」
「え?」
「池田君が異世界に召喚されたのは、300年前の私達が厄災を倒しきれなかったから。私の力が足りなくて、封印が解けてしまった。そのせいで池田君を巻き込んでしまってごめんなさい。」
「いやいや、そんなの相楽さんのせいじゃないよ!そもそも異世界の人に頼らなきゃ自分達の国も守れないリンゲル王国が悪いんだし!それに、俺も厄災を取り逃してこの世界に連れて来てしまった…」
「…池田君は、これからどうするの?」
「厄災を取り逃したのは僕なんだから、ちゃんと責任持ってあいつを殺すよ。」
「…私は…」
「さ、相楽さんが無理することはないよ。あっちの世界で辛い思いをして、もう戦いたくないんじゃない…?」
「…でも、聖なる加護がないと…」
「あいつも結構弱ってたし、息の根を止めるだけなら僕だけでもできるよ、きっと。多分…うん、大丈夫、だと思う…」
「頼りなっ」
「うう…」

私は俯いていた顔を上げて改めて池田君の事を見る。意思の強そうな眼で私のことを真っ直ぐ見つめる池田君。少年っぽさが残る顔立ちも、それに不釣り合いなゴリゴリの筋肉も、リックとは似ても似つかない。なのに、その瞳を見ていると彼の事を思い出す。もしかしたら勇者特有の瞳なのかもしれない。
私の勇者は死んだ。そして、厄災に一人で挑めば多分この勇者もいずれは死ぬ。

「…私も手伝ってあげる。」
「え?」
「金髪クソ女オリビアみたいに、遠くからで良ければ、援護してあげる…」
「口悪!?で、でも、正直助かるよ、ありがとう…本当は聖なる力がないと厳しいかなって思ってたんだ。」
「うん…」

昔のことを思い出してすっかりテンションが落ちてしまった。二度と思い出したくない嫌な思い出だったのに。リックの事を思い出すとまだ涙が溢れてくる。だから忘れようと…

ポンポン

誰かが私の頭を優しく撫でる。いや誰かって、池田君しかいないんだけど。でもそれはいつも頭を撫でてくれたリックの手つきにそっくりで。



私は少し泣いてしまった。




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