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幼き聖女について
聖女とは
しおりを挟む便りを読み終えれば、すぐに教会に向かい、シスターエボラに報告した。
「まぁ…聖女様ですか…?」
「うむ。先程、光の精霊からの便りがあった」
「まぁまぁ…何と喜ばしい事でしょうかっ」
シスターエボラは優しい笑みを浮かべていた。
教会関係者にとって、聖女という存在は女神に次いで重要視している存在だ。
当たり前だが、聖女とは聖なる乙女であり、神や精霊達から愛された存在。
生まれながらの聖なる使徒そのものであると言えるからだ。
「ぜひ機会があるのでしたら、教会の方に足を運んでいただきたいですねぇ」
「…まぁ、それは相手次第だがな……勝手に聖女扱いされて困っておるかもしれんしな…」
「…そういえば、聖女ってどう決められてるんですか?」
「…ん…何だ、知らんのか?」
「はい……」
「…王よ、ユーリさんが知らないのは無理もないかもしれません」
「…というと?」
「聖女についての周知は、基本教会が行っています。王家の方や関係者ならともかく…民からすれば、教会がいつのまにか見つけてきた存在というイメージが強いかと…」
「…なるほど……」
確かに…民からすれば、自分たちが探すわけではないのだから見つけ方なぞ気にしないか…
「…見つけ方の前に条件についてだ。ユーリよ、聖女として認められるためには1つ条件があってな………神や精霊に認められ、愛される事が必要なのだ」
「…愛される…ですか?」
「あぁ。聖女とはすなわち、神や精霊達から愛される清らかな乙女の事をさす。これは知っているな?」
「…なんとなく…ですが…」
「我が王…どちらかと言えば能力面のほうが…」
うむぅ……それもそうか…
「……聖女は、回復術師では使うことができない上位の回復魔法や結界を使うことができるのは知っておるか?」
「あっ…それならっ」
「…ほっ……では何故、回復術師より上位の魔法を使えると思う?」
「…えーと……才能があるから?」
「…回答に困るが………まぁそれもあるだろうが、実際は神や精霊の加護があるからだ」
「加護?」
「魔法とは自分の中にある魔力を練り、火や水等に変換した力をさすが…変換に関しては万能ではなく、自分1人の魔力と技量では変換する力に限界がある…身に覚えがあるであろう?」
「うん」
「変換する力には、魔法に関する知識や適した魔力の質、繊細な技術等の要素が必要となるが…基本1人で行う。何故ならば、1番簡単だからだ」
「…簡単?…そういえば昔……パーティーメンバーだった賢者が、誰かと魔法を一緒に唱えると怪我するからやらないようにって言ってたような…」
「…なるほど、確かに賢者ならば知っていて当然か……簡潔に言うが、他者と一緒に唱えた場合、99%の確率で失敗する」
「…えっ…」
「しかも暴発したりして、最悪死ぬ可能性もあるな」
「そ…そんな危険なのっ…!?」
「あぁ…一見協力作業のように見えるが、全く異なるのだ。例えるなら……十分な空間が無い所で複雑なパズルを組み立てる…それも同じ箇所を複数人でな」
「…ぅっわぁぁ…」
イメージ出来たのか、ユーリは嫌そうな表情を浮かべた。
俺だって、そんな不可能に近いことやりたく無いからな…
「だが、もちろん見返りはある。過去に成功した際には、初級魔法の威力が倍になっていたらしい」
「…倍……何だか苦労した割には…」
「確かに、初級魔法を倍にするために多大なる苦労をするなら割に合わんが……だが、使い方次第だと思うぞ。上位魔法の威力をあげれるならな…まぁ夢がある話だ」
「……じょ…上位魔法のっ…倍っ…」
イメージできたみたいだな…
ユーリは長いこと戦いの場にいたからな…
想像もしやすかろう。
「一発が高威力の魔法だからな……それが倍になり多段打ちできるなら…ある意味最強の兵器として扱えるかもな」
「………」
「…それは怖いですねぇ…」
「…ふっ…まぁだが、そんな甘い話はないのだ。複数人で発動する場合、難易度がものすごく跳ね上がる……さらに上位の魔法ともなると、もはや魔力を込めようとした段階で暴発するほどにな…」
「…発動が簡単な初級魔法だから、発動することができたのですね…」
「ああ、その通りだ。…で、なんでこの話をしたのかの説明になるのだが……聖女はこの“複数人による魔法の発動”を擬似的に行うことが出来るから、上位魔法を簡単に使えるのだ」
「…えっ…でも、さっきは基本できないって」
「通常ならな。だが、神や精霊の加護があるなら話は別だ。人の手では到達できぬ存在達からのサポートが入るのであれば、その身に過ぎた技すら使えてもおかしくはない」
つまり、聖女だから上位魔法を使えるのではなく、神や精霊からのサポートがあるから結果的に上位魔法を使えるわけだ。
…結果だけしか見ないのであれば同じことだが…
「でだ、教会がそんな聖女を見つけられるのは、神もしくは精霊から知らせが入るからだ」
「知らせですか?」
「あぁ。教会では神託と言ったかな?」
シスターエボラに問いかけるとうなずいた。
「はい、その通りです。人では聖女様をいちから見つけられませんから」
「確かに…聖女だからといって、見ただけでわかるものでもないからな」
能力や特殊な力を持つことができるだけで、見た目は変わらんし…
「…なるほど…」
「…そういえば……聖女様が誕生したと言う知らせは、最近聞きませんでしたね…」
ミランダは首を傾げながら呟いた。
…ふむ…
確かに長いこと聞いたことがなかったが…
「まぁ、そんな時もあるだろう。確定で現れる存在ではないのだからな…100人産まれようが1000人産まれようが、聖女として認められねば0人なのだからな」
「…はぁぁ……凄い厳しい試験ですね…そりゃぁ、勇者パーティーに聖女がいなかったのも肯けます」
「はっ、厳しさで言えば最高基準の1つだろうよ……しかし、意外だな。聖女は数は少ないが“それなり”にいるはず……モンスター討伐の精鋭部隊である勇者パーティーにいなかったというのもおかしな話だな…」
「…あっいえっ、探してはいたみたいですよ。ナーレス王……あっ、いや。元か……」
「いや、ナーレス呼びで構わん」
「えっ…?。…は…はいっ……と言っても、探していたのはナーレスじゃなくて宰相の方なんですが……」
「…ほぅ」
「宰相は、勇者パーティーならば聖女は必須だと度々ナーレスに提案していました。…ただ、当の本人が、重症になどなる事はないのだから聖女でなくても僧侶か回復術師で十分だとつっぱねてたらしくて…」
「……怪我した事ないのか?」
「…いや…あるはずなんですがねぇ……それに、重症にもなった事ありますし……まぁ、大抵の戦いには勝っていましたから怪我なんて事実は埋もれていたのかもしれませんが…」
「……」
何ともまぁ……
どのような考えでいたかは知らんが…勇者パーティーは重要な位置づけだと本当に理解しておらんかったのだな…あの若造…
回復術師や僧侶が弱いというつもりはないが、何事にも適した役割が存在する。
勇者パーティーの目的は、魔王もしくは自然界のバランスを崩す力を持った存在を討伐する事だ。
当然、戦う相手によってはそれ相応の傷を負うことだってありえる…回復術師や僧侶では癒せないレベルのな…
ユーリも、少ないが重症にはなったことがあると言っておるし…
だからこそ、上位の回復魔法を簡単に扱うことができる聖女が必要になってくるのだ。
仮に、勇者パーティーが負けるようなことがあれば、多くの国がモンスターの存在に怯えながら暮らすことになるだろう…
そうなれば、国家間の貿易はできんくなるし、全て自分達で守らねばならなくなる…
つまり、勇者パーティーがいなくなるというのは大きな損失につながるのだ。
…だからこそ、勇者パーティーの存在をカードとして提示すれば、教会側もおいそれと無視はできんというのに……まぁ後の事は、交渉人同士の能力によって決まるが…
宰相には、聖女の1人くらいならば容易に引き込める算段があったのだろうな。
だが、それも自分のトップに潰されたわけだが…
「…後継者の育成というのは、商人だろうと兵士だろうと王であろうと必要だという事だな…」
「…あはは……」
「…我が王よ。精霊からの便りには誰が聖女に選ばれたかは書いていなかったのですか?」
「うむ……既に産まれてはおるようだが…特徴らしき特徴は書いてなか……いや…そういえば…」
「何かヒントでも?」
「…遊んだという記載が何回かあったからな………もしかすると子供…今も遊んでいるやも…」
「…探しますか?」
「……」
「…王様?」
「…いや、止めておこう……すまないが、シスターエボラ…今回の話は、他言無用かつこれで終わりにしてほしい。…聖女と知らずに済むならそのままにしておきたい…」
「私は構いませんよぉ。全ては王の御心のままに…」
「…いいんですか?」
「えぇ。聖女様には、お会いしたい気持ちはありますが…だからといって無理に会うものでもありませんし……それに、“聖女様として活動”なさるなら、必然的に表舞台に現れる…ですよね、王よ」
にっこりと笑顔を浮かべる彼女の顔を見て悟った。
どうやらこちらの考えはお見通しのようだ。
「…すまんな」
「いえ、お気になさらず」
まったく…本当に頭が上がらん…
…聖女と言うことが明らかになれば、多少なりとも環境が変わる。
…それが本人にとって良い事ならいいが…
……少なくとも、まだ自分の道を決めれない子供だった場合、悪影響に繋がりかねんからな…
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