お前の辞書に自重って文字を加えてくれないかな!?

かむかむ

文字の大きさ
9 / 107
日常

第7話 消毒が必要

しおりを挟む
 衝動のままに肩を掴み、上半身だけ起こしていた男の体を押し倒した。意外と抵抗はなく、あっさりと旭陽の体の上に乗り上げることに成功する。
 見下ろしてやれば、そこで漸く男の眉が跳ねた。

「触って欲しいんならさァ、はっきり言ってみろよ。気が向きゃ愛でてやるぜ?」
 嘲るように言って唇を歪め、俺の顎下に指の背を滑らせてくる。

 俺以外の匂いをつけた手で。
 他の男に、触れた、手。


 旭陽の手を掴み、口元に引き寄せる。
 牙を触れさせれば、小さく肩が震えたのが見えた。
 黄金の瞳が僅かに揺れる。一瞬だけ、瞳の奥に戸惑いとも躊躇いとも見える揺らぎがちらついた。

 あまりにも傲慢な態度が変わってないから、何も覚えてないのかと疑ってたけど……それはなかったか。
 ちゃんと覚えているらしい。俺に噛まれた結果、どうなったのか。
 突っ込まれて散々イかされて、出るものがなくなっても泣きじゃくってもまだイき狂わされ続けて、最後は潮を吹いて気絶したってことを。

「違うだろ、旭陽。お前は酷くしないでって俺に乞わなきゃいけない立場だ」
「……は。おれに、お前の慈悲を乞えって?」
 相手の高慢な笑みを思い出しながら唇を歪めてみせると、一瞬沈黙した旭陽が鼻を鳴らした。憎たらしい仕草に眉が寄る。

 着せていた服に手をかけても、抵抗はなかった。
 この間とは違い、今日は下だけでなく上の服も剥いでいく。
 下半身同様、上半身にも以前にはなかった多くの傷跡が刻まれていた。
 思わず手を止めれば、旭陽が怖いならやめとけよと言わんばかりに喉を鳴らした。……やはり馬鹿にされている。

 高みからの見下しに煽られて、自分より太い手首を掴んだ。

「っン……」
 俺以外に触れていた指に舌を押し付ければ、肩を揺らした旭陽が小さく声を零した。
 まだ触れただけなのに、随分と敏感だ。催淫効果が切れても、一度あれだけ長時間絶頂に浸される経験をしたことで、全体的な感度自体が上がったのかもしれない。
 もしそうなら……俺の行為が、こいつの体に確かに刻まれてるってことだ。結構嬉しいかも。

 不愉快に満たされていた胸内が少し空くのを感じながら、指の先から背へと丹念に濡らしていく。
 振り払おうとはしてこない手を、一応俺の顔の高さで掴み固定させて、自分の空いている手は胸元から下肢へと素肌を撫で下ろしていく。
 指腹に歯を当てると、眼下の喉仏がひくりと震えた。

「は、ぁ……う……ん……っ」

 浅黒い肌の味に夢中になって、全ての指に舌を這わせていった。
 大人しく俺に手を預けている旭陽は、時折吐息を零しながらじっとしていた。
 俺の歯が軽く肌に触れたり、指の間の皺に舌を押し込んだ時は、軽く顎を持ち上げて身動ぎする。
 俺には気持ち良さを逃がそうとする仕草に見えた。

 足の付け根に触れれば、僅かに腰を引いた男の呼吸が浅くなる。
 先日の行為中、ここも噛んで血を飲んだ。

「っふ、ァ……ッい、つまで、犬みてえに舐め回してんだ……っン、ん……ッ」

 明らかに感じておきながら、旭陽はあくまでも俺を揶揄する態度を崩さない。
 むっとして舐めていた指に吸い付き、掌にまで俺の唾液が伝っている手を離して逆の手首を掴む。
 そちらに俺が牙以外の歯で噛み付いても、堪えるように片目を歪めた旭陽はやっぱり抵抗しなかった。

 すっかり俺の唾液塗れになった両手を解放すれば、手はそのまま旭陽の胸元に落ちていった。
 もう一度掴み直し、頭上に男の両手を引き上げて手の甲同士をくっ付けさせる。
 改めて見ると、長い指は微かに震えていた。

 怖がっているようには見えないから、これは快感からきている震えだろう。
 つっても性感帯でもない場所を舐め回して、ちょっと歯型を付けただけだぞ? 血は飲んでない。
 催淫効果もなしでそれって、お前一回で仕込まれすぎじゃないのか。
 そんな感じやすくなってて大丈夫なのか。

 うっかり心配してしまいながら、ベッド柵に両手を押し付ける。
 指を滑らせれば先日と同じ太さと重さの手枷が出現して、褐色の肌を覆い隠した。
 先日かなり手も足も痛めていたようだったから自由にさせていたが、そんな気遣いをするような関係でもなかったな。
 まだ治っていない手首にまた重すぎる枷を嵌められて、痛みに旭陽が頬を歪めた。
 足は……まあそのままでいいか。

「またヤんのかよ」

 何でもないような口振りで軽く聞かれる。
 指で感じておいて、何でこんなに尊大な態度が取れるんだ、こいつは……

 さっさと突っ込んでやろうと思ったけど、どうにか嫌がる顔が見たくなってきた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

超絶美形な悪役として生まれ変わりました

みるきぃ
BL
転生したのは人気アニメの序盤で消える超絶美形の悪役でした。

弟勇者と保護した魔王に狙われているので家出します。

あじ/Jio
BL
父親に殴られた時、俺は前世を思い出した。 だが、前世を思い出したところで、俺が腹違いの弟を嫌うことに変わりはない。 よくある漫画や小説のように、断罪されるのを回避するために、弟と仲良くする気は毛頭なかった。 弟は600年の眠りから醒めた魔王を退治する英雄だ。 そして俺は、そんな弟に嫉妬して何かと邪魔をしようとするモブ悪役。 どうせ互いに相容れない存在だと、大嫌いな弟から離れて辺境の地で過ごしていた幼少期。 俺は眠りから醒めたばかりの魔王を見つけた。 そして時が過ぎた今、なぜか弟と魔王に執着されてケツ穴を狙われている。 ◎1話完結型になります

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

お兄ちゃんができた!!

くものらくえん
BL
ある日お兄ちゃんができた悠は、そのかっこよさに胸を撃ち抜かれた。 お兄ちゃんは律といい、悠を過剰にかわいがる。 「悠くんはえらい子だね。」 「よしよ〜し。悠くん、いい子いい子♡」 「ふふ、かわいいね。」 律のお兄ちゃんな甘さに逃げたり、逃げられなかったりするあまあま義兄弟ラブコメ♡ 「お兄ちゃん以外、見ないでね…♡」 ヤンデレ一途兄 律×人見知り純粋弟 悠の純愛ヤンデレラブ。

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

【完結】白豚王子に転生したら、前世の恋人が敵国の皇帝となって病んでました

志麻友紀
BL
「聖女アンジェラよ。お前との婚約は破棄だ!」 そう叫んだとたん、白豚王子ことリシェリード・オ・ルラ・ラルランドの前世の記憶とそして聖女の仮面を被った“魔女”によって破滅する未来が視えた。 その三ヶ月後、民の怒声のなか、リシェリードは処刑台に引き出されていた。 罪人をあらわす顔を覆うずた袋が取り払われたとき、人々は大きくどよめいた。 無様に太っていた白豚王子は、ほっそりとした白鳥のような美少年になっていたのだ。 そして、リシェリードは宣言する。 「この死刑執行は中止だ!」 その瞬間、空に雷鳴がとどろき、処刑台は粉々となった。 白豚王子様が前世の記憶を思い出した上に、白鳥王子へと転身して無双するお話です。ざまぁエンドはなしよwハッピーエンドです。  ムーンライトノベルズさんにも掲載しています。

処理中です...