57 / 74
沈黙の裁き、罪なき命
しおりを挟む
【王宮・政務評議室】
広間に響くのは、羊皮紙をめくる音と、記録官の筆が走るかすかな音のみ。
王、王妃、王太子、枢密顧問官、司法卿が席に並び、
中央には、重々しい声で王家筆頭侍従が事実を読み上げていた。
「リリア・バレンティナ。
王家に対し、己が身に宿した子を“王の血を継ぐ者”と偽り、
それにより王家を欺き、王宮内に混乱を招きました」
「当人の供述と、血統検査の結果、
赤子の父親はサフィール子爵家の令息レオン・サフィールであることが判明。
王家の血を一滴も引かぬこと、確定済みであります」
記録官が、ひとつひとつの証拠を読み上げるたびに、
空気は冷たく引き締まっていく。
王は沈黙の中、ゆっくりと口を開いた。
「リリア・バレンティナに対し、王家はこれを“重罪人”と認定する。
王家に対する偽りの訴え、混乱の種を撒いた責任は、極めて重大」
「……そのうえで、審議の結果をここに告げよう」
「リリア・バレンティナには、死罪をもって裁きを下す。
だがその執行は、出産後の一定期間を経て、身体の回復を見届けたのちとする。
出産直後の命を奪うは、王家の誇りに反する」
沈黙が場を包んだ。
その裁きは冷静で、そして覆しようのないものだった。
続いて、王妃が静かに言葉を継いだ。
「生まれた赤子は、罪なき命である。
王家はこのことを記録に残し、
父であるサフィール令息の元に、正式に保護を命ずる」
王太子アランもまた、深く頷いた。
「彼が父としての責務を果たす意思を持つならば、王家はその保護を尊重する。
ただし、子に“王家との関係性”を語ることは一切禁ずる」
レオン・サフィールは深く頭を垂れた。
「その命に従います。
あの子は、私の手で、育てます。
……あの夜のことを私は、後悔しません」
王はその言葉に、ただ一度だけ、まぶたを閉じて静かにうなずいた。
【王宮・特別区域・隔離室】
リリア・バレンティナのもとに、命の裁きが下されたことはまだ告げられていなかった。
だが彼女は感じていた。
足音が遠ざかるたびに、何かが終わりに向かっていることを。
そして、その先に希望などないことも。
彼女が育んだ妄想の果てにあったものは、王妃の座ではなく――断罪の帳だった。
広間に響くのは、羊皮紙をめくる音と、記録官の筆が走るかすかな音のみ。
王、王妃、王太子、枢密顧問官、司法卿が席に並び、
中央には、重々しい声で王家筆頭侍従が事実を読み上げていた。
「リリア・バレンティナ。
王家に対し、己が身に宿した子を“王の血を継ぐ者”と偽り、
それにより王家を欺き、王宮内に混乱を招きました」
「当人の供述と、血統検査の結果、
赤子の父親はサフィール子爵家の令息レオン・サフィールであることが判明。
王家の血を一滴も引かぬこと、確定済みであります」
記録官が、ひとつひとつの証拠を読み上げるたびに、
空気は冷たく引き締まっていく。
王は沈黙の中、ゆっくりと口を開いた。
「リリア・バレンティナに対し、王家はこれを“重罪人”と認定する。
王家に対する偽りの訴え、混乱の種を撒いた責任は、極めて重大」
「……そのうえで、審議の結果をここに告げよう」
「リリア・バレンティナには、死罪をもって裁きを下す。
だがその執行は、出産後の一定期間を経て、身体の回復を見届けたのちとする。
出産直後の命を奪うは、王家の誇りに反する」
沈黙が場を包んだ。
その裁きは冷静で、そして覆しようのないものだった。
続いて、王妃が静かに言葉を継いだ。
「生まれた赤子は、罪なき命である。
王家はこのことを記録に残し、
父であるサフィール令息の元に、正式に保護を命ずる」
王太子アランもまた、深く頷いた。
「彼が父としての責務を果たす意思を持つならば、王家はその保護を尊重する。
ただし、子に“王家との関係性”を語ることは一切禁ずる」
レオン・サフィールは深く頭を垂れた。
「その命に従います。
あの子は、私の手で、育てます。
……あの夜のことを私は、後悔しません」
王はその言葉に、ただ一度だけ、まぶたを閉じて静かにうなずいた。
【王宮・特別区域・隔離室】
リリア・バレンティナのもとに、命の裁きが下されたことはまだ告げられていなかった。
だが彼女は感じていた。
足音が遠ざかるたびに、何かが終わりに向かっていることを。
そして、その先に希望などないことも。
彼女が育んだ妄想の果てにあったものは、王妃の座ではなく――断罪の帳だった。
3
あなたにおすすめの小説
【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。
猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で――
私の願いは一瞬にして踏みにじられました。
母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、
婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。
「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」
まさか――あの優しい彼が?
そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。
子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。
でも、私には、味方など誰もいませんでした。
ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。
白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。
「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」
やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。
それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、
冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。
没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。
これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。
※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ
※わんこが繋ぐ恋物語です
※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ
辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました
腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。
しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。
女嫌いな騎士が一目惚れしたのは、給金を貰いすぎだと値下げ交渉に全力な訳ありな使用人のようです
珠宮さくら
恋愛
家族に虐げられ結婚式直前に婚約者を妹に奪われて勘当までされ、目障りだから国からも出て行くように言われたマリーヌ。
その通りにしただけにすぎなかったが、虐げられながらも逞しく生きてきたことが随所に見え隠れしながら、給金をやたらと値下げしようと交渉する謎の頑張りと常識があるようでないズレっぷりを披露しつつ、初対面から気が合う男性の女嫌いなイケメン騎士と婚約して、自分を見つめ直して幸せになっていく。
溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~
夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」
弟のその言葉は、晴天の霹靂。
アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。
しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。
醤油が欲しい、うにが食べたい。
レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。
既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・?
小説家になろうにも掲載しています。
死亡予定の脇役令嬢に転生したら、断罪前に裏ルートで皇帝陛下に溺愛されました!?
六角
恋愛
「え、私が…断罪?処刑?――冗談じゃないわよっ!」
前世の記憶が蘇った瞬間、私、公爵令嬢スカーレットは理解した。
ここが乙女ゲームの世界で、自分がヒロインをいじめる典型的な悪役令嬢であり、婚約者のアルフォンス王太子に断罪される未来しかないことを!
その元凶であるアルフォンス王太子と聖女セレスティアは、今日も今日とて私の目の前で愛の劇場を繰り広げている。
「まあアルフォンス様! スカーレット様も本当は心優しい方のはずですわ。わたくしたちの真実の愛の力で彼女を正しい道に導いて差し上げましょう…!」
「ああセレスティア!君はなんて清らかなんだ!よし、我々の愛でスカーレットを更生させよう!」
(…………はぁ。茶番は他所でやってくれる?)
自分たちの恋路に酔いしれ、私を「救済すべき悪」と見なすめでたい頭の二人組。
あなたたちの自己満足のために私の首が飛んでたまるものですか!
絶望の淵でゲームの知識を総動員して見つけ出した唯一の活路。
それは血も涙もない「漆黒の皇帝」と万人に恐れられる若き皇帝ゼノン陛下に接触するという、あまりに危険な【裏ルート】だった。
「命惜しさにこの私に魂でも売りに来たか。愚かで滑稽で…そして実に唆る女だ、スカーレット」
氷の視線に射抜かれ覚悟を決めたその時。
冷酷非情なはずの皇帝陛下はなぜか私の悪あがきを心底面白そうに眺め、その美しい唇を歪めた。
「良いだろう。お前を私の『籠の中の真紅の鳥』として、この手ずから愛でてやろう」
その日から私の運命は激変!
「他の男にその瞳を向けるな。お前のすべては私のものだ」
皇帝陛下からの凄まじい独占欲と息もできないほどの甘い溺愛に、スカーレットの心臓は鳴りっぱなし!?
その頃、王宮では――。
「今頃スカーレットも一人寂しく己の罪を反省しているだろう」
「ええアルフォンス様。わたくしたちが彼女を温かく迎え入れてあげましょうね」
などと最高にズレた会話が繰り広げられていることを、彼らはまだ知らない。
悪役(笑)たちが壮大な勘違いをしている間に、最強の庇護者(皇帝陛下)からの溺愛ルート、確定です!
完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい
咲桜りおな
恋愛
オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。
見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!
殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。
※糖度甘め。イチャコラしております。
第一章は完結しております。只今第二章を更新中。
本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。
本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。
「小説家になろう」でも公開しています。
ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない
魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。
そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。
ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。
イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。
ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。
いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。
離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。
「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」
予想外の溺愛が始まってしまう!
(世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!
勘違いで嫁ぎましたが、相手が理想の筋肉でした!
エス
恋愛
「男性の魅力は筋肉ですわっ!!」
華奢な男がもてはやされるこの国で、そう豪語する侯爵令嬢テレーゼ。
縁談はことごとく破談し、兄アルベルトも王太子ユリウスも頭を抱えていた。
そんな折、騎士団長ヴォルフがユリウスの元に「若い女性を紹介してほしい」と相談に現れる。
よく見ればこの男──家柄よし、部下からの信頼厚し、そして何より、圧巻の筋肉!!
「この男しかいない!」とユリウスは即断し、テレーゼとの結婚話を進める。
ところがテレーゼが嫁いだ先で、当のヴォルフは、
「俺は……メイドを紹介してほしかったんだが!?」
と何やら焦っていて。
……まあ細かいことはいいでしょう。
なにせ、その腕、その太もも、その背中。
最高の筋肉ですもの! この結婚、全力で続行させていただきますわ!!
女性不慣れな不器用騎士団長 × 筋肉フェチ令嬢。
誤解から始まる、すれ違いだらけの新婚生活、いざスタート!
※他サイトに投稿したものを、改稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる