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番外編

まあおれのもんだけど1

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「祭りィ?」

 告げられた単語を繰り返したおれに、豊かな緑が生い茂る腕を振ってトレントの長が肯定を返してくる。
 トレント――長寿の樹木が変質して産まれる一族。
 滅多に個体数が変わらねえ連中の魔力を森全体に行き渡らせる、五十年に一度の祭りが今日だという。

 いや、それは知ってんだわ。
 国の歴史書を流し見したときにあったからな。少しでも仲間の増える可能性を増やそうって試みだろ。
 だがバラバラに祈るだけで、祭りの形跡なんざひとつも見当たらなかった筈だが。

 あ? 新しい魔王とその伴侶に捧げるため、ねえ。
 ああ、それなら納得だ。

「……どうする? 旭陽」
「いいぜ。退屈だったら切り上げるがな」

 伴侶の響きに口籠もっていた晃が、おれに顔を向けてじっと見上げてきた。

 その判断をおもねってくるところ、気が向かなきゃ無視するおれをよく理解してるよなァ?
 眼下の赤く染まった頬を撫で、気分良く喉を鳴らす。

 なんでも押し付けてこようと無理をしていた男は、近頃はおれの意向を伺う場面も多くなっている。
 媚びでも軟弱さの現れでもねえ。単純に、自然体になってきてるだけだ。

 おれの希望を尋ねる時も、自分の意志を告げる時も、揺るぎなく同じ眼を向けてくる。
 信頼、執着。甘えや欲が混じった、決しておれ以外には向かない瞳。
 それが期待と気遣いを乗せて見上げてくる。

 はは、かーわいいよなァ。
 抉り出して食っちまいてえ。

「そっか。なら……森長、参加させてもらう」

 ま、やらねえけど。
 一時的であっても、晃の目がおれを映さねえなんざ気に食わねえ。

 腰に巻き付いてくる腕に引かれるまま、隣の体に身を寄せる。
 気まぐれに髪を掻き混ぜてやると、擽ったそうに目が細まった。

 ……はー。やっぱ食っちまいてえな。

 細い首を裏から支え、顔を近付ける。
 気付いた晃も顔を寄せてきて、おれが触れるよりも先に唇を塞がれた。
 塞がれるなり舌を伸ばして絡め取り、口腔に溢れ出した唾液を奪う。

 何度か嚥下していると、すぐに目をぎらつかせた男に主導権を奪われた。
 まあおれと晃だと、昔はともかく今は咥内の感度が違いすぎるからな。

「ッンっぁ、ふァッ! ぁッ、き……っ」
「っは……あさ、ひ、」

 平然ぶってる男の欲に染まった眼を堪能してえって気分は、口腔を荒らされている間中十分に満たされた。


 膝が砕けそうになった頃、晃はいつもより早く口吻くちづけを解いた。
 これ以上は止まれなくなる、だあ? 何を今更。

 意図はよく分からなかったが、目元や額に降ってくる唇は心地好い。
 背中を撫でてくる手も悪くなくて、晃の腕に抱かれるまま暫く身を預けていた。

 体の疼きが収まってくると、すぐに指が絡んできた。
 おれの手を引いて、トレントどもの案内に着いていく。

 晃、何が嬉しいんだ? やけに浮かれてんな。
 視察に着いて来てる連中の同行も、少しだけと言って珍しく断っていた。
 断ったところで離れて護衛が着いてくると理解しているはずだが、それでも弾むような足取りだ。

 手を引かれてすぐに並んだ体は、歩幅の差でおれが少し前に出つつある。それでも晃は離す様子がない。
 おれも手放す理由はねえから、平坦とは真逆の地面を手を繋いで進んでいる。

 頭上は重なり合う葉で覆い隠されているが、トレントどもが放つ魔力光によって森中が淡く輝いている。

 かつて魔王国の森には、必ず複数のトレントが生息していたらしい。
 まだ人間と魔族が拮抗していた昔、特殊な木材として人間に狙われ絶滅寸前まで数を減らすまでは。
 血で穢れた土と水から精霊が消え、多くの種族が生殖能力を大きく落とした。
 勝者となった魔族が人間を蔑み続けてきた歴史には、相応の理由がある。

 町はそれなりの年月を経て回復してきたが、魔王の住処から離れた一部の森はまだ大きくダメージを受けたままだ。


 魔王の力を多量に抱えた晃と、王の魂を持つおれ。
 手を繋いで進むごとに、魔力が足裏を通して森へ浸透していくのを感じる。

 あ゛ー……ちと、目が回るな……
 魔力の殆どを晃に注いでいるおれは、むやみに外部から引き出されると体調に響く。

 平均的な魔族を上回る程度の魔力量は残ってるんだがな、これでも。
 だが広大な土地そのものが、王に助けを求めてくる量には流石に及ばない。

 少し胸焼けがする。

 森の声なんざ無視して切り捨ててやっても良いんだが……
 おれだけが振り払っちまうと、晃が無意識に魔力を注ぎすぎて森を枯らしそうだしなァ。
 おれ由縁以外の、妙なトラウマを抱えられるほうが不愉快だ。

「旭陽、……調子悪いのか?」
「あ? いや……」

 目敏く気付いた晃が、ご機嫌だった顔を歪めて心配を声音に乗せた。
 首を振り、顎を上向かせて見せる。
 すぐに手が伸びてきて頬に触れ、触れるだけのキスが落ちてきた。

「ん」
「……あ。顔色良くなった、な? 疲れたらすぐに言えよ」

 指がそっと輪郭をなぞりながら、何度も隣から唇が触れてくる。
 おまえに触れてたら問題ねえんだよ。
 つまり、手ぇ繋いでるだけで満足してる晃が悪い。

 繋がっている手を引き、空いていた距離を埋める。
 触れ合った肩から少しの動揺が伝わってきて、思わず喉が笑いに震えた。

「んだよ。照れてんのか」
「べ、つに今更このくらい……! 自分じゃなく俺を引き寄せる辺り、旭陽らしいなと思っただけで」
「おれらしくて、好き?」
「すッ……っ!」

 焼けていない肌が、カッと朱を走らせた。
 晃って、ほんっと……かわいいよなァ。

 口籠もる男を揶揄っていると、すぐに胸焼けは気にならなくなっていった。
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