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番外編
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開けた中央へと到着すると、森を住処とするものどもが多く集まっていた。
好き好きに踊っていた連中が、おれと晃に気付いて歓声を上げる。
「楽しそうだな」
人間にとってはただのざわめく森。
だが魔族の耳には、木々や魔獣どもの言葉が入り交じって街中とはまた違った賑やかさが届く。
自ら魔王を選んだ晃も、以前なら半分程度しか気付かなかっただろう声を余すところなく拾えるようになっている。
以前との差異には気付かない男が、周囲を見回して楽しそうに喉を鳴らした。
まあ気付かなくて当然だが。
晃に届かねえ声は、おれが代わりに耳になってやってたからな。
今は全部聞こえてんだ。
尋ねてくる必要はないはずだが、もうおれと共有するのが癖付いているんだろう。
自分が受けた印象を伝えてくる男へ、返事の代わりに喉を指の背で擽る。
「っ旭、陽。擽ったい……」
「あ? やなのかよ」
「嫌じゃない。もっと」
喜ぶ声で否定に似た言葉を零してきたから、顎下を爪先で引っ掻きながら揶揄ってやる。
間髪入れずに返された催促に笑いながら、求められた通りに擽りを続行してやった。
愛でている時の行為だと、鈍い晃も流石に理解している。
おまえ、おれにこうされるの心地良いんだもんな?
素直に喉を差し出してくる男と、笑いながら指を滑らせるおれ。
恍惚とした視線が幾つも集まっていたが、やがて我に返ったトレントが少し前に晃が発した『楽しそう』の一言に答えた。
「それはもう。祈りを捧げるべき王が、この場に居合わせて下さっていますから」
葉を揺らしながら、自分たちの高揚の理由を語る。
その言葉で他の連中も我に返り、またざわめきと舞が戻ってきた。
「旭陽」
腰を引き寄せて互いの隙間を無くしながら、晃がおれを呼んでくる。
引かれる以上に身を傾けて、飴色の上に頭を乗せた。
「っ」
一瞬驚きに息を飲んだ男も、すぐに体から力を抜く。
肩にまるい頭部が乗ってきて、脇腹を軽く撫でられる。
「ん、っ……」
背筋に軽い電流が走った。
おれが漏らした声を聞いて一瞬止まった手は、数瞬の後に慎重さを増して動きを再開する。
肩の上の頭を見下ろせば、ずっと此方に向いていた視線と鉢合わせた。
「珍しいな。我慢してんのかよ」
「めず……そんなに抱いてばっかじゃないだろ」
「そうかァ?」
執務以外じゃずーっと触れてきてるくせに。
そう意図を籠めて聞き返すと、自分でも思い至った様子の男が軽く口を尖らせた。
すぐに身を屈め、唇を重ねてやる。
目を丸くした晃が反応するより前に体を起こし、王に捧げられる祈りへ視線を戻す。
「あ、旭陽?」
「ンだよ」
「いや、……今」
「キスして欲しかったんじゃねえの?」
意地悪く尋ねてやると、ぐっと口籠もっている。
分かってっけど。そこまで考えてなかったって。
でも否定はこない。
当然だろうな。おれから触れられるのはいつでも喜ぶ男だ。
おれが、晃に触れられるといつでも気持ちいいのと同じで。
もうとっくに森を歩んでいた時の不調は消えている。
それでも、寄せ合った身を離そうという気にはならない。
性感を煽らないギリギリの緩さで体を撫でていく手の感触に浸りながら、欠伸をひとつ漏らす。
不快な胸焼けが退けば一気に肺が甘い男の匂いに満たされて、急速に眠気が誘われつつあった。
「眠くなってきたのか?」
「ん……」
目聡く見咎めた晃が声を掛けてくる。
元々おれは、居場所に呼び戻された時には地球で生命力を大幅に削られていた。
本来あるべき世界に戻ってきたことで徐々に回復していったが、回復する片端から体の交わりを通して晃へ流した。
不安定な増減がなくなった今は、力も体力も一般的な魔族よりは上といったところだ。
その程度は保っておかねえと、加減を知らねえ晃を受け止めきれねえからな。
それでも一晩中とんでもない質量で穿たれ全身を貪られるのは、正直キツい。
晃がおれに夢中になっている姿と引き換えにする程ではねえから、本気で止めるつもりはないが。
キツい以上に心地好いし、嬉しいからな。
最中には本能的な否定が出もするが、狂いそうなほどめちゃくちゃにされるのも……晃がおれに溺れてる証拠だ。
まあ、悪くない。
とはいえ、お互い夜だけじゃ満足できねえ。
そうなるとおれに体力がどれだけあっても到底足りない。
力の増減が落ち着いてきた頃から、肉体が魔力で手っ取り早く回復しようと睡眠を促してくることが増えた。
不便ではあるが、おれがあまり多くの魔力を有していると民草に影響を与える可能性がある。
晃を“魔王”のままにしておくためなら、この程度は幾らでも甘受しようと決めている。
「眠いなら寝ていいぞ、旭陽。……あとで、ちゃんと起こすから」
「あきら……」
「……俺も?」
肩が軽くなり、そっと頭部を包み込まれる。
晃の肩におれの頭が乗せられて、視界を覆わない程度に軽く抱き締められた。
頬や目尻に触れるだけの口吻けが何度も降ってくる。
きもちいい。けど。
不満を声に乗せれば、意図をすぐに察した男が小さく笑った。
「うん。なら、ちょっとだけ……一緒に、転寝するか」
それでいい。
おれからも細い腰に腕を回し、目を閉じる。
左半身。
右肩。
腰。
触れている場所に晃の体温を感じながら、意識がとろりと解けていった。
好き好きに踊っていた連中が、おれと晃に気付いて歓声を上げる。
「楽しそうだな」
人間にとってはただのざわめく森。
だが魔族の耳には、木々や魔獣どもの言葉が入り交じって街中とはまた違った賑やかさが届く。
自ら魔王を選んだ晃も、以前なら半分程度しか気付かなかっただろう声を余すところなく拾えるようになっている。
以前との差異には気付かない男が、周囲を見回して楽しそうに喉を鳴らした。
まあ気付かなくて当然だが。
晃に届かねえ声は、おれが代わりに耳になってやってたからな。
今は全部聞こえてんだ。
尋ねてくる必要はないはずだが、もうおれと共有するのが癖付いているんだろう。
自分が受けた印象を伝えてくる男へ、返事の代わりに喉を指の背で擽る。
「っ旭、陽。擽ったい……」
「あ? やなのかよ」
「嫌じゃない。もっと」
喜ぶ声で否定に似た言葉を零してきたから、顎下を爪先で引っ掻きながら揶揄ってやる。
間髪入れずに返された催促に笑いながら、求められた通りに擽りを続行してやった。
愛でている時の行為だと、鈍い晃も流石に理解している。
おまえ、おれにこうされるの心地良いんだもんな?
素直に喉を差し出してくる男と、笑いながら指を滑らせるおれ。
恍惚とした視線が幾つも集まっていたが、やがて我に返ったトレントが少し前に晃が発した『楽しそう』の一言に答えた。
「それはもう。祈りを捧げるべき王が、この場に居合わせて下さっていますから」
葉を揺らしながら、自分たちの高揚の理由を語る。
その言葉で他の連中も我に返り、またざわめきと舞が戻ってきた。
「旭陽」
腰を引き寄せて互いの隙間を無くしながら、晃がおれを呼んでくる。
引かれる以上に身を傾けて、飴色の上に頭を乗せた。
「っ」
一瞬驚きに息を飲んだ男も、すぐに体から力を抜く。
肩にまるい頭部が乗ってきて、脇腹を軽く撫でられる。
「ん、っ……」
背筋に軽い電流が走った。
おれが漏らした声を聞いて一瞬止まった手は、数瞬の後に慎重さを増して動きを再開する。
肩の上の頭を見下ろせば、ずっと此方に向いていた視線と鉢合わせた。
「珍しいな。我慢してんのかよ」
「めず……そんなに抱いてばっかじゃないだろ」
「そうかァ?」
執務以外じゃずーっと触れてきてるくせに。
そう意図を籠めて聞き返すと、自分でも思い至った様子の男が軽く口を尖らせた。
すぐに身を屈め、唇を重ねてやる。
目を丸くした晃が反応するより前に体を起こし、王に捧げられる祈りへ視線を戻す。
「あ、旭陽?」
「ンだよ」
「いや、……今」
「キスして欲しかったんじゃねえの?」
意地悪く尋ねてやると、ぐっと口籠もっている。
分かってっけど。そこまで考えてなかったって。
でも否定はこない。
当然だろうな。おれから触れられるのはいつでも喜ぶ男だ。
おれが、晃に触れられるといつでも気持ちいいのと同じで。
もうとっくに森を歩んでいた時の不調は消えている。
それでも、寄せ合った身を離そうという気にはならない。
性感を煽らないギリギリの緩さで体を撫でていく手の感触に浸りながら、欠伸をひとつ漏らす。
不快な胸焼けが退けば一気に肺が甘い男の匂いに満たされて、急速に眠気が誘われつつあった。
「眠くなってきたのか?」
「ん……」
目聡く見咎めた晃が声を掛けてくる。
元々おれは、居場所に呼び戻された時には地球で生命力を大幅に削られていた。
本来あるべき世界に戻ってきたことで徐々に回復していったが、回復する片端から体の交わりを通して晃へ流した。
不安定な増減がなくなった今は、力も体力も一般的な魔族よりは上といったところだ。
その程度は保っておかねえと、加減を知らねえ晃を受け止めきれねえからな。
それでも一晩中とんでもない質量で穿たれ全身を貪られるのは、正直キツい。
晃がおれに夢中になっている姿と引き換えにする程ではねえから、本気で止めるつもりはないが。
キツい以上に心地好いし、嬉しいからな。
最中には本能的な否定が出もするが、狂いそうなほどめちゃくちゃにされるのも……晃がおれに溺れてる証拠だ。
まあ、悪くない。
とはいえ、お互い夜だけじゃ満足できねえ。
そうなるとおれに体力がどれだけあっても到底足りない。
力の増減が落ち着いてきた頃から、肉体が魔力で手っ取り早く回復しようと睡眠を促してくることが増えた。
不便ではあるが、おれがあまり多くの魔力を有していると民草に影響を与える可能性がある。
晃を“魔王”のままにしておくためなら、この程度は幾らでも甘受しようと決めている。
「眠いなら寝ていいぞ、旭陽。……あとで、ちゃんと起こすから」
「あきら……」
「……俺も?」
肩が軽くなり、そっと頭部を包み込まれる。
晃の肩におれの頭が乗せられて、視界を覆わない程度に軽く抱き締められた。
頬や目尻に触れるだけの口吻けが何度も降ってくる。
きもちいい。けど。
不満を声に乗せれば、意図をすぐに察した男が小さく笑った。
「うん。なら、ちょっとだけ……一緒に、転寝するか」
それでいい。
おれからも細い腰に腕を回し、目を閉じる。
左半身。
右肩。
腰。
触れている場所に晃の体温を感じながら、意識がとろりと解けていった。
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