【完結済】王宮恋綴り〜宰相家の令息と公爵令嬢の秘密日記〜

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王太子妃の初仕事

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【王宮・謁見の間】
朝の陽光が、磨き上げられた床に反射して金色の光を描く。
今日は、王太子妃エリシアとしての初公務の日だった。

王族として正式に紹介され、初めて民の前に立ち、顔を見せる――それが今日の役割だった。

「……緊張していますか?」

控室で整えられた椅子に腰掛けたエリシアに、アランがやさしく問いかけた。

「はい。少しだけ……でも、大丈夫です」

笑ってみせたその顔に、不安の影はなかった。
けれど、その手の指先はわずかに強ばっていた。

アランはそっと彼女の手を取る。
「君が堂々としていれば、それだけで皆は安心する。
 ——わたしも、君が隣にいることが何より誇らしい」

「……アラン」

名前で呼ぶことにも、ようやく少し慣れてきた。
それでも口にするたびに、胸が熱くなる。

 

やがて、扉が開いた。

王家の伝令官がその名を高らかに告げる。

「王太子殿下、王太子妃殿下、ご入場!」

扉の向こう、謁見の間には、貴族たちだけでなく、選ばれた各地の代表庶民たちも列席していた。
エリシアはアランと腕を組み、ゆっくりと歩み出る。

その姿は堂々としていて、何より美しかった。

 

王座の前に進み出たあと、エリシアは定められた文言を口にする。

「私エリシアは、本日より、王太子妃としてこの国に仕え、民の幸せと繁栄のため尽力いたします」

その声は澄んでいて、どこまでも凛としていた。

静まり返っていた空間に、やがて拍手が広がる。
それは敬意と歓迎の証だった。

 

その後、エリシアは控え室に戻り、ふっと息をついた。

「……終わりましたね」
「終わったけれど、これが始まりだよ」

そう言って微笑むアランの声は、どこか嬉しそうだった。

「どうだった? 王太子妃としての初舞台」

「……あまりに緊張していて、途中、頭の中が真っ白でした。
 でも……貴方の手があったから、乗り越えられました」

エリシアが言うと、アランは彼女の指をそっと口元へ運び、
優しく唇を重ねた。

「なら、これからもずっと、手をつないでいよう」

その甘やかな言葉に、彼女の胸はふわりと熱を帯びた。

——エリシアの、“王太子妃としての旅路”が、今日から静かに始まった。

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