お前の辞書に自重って文字を加えてくれないかな!?

かむかむ

文字の大きさ
53 / 107
二人

第51話 魔王と生贄の、先

しおりを挟む
 調査が一段落した頃、家臣たちの進言を受けた。
 贄様を、公式に民へお披露目しては如何ですか、と。

 今回、旭陽は直接勇者の元へ召喚魔法で呼び出された。
 何故俺を直接呼び出さなかったのかといえば、それは城にかけられている防衛魔法の効果であるらしい。
 「城に在るべき存在」として認識している魔族が多い存在は、城と共に膨大な防衛魔法の恩恵を受けられる。
 歴史上においてすら、城内で死者が早々出ていない理由の一端だ。

 民に「魔王城に存在すべき人間」として広く知られていれば、外部からの召喚魔法に影響を受けることはなかった。
 逆に言えば、このままだと万が一の際には再び同じ事態になりかねない。

 段々不機嫌になっていく俺に怯えながら、それでも家臣たちは代わる代わる説明を続けてくれた。
 別に彼らに怒っていたわけではないんだけどな。

 自分の知識不足に怒っている俺を見て、旭陽が変わりに是を告げた。
 それからは……うん。
 代々の魔王の正装があまりに似合わない俺に、衣装関連に携わる魔族が走り回ることになったりと忙しなかったんだが……

 旭陽は笑いすぎだったと思う。仕方ないだろ、今までも魔王が身長も体格もずば抜けすぎてたんだ。
 俺は人型の中では平均的――より多少低いくらいだ。
 おかしい、地球じゃ平均程度だったのに……体格はともかく。
 魔族、全員デカすぎないか?
 二メートル超え多すぎだ。


 昨日までは大騒ぎだったが、何とかギリギリ間に合った。
 特注品になった俺と、元から用意されていたお揃いの衣装を身に纏った旭陽が、並んでバルコニーに出る。

 ざわめいていた空間に、一瞬痛いほどの沈黙が広がる。
 無数の視線が俺と旭陽に突き刺さった。

 薄く笑って、重なっている俺たちの手を持ち上げて見せる。

「――魔王様!」
「伴侶様!」

 ざわ、と大きく群衆の波がうねった。
 誰かが上げた声に、他の民が音を被せる。
 喜びの声が空間を埋め尽くして、空気が揺れるほどの音になった。

「……おれはいつから晃の伴侶になったんだ?」

 鼓膜をびりびりと震わせる歓声の中、旭陽の低い笑い声だけははっきりと聞こえてくる。
 ああ、それは俺も今初めて聞いてちょっと驚いてるんだけどな。

 繋いだ手を下ろして、腰を抱き寄せる。
 衆前で密着した俺たちを見て、ぴたりと民の声が止む。

「どんな呼び方だって良いだろ。……旭陽が俺のものであることに、変わりはない」

 額をこつりと触れ合わせて、囁き声を返した。
 旭陽が肩を竦め、見慣れた皮肉げな笑みを浮かべる。

「……まあ、それもそうだな」

 否定ではなく、肯定が紡がれる。
 言葉が鼓膜に触れた瞬間、弧を描く唇を塞いでいた。

「ッん……ぁっ、ア……っ」

 ぶわりと、さっき以上の歓声が眼下の大衆から湧き上がってきた。
 見渡す限りを埋め尽くす民たちに祝福されながら、旭陽の口腔を味わう。

 低い声が上擦り、甘く喉を震わせる。
 俺の中に全て取り込んで、がくりと震えた腰を更に強く抱き寄せた。

「ッあ、さひ……っ」
「ンっ、ぅ、ふぁ……っ?」

 何度も口付けを交わしながら、頬に手を添える。
 長い睫毛が震えて、雫を滲ませた瞳が俺を見た。

「好き」

 舌を絡めながら、拙くなる声で囁く。
 黄金が甘く蕩けて、俺の舌先に吸い付いた。

「知ってる」

 背中に両腕が回って、旭陽から抱き締められる。
 幸福だけに満たされた胸を抱え、俺も強く抱き返した。

 うん。知ってた。
 お前がずっと俺の恋心を察して手を出してきてるって、昔から知ってた。

 酷いおとこだって思ってたけど、俺も十分酷いな。
 自分が優位になった時点で、すぐに俺がいないと生きられない体に作り変えようとしたんだから。

 でも旭陽は、受け入れてくれた。

「旭陽」
「ンだよ」
「すき」

 もう一度、蜂蜜のように甘ったるい声で囁く。

「……晃」
 すり、と項を撫でながら旭陽が俺を呼んだ。

「もっかい」
 俺と同じくらい甘い色を乗せた黄金が、擽ったそうに細まった。

「すきだよ、旭陽」

 求められるだけ何度でも囁いて、また唇を重ねた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

超絶美形な悪役として生まれ変わりました

みるきぃ
BL
転生したのは人気アニメの序盤で消える超絶美形の悪役でした。

弟勇者と保護した魔王に狙われているので家出します。

あじ/Jio
BL
父親に殴られた時、俺は前世を思い出した。 だが、前世を思い出したところで、俺が腹違いの弟を嫌うことに変わりはない。 よくある漫画や小説のように、断罪されるのを回避するために、弟と仲良くする気は毛頭なかった。 弟は600年の眠りから醒めた魔王を退治する英雄だ。 そして俺は、そんな弟に嫉妬して何かと邪魔をしようとするモブ悪役。 どうせ互いに相容れない存在だと、大嫌いな弟から離れて辺境の地で過ごしていた幼少期。 俺は眠りから醒めたばかりの魔王を見つけた。 そして時が過ぎた今、なぜか弟と魔王に執着されてケツ穴を狙われている。 ◎1話完結型になります

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

お兄ちゃんができた!!

くものらくえん
BL
ある日お兄ちゃんができた悠は、そのかっこよさに胸を撃ち抜かれた。 お兄ちゃんは律といい、悠を過剰にかわいがる。 「悠くんはえらい子だね。」 「よしよ〜し。悠くん、いい子いい子♡」 「ふふ、かわいいね。」 律のお兄ちゃんな甘さに逃げたり、逃げられなかったりするあまあま義兄弟ラブコメ♡ 「お兄ちゃん以外、見ないでね…♡」 ヤンデレ一途兄 律×人見知り純粋弟 悠の純愛ヤンデレラブ。

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

【完結】白豚王子に転生したら、前世の恋人が敵国の皇帝となって病んでました

志麻友紀
BL
「聖女アンジェラよ。お前との婚約は破棄だ!」 そう叫んだとたん、白豚王子ことリシェリード・オ・ルラ・ラルランドの前世の記憶とそして聖女の仮面を被った“魔女”によって破滅する未来が視えた。 その三ヶ月後、民の怒声のなか、リシェリードは処刑台に引き出されていた。 罪人をあらわす顔を覆うずた袋が取り払われたとき、人々は大きくどよめいた。 無様に太っていた白豚王子は、ほっそりとした白鳥のような美少年になっていたのだ。 そして、リシェリードは宣言する。 「この死刑執行は中止だ!」 その瞬間、空に雷鳴がとどろき、処刑台は粉々となった。 白豚王子様が前世の記憶を思い出した上に、白鳥王子へと転身して無双するお話です。ざまぁエンドはなしよwハッピーエンドです。  ムーンライトノベルズさんにも掲載しています。

処理中です...