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白き部屋に、紅き裏切りを添えて
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部屋の中は、全体的に白を基調とした内装で統一されており、トイレと風呂場を除けば、三つの区切られた空間がある。
入ってすぐの部屋は、「学び」と「応接」のための空間だ。
左手には衣装部屋への扉があり、右手には寝室への扉が設けられている。
この最初の部屋には、勉学に集中できるよう配慮された、大きな机と椅子がひとつ。資料や本を収めるための本棚がふたつ。
そして応接のための小さな机と、二人掛けのソファがふたつ。
必要最低限の品だけで、無駄のない造りだ。
私はこの部屋を、入寮して以来ほとんど手を加えずに使用してきた。
人によっては味気ないと感じられるかもしれないが、私にとっては充分だった。
侍女のヘレンは、この部屋を常に完璧な状態に保ってくれている。
「やることがなさすぎて、このままでは私の侍女としての腕が鈍ってしまいます」
そう嘆きながら、
「旦那様も奥方様も、ユミリア様がもっと甘えてくださらないと寂しいと仰っておりましたよ」
と、半ば愚痴のように笑っていたことをふと思い出す。
その部屋の面影は全く無い。
私の部屋は、見るも無残な姿になっていた。
だが、いま目の前にあるこの部屋には、その面影が一切、存在していなかった。
見るも無残だった。
衣装部屋から引きずり出されたのであろうドレスが、床に乱雑に散らばり、
応接用の机の上には、見覚えのない高級そうなワインと、二つのワイングラスが置かれている。
どうして……?
そもそも学園では、卒業パーティーを終えるまでは飲酒が認められておらず、
寮内への酒類の持ち込みも当然、厳しく禁じられているはずなのに。
スーザン様が先頭に立ち、私がその後ろ。スピカ様が最後尾という隊列で部屋に入ったのだが、私は目の前の状況に、しばし呆然と立ち尽くしてしまっていたらしい。
気付けば、スーザン様は左手に、スピカ様は私の右斜め前に立っていた。
お二人とも、固く閉ざされた寝室の扉を、鋭い視線で睨みつけていらっしゃる。
……まさか。
私はようやく周囲に目を向けはじめたが、そのときスーザン様が、私の耳を塞ごうと手を伸ばしてきた。
けれど――
「……ぁ……エイ……クズゥ………」
その時、あり得ないはずのことが起きた。
防音が施されているはずの寝室の扉の向こうから、微かではあるが、
確かに“声”が聞こえたのだ。
「ボニータ……」
低く、熱のこもった声。
その声色を私は幼い頃から、耳にしてきた。
聞き慣れたはずのその声が、どうしようもなく忌々しく、汚らわしく、響いた。
理解が追いつかず、ただただ、その場に立ち尽くすことしかできなかった。
私の身体から、すべての熱がするすると抜け落ちていくのを感じながら――
私は、音もなく、心の奥底から崩れていく感覚を味わっていた。
入ってすぐの部屋は、「学び」と「応接」のための空間だ。
左手には衣装部屋への扉があり、右手には寝室への扉が設けられている。
この最初の部屋には、勉学に集中できるよう配慮された、大きな机と椅子がひとつ。資料や本を収めるための本棚がふたつ。
そして応接のための小さな机と、二人掛けのソファがふたつ。
必要最低限の品だけで、無駄のない造りだ。
私はこの部屋を、入寮して以来ほとんど手を加えずに使用してきた。
人によっては味気ないと感じられるかもしれないが、私にとっては充分だった。
侍女のヘレンは、この部屋を常に完璧な状態に保ってくれている。
「やることがなさすぎて、このままでは私の侍女としての腕が鈍ってしまいます」
そう嘆きながら、
「旦那様も奥方様も、ユミリア様がもっと甘えてくださらないと寂しいと仰っておりましたよ」
と、半ば愚痴のように笑っていたことをふと思い出す。
その部屋の面影は全く無い。
私の部屋は、見るも無残な姿になっていた。
だが、いま目の前にあるこの部屋には、その面影が一切、存在していなかった。
見るも無残だった。
衣装部屋から引きずり出されたのであろうドレスが、床に乱雑に散らばり、
応接用の机の上には、見覚えのない高級そうなワインと、二つのワイングラスが置かれている。
どうして……?
そもそも学園では、卒業パーティーを終えるまでは飲酒が認められておらず、
寮内への酒類の持ち込みも当然、厳しく禁じられているはずなのに。
スーザン様が先頭に立ち、私がその後ろ。スピカ様が最後尾という隊列で部屋に入ったのだが、私は目の前の状況に、しばし呆然と立ち尽くしてしまっていたらしい。
気付けば、スーザン様は左手に、スピカ様は私の右斜め前に立っていた。
お二人とも、固く閉ざされた寝室の扉を、鋭い視線で睨みつけていらっしゃる。
……まさか。
私はようやく周囲に目を向けはじめたが、そのときスーザン様が、私の耳を塞ごうと手を伸ばしてきた。
けれど――
「……ぁ……エイ……クズゥ………」
その時、あり得ないはずのことが起きた。
防音が施されているはずの寝室の扉の向こうから、微かではあるが、
確かに“声”が聞こえたのだ。
「ボニータ……」
低く、熱のこもった声。
その声色を私は幼い頃から、耳にしてきた。
聞き慣れたはずのその声が、どうしようもなく忌々しく、汚らわしく、響いた。
理解が追いつかず、ただただ、その場に立ち尽くすことしかできなかった。
私の身体から、すべての熱がするすると抜け落ちていくのを感じながら――
私は、音もなく、心の奥底から崩れていく感覚を味わっていた。
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