隣の席の池田君は絶対に異世界帰りだと思う

睦月

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「そうと決まればさっさと厄災を殺そう。」
「あ、うん。切り替え早いね。」
「池田君も早く日常に戻りたいでしょ?やっぱり日常っていいな…って言ってたもんね。」
「聞いてたの!?恥ずかしい!」
「私もこの忌々しい力なんて二度と使いたくないし、さっさと屠って終わらそう。腹いせにたくさん痛めつけよう。二度と復活しようと思わないくらいにズタズタに心を折ろう。」
「あ、う、うん…やる気が出たみたいで良かった。」

そうと決まればちゃちゃっと終わらせちゃおう。どうせ今厄災の野郎はヒトの欲望を糧に回復中だろう。弱ってるうちに殺しちゃおう。

『広範囲索敵:対象 厄災』

私は無尽蔵の魔力にものを言わせてこの町全体に索敵魔法を張り巡らせた。隣で池田君が唖然としている。何驚いてるの?君のその筋肉に比べたら全然大した事ないよ?

「…見つけた。やっぱり、ヒトの欲望が集まる所にいるのね。」
「もう見つけたの!?ど、どこに…」
「学校。」
「え?」
「私たちの学校にいるよ。」


ーーーーーーーーー


ビュン

「きゃ、すごい風。スカートがめくれちゃう!」

私の魔法で姿を隠した池田君がものすごいスピードで走る。彼の通った後は強風が吹き荒れ、どこの萌えアニメだよ、という感じで女子達のスカートをめくっていく。

「池田君…君って人は…」
「いやいや、不可抗力だよ!?それに僕には見えてないし!」
「そんな事言って…私の太ももの感触も楽しんでるんでしょう。手汗がすごいもん。いやらしい!」
「ちょ!?そんな事ないよ!?女の子とこんなに密着するなんて緊張しちゃっただけだよ!ほんと、やましい気持ちはないんだよ!それにこれが一番早いからって提案したのは君だろ!?」

今私は池田君の背におぶられて風のように移動しています。そう、リックとの旅の時も、急ぐ時はいつもおんぶしてもらっていた。懐かしいなあ。あの広くて暖かい背中を思い出す。池田君の背中は燃えるように熱くて壁のようにでかい、デカすぎる。おんぶしてもらってはいるけど、私の足はその広すぎる背中のせいでカエルのように開きっぱなしだ。挟めない、デカすぎて挟めない。池田君のゴツゴツした手が私の太ももを支えてくれていなかったら、ズルズルと落ちていってしまうくらいには不安定だ。異世界にいたくせに女慣れしていないのか、この触れ合いに池田君はガチガチに緊張している。

「着いた!着いたよ!さあ降りて!」
「お疲れ様。」

いろんな意味で汗だくの池田君がその背から私を下ろす。なんか太ももが湿っている。手汗だ。さすが勇者、汗の量も半端ないぜ。しかしデリケートな問題だから、指摘はしないであげる。顔を赤くする池田君はなんか可愛い。

「あ、そうだ。忘れてた。」
「え?」
「ちょっと服脱いで裸になってよ。」
「ひょえ!?」
「ほら早く。パンツもね。」
「な、な、ななななな」
「付与魔法かけてあげるから。それ勇者装備じゃないでしょ?魔法筒抜けじゃん。」
「あ、ああ。そういうこと…じゃあ、学ランの上だけで…」
「だめ。サイズ調整と自動修復もかけてあげるから。それミチミチで動きにくくない?どうせパンツも食い込んでるんでしょ?そんなんじゃ全力を出せないよ。」
「あう、確かに食い込んでるけど、動きにくいけど…」
「ほら、早く。ほらほら。」
「そ、それは脱がないでやってもらうことは出来ませんかね…流石にパンツはちょっと…」
「できるよ。」
「できるの!?」


ずっと気になっていた学ランミチミチ問題も無事解決したので厄災の追跡を再開する。

「屋上にいるよ。」
「戦いやすい所にいてくれて助かった。とにかく上にあがろう。」
「うん。」

私達は階段を上り、屋上に続く扉の前にいる。

「相楽さんは後ろに下がってて。君の事は俺が絶対に守るから。」
「っ!う、うん。」

勇者モードに入っているのか、口調がカッコいい。なんだろう、彼に守ると言われると絶対に守ってくれそうな感じがする。だってほら、彼の後ろに立てばそのデカすぎる背中のせいで前が何も見えない、見えないよ、見えないよ池田君!

池田君は聖剣を片手にズンズンと進む。私も視界は学ランで真っ黒だけど、杖を握って後ろをついていく。

「ふべっ」

池田君が突然立ち止まったから鼻をぶつけてしまった。本当に硬い。岩が服着てるくらい硬い。鼻血出てないかな、大丈夫かな、てか池田君なんで止まってるの?

「あれえ~、武田じゃん、何してんのー?」
「い、池田です…」

池田君が誰かと話している。厄災は?私はひょこりと池田君の背中を避けて前を覗き見る。

「えー、ダサメガネもいんじゃん、なに?付き合ってんの?うけるー。陰キャ同士お似合いじゃん。」
「…森野さん。」

目の前にいたのは、金髪、厚化粧、短いスカートに長いネイルのこの田舎に似つかわしくないザ、ギャル。いや、逆に似つかわしい。だってなんか古い。一昔前のギャルって感じ。多分もう都心にはこういうのはいない。
私が高校一年の時この学校に転校して、それから夏休みまでの一学期はこいつに虐められていた。都会から来たくせにダサいという理由で。田舎者のコンプレックスだよね、そっちの方がダサいわ。その後私は異世界に行ってクソみたいな大冒険してたからすっかり忘れてた。帰ってきてからはしばらく病んでたし、認識阻害魔法で存在感を限りなく消してたから、それ以降虐められる事はなかったけど。

池田君も彼女の事を苦手としているようだ。受け答えが非常にオロオロしている。

「てか何持ってんのそれー?コスプレ?うけるんだけど!キモすぎ。」

森野は私たちの持つ剣と杖を指差して笑う。キャハハハと、非常に耳障りだ。早くこいつを黙らせよう。

「池田君。」
「あ、な、なに?」
「この女の中にいるよ。厄災。」
「え!?」

弱った厄災はどうやら人に取り憑いてその力を回復させているようだ。確かにこの性悪女に取り憑けば、欲望という名の餌は食べ放題だ。

「どうしよう?関係ない人を切るなんてできないし…それに女性に暴力も…」

フェミニストの池田君は絶望の表情を見せている。厄災も良く考えている。無関係の人、しかも女性に取り憑けば勇者も手を出せないということも分かってやったのだろうか。

「何わけわかんないこと言ってんの?今ここ私が使ってんだから、さっさと消えてよ!」
「で、でも…」
「池田君、今厄災の力は眠ってる状態みたいだよ。この女に闇の力は使えない。だから早くやっつけて。池田君なら、トマト潰すくらい簡単なことでしょう?」
「だからそれが怖いんだって!僕にはできないよ、無関係の人を殺すなんて…」
「しょうがないなあ。」
「さっきからあんた達何わけわかんないこと言ってんの?」

私はすっと池田君の前に出た。

「さ、相楽さん?」
「動けない池田君に代わって、ひ弱な聖女が頑張るね。」
「え!?」
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