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愚かなる恋人達、幕は静かに下ろされましたの
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「ボニータ、心配はいらない。姉上が戯言を言っているだけだ。私たちに嫉妬しているのさ」
そう語りながら、エイクズ殿下はボニータ様のショッキングピンクの髪をやさしく撫でた。
……人に対して、こんなにも柔らかく接することのできる方だったのですね。
その姿を見て、私は心の奥底で思わず驚きを覚えておりました。
「そ、そうよねぇ~……よかったわぁ~……妄言で~……わたく、ちょっとだけ不安になっちゃったのぉ~」
ボニータ様は、心の底から安堵した様子で微笑み、ふにゃりと殿下に体を預ける。二人はそのまま、まるで誰にも邪魔されない世界に入り込んでしまったかのようでした。
……私たちの存在など、もはや眼中にないようですわね。
スピカ様は、うんざりとしたように小さく首を振り、スーザン様と視線を交わしてから、控えめに合図を出されました。
その合図を受けて、スーザン様はすぐに私とスピカ様に一礼し、静かに寝室をあとにされました。
いちゃつくことに夢中な二人は、スーザン様が退室されたことにもまったく気づいていないようでした。
やがてスピカ様がそっと私に近づき、耳元で小声で囁かれます。
「スーザンには応援を呼びに行かせた。……不快なものを見せてしまい、すまないが、もう少しだけ我慢してくれ」
「……はい。大丈夫ですわ」
私がそう答えると、スピカ様はすぐに距離をとり、私の前に立ってくださって、ベッド上の二人を遮るようにしてくださった。
二人のささやき声――愛を囁き合う声音が、かえって胸に突き刺さる。
私はそれを聞きながら、ふと思うのです。
――エイクズ殿下のことが、少しだけ……羨ましくなった、と。
──────
私とエイクズ殿下が婚約者となって、今年で8年になります。
当初より婚約者として関係を築くため、週に一度、お茶会を通じて交流を深める時間が設けられていました。
けれどもその場で私が受けたのは、暴言と愚痴ばかり。
「なぜ、貴様と茶を飲むためだけに、わざわざ足を運ばねばならんのだ!」
と、怒鳴られたことも一度や二度ではありません。
会うたびに不機嫌で、他者と予定を共有すること自体を嫌う彼は、やがてお茶会を拒否するようになり……次第にその頻度は減っていきました。
お会いしなくなっても、私は形式上、城へは通い続けなければならず、決まった部屋でひとり淋しくお茶をいただく日々が続きました。
そんな日々の中、私はこっそりと様々な人々とお茶会を開き、王宮内での彼の評判や、民の噂、貴族社会の流行を耳にするようになりました。
彼は、王太子教育にもほとんど出席せず、家臣や平民に対しても傲慢そのもの。
私と顔を合わせる機会もほとんどなくなったまま、学園生活へと移行しました。
王立学園でも、私たちは直接言葉を交わすことはなく、遠くから姿を見るのみでしたが、その振る舞いは幼少期と何ら変わらず。
「俺は王太子なんだぞ!」と威張り散らす姿が印象に残っております。
……それほどまでの御方が、今こうしてあのような優しい眼差しでボニータ様を見つめ、撫で、甘い声をかけるだなんて。
きっと本当に、心の底から彼女を愛しておられるのでしょうね。これが、真実の愛というものなのでしょう。
私は婚約破棄される身です。
この先の未来に私を待つのは、“傷物”と囁かれ、老いた貴族の後妻となるか、修道院で余生を送るか――そのいずれか。
私は……修道院へと赴き、この身を神に捧げようと心に決めております。
もし、生まれ変わることがあるのなら――
そのときこそ、私も「真実の愛」というものを見つけてみたいものですね。
──────
「この者たちを、捕らえよ」
スピカ様の静かで冷ややかな号令と共に、スーザン様に率いられた寮の警備兵たちが一斉に部屋へとなだれ込みました。
「なっ、なにを……やめろ! 離せ! 俺は王太子エイクズ様だぞ!」
「きゃあー! 触らないで! 乱暴するつもりでしょ!? エイクズ様~助けてぇ!」
ベッドの上でシーツを巻きつける二人は、事態をまるで理解できていない様子で、声を張り上げて抵抗します。
……けれど、その叫びに耳を貸す者など、もはや誰一人としておりませんでした。
そう語りながら、エイクズ殿下はボニータ様のショッキングピンクの髪をやさしく撫でた。
……人に対して、こんなにも柔らかく接することのできる方だったのですね。
その姿を見て、私は心の奥底で思わず驚きを覚えておりました。
「そ、そうよねぇ~……よかったわぁ~……妄言で~……わたく、ちょっとだけ不安になっちゃったのぉ~」
ボニータ様は、心の底から安堵した様子で微笑み、ふにゃりと殿下に体を預ける。二人はそのまま、まるで誰にも邪魔されない世界に入り込んでしまったかのようでした。
……私たちの存在など、もはや眼中にないようですわね。
スピカ様は、うんざりとしたように小さく首を振り、スーザン様と視線を交わしてから、控えめに合図を出されました。
その合図を受けて、スーザン様はすぐに私とスピカ様に一礼し、静かに寝室をあとにされました。
いちゃつくことに夢中な二人は、スーザン様が退室されたことにもまったく気づいていないようでした。
やがてスピカ様がそっと私に近づき、耳元で小声で囁かれます。
「スーザンには応援を呼びに行かせた。……不快なものを見せてしまい、すまないが、もう少しだけ我慢してくれ」
「……はい。大丈夫ですわ」
私がそう答えると、スピカ様はすぐに距離をとり、私の前に立ってくださって、ベッド上の二人を遮るようにしてくださった。
二人のささやき声――愛を囁き合う声音が、かえって胸に突き刺さる。
私はそれを聞きながら、ふと思うのです。
――エイクズ殿下のことが、少しだけ……羨ましくなった、と。
──────
私とエイクズ殿下が婚約者となって、今年で8年になります。
当初より婚約者として関係を築くため、週に一度、お茶会を通じて交流を深める時間が設けられていました。
けれどもその場で私が受けたのは、暴言と愚痴ばかり。
「なぜ、貴様と茶を飲むためだけに、わざわざ足を運ばねばならんのだ!」
と、怒鳴られたことも一度や二度ではありません。
会うたびに不機嫌で、他者と予定を共有すること自体を嫌う彼は、やがてお茶会を拒否するようになり……次第にその頻度は減っていきました。
お会いしなくなっても、私は形式上、城へは通い続けなければならず、決まった部屋でひとり淋しくお茶をいただく日々が続きました。
そんな日々の中、私はこっそりと様々な人々とお茶会を開き、王宮内での彼の評判や、民の噂、貴族社会の流行を耳にするようになりました。
彼は、王太子教育にもほとんど出席せず、家臣や平民に対しても傲慢そのもの。
私と顔を合わせる機会もほとんどなくなったまま、学園生活へと移行しました。
王立学園でも、私たちは直接言葉を交わすことはなく、遠くから姿を見るのみでしたが、その振る舞いは幼少期と何ら変わらず。
「俺は王太子なんだぞ!」と威張り散らす姿が印象に残っております。
……それほどまでの御方が、今こうしてあのような優しい眼差しでボニータ様を見つめ、撫で、甘い声をかけるだなんて。
きっと本当に、心の底から彼女を愛しておられるのでしょうね。これが、真実の愛というものなのでしょう。
私は婚約破棄される身です。
この先の未来に私を待つのは、“傷物”と囁かれ、老いた貴族の後妻となるか、修道院で余生を送るか――そのいずれか。
私は……修道院へと赴き、この身を神に捧げようと心に決めております。
もし、生まれ変わることがあるのなら――
そのときこそ、私も「真実の愛」というものを見つけてみたいものですね。
──────
「この者たちを、捕らえよ」
スピカ様の静かで冷ややかな号令と共に、スーザン様に率いられた寮の警備兵たちが一斉に部屋へとなだれ込みました。
「なっ、なにを……やめろ! 離せ! 俺は王太子エイクズ様だぞ!」
「きゃあー! 触らないで! 乱暴するつもりでしょ!? エイクズ様~助けてぇ!」
ベッドの上でシーツを巻きつける二人は、事態をまるで理解できていない様子で、声を張り上げて抵抗します。
……けれど、その叫びに耳を貸す者など、もはや誰一人としておりませんでした。
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