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新しき命と、揺るがぬ誓い
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【王宮・私室】
春の終わり。
王宮の庭園が芽吹きの緑で満ちる頃、エリシアの周囲には、そっと変化が訪れていた。
朝、軽い吐き気。
夜、疲れやすくなる身体。
どこか落ち着かない心。
それでも彼女は、日々の公務と王太子妃としての役目を真摯にこなし続けていた。
ある日、王宮付きの侍医がそっと彼女の耳元で囁いた。
「――おめでとうございます。殿下。お身体に、命が宿っております」
その瞬間、胸の奥が震えた。
夢でも見ているのかと思った。
けれど、何度も診察を重ねた結果、間違いないと告げられた。
彼との間に、命が宿った――。
それだけで、涙が溢れそうになる。
【王太子の執務室】
「……本当なのか?」
目の前で報告を受けたアランの表情には、これまで見せたことのないほどの驚きと歓喜が混ざっていた。
「……ああ、エリシア……」
すぐに彼女の私室へ向かったアランは、戸を開けた瞬間、言葉もなくただ駆け寄った。
「ありがとう。ありがとう、エリシア……!」
優しく、けれどしっかりと抱きしめる。
彼の腕の中に、命を抱えて微笑むエリシアの姿があった。
「……嬉しいの、アラン。わたし、本当に嬉しい……」
「君が無事で、子も元気に育ってくれれば、それ以上のことは何も望まない」
「……けれど、ひとつだけお願いがあるの」
「なんでも言ってくれ」
エリシアは、照れくさそうに目を伏せながら言った。
「もう、王太子妃としてではなく……“母”としても、貴方の隣に立たせてください」
「もちろんだよ。エリシア」
彼はその名を、誰よりも優しく呼んだ。
【エリシアの日記】
四月下旬。春の終わり。
今日、私は新しい命を授かっていることを知った。
夢のようで、でも確かにお腹の奥に“ぬくもり”がある気がする。
この命が、私たちの未来を照らしてくれる――そんな気がした。
アランはとても驚いて、でもそれ以上に、私を抱きしめてくれた。
あのときの震える声も、温かな手も、全部覚えている。
この子が無事に生まれて、落ち着いたとき。
私は“王妃”として即位する。
そのとき、王としての彼の隣に、真っ直ぐに立てるように。
私は、私の歩幅で進んでいく。
――貴方と、家族になるために。
春の終わり。
王宮の庭園が芽吹きの緑で満ちる頃、エリシアの周囲には、そっと変化が訪れていた。
朝、軽い吐き気。
夜、疲れやすくなる身体。
どこか落ち着かない心。
それでも彼女は、日々の公務と王太子妃としての役目を真摯にこなし続けていた。
ある日、王宮付きの侍医がそっと彼女の耳元で囁いた。
「――おめでとうございます。殿下。お身体に、命が宿っております」
その瞬間、胸の奥が震えた。
夢でも見ているのかと思った。
けれど、何度も診察を重ねた結果、間違いないと告げられた。
彼との間に、命が宿った――。
それだけで、涙が溢れそうになる。
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「……ああ、エリシア……」
すぐに彼女の私室へ向かったアランは、戸を開けた瞬間、言葉もなくただ駆け寄った。
「ありがとう。ありがとう、エリシア……!」
優しく、けれどしっかりと抱きしめる。
彼の腕の中に、命を抱えて微笑むエリシアの姿があった。
「……嬉しいの、アラン。わたし、本当に嬉しい……」
「君が無事で、子も元気に育ってくれれば、それ以上のことは何も望まない」
「……けれど、ひとつだけお願いがあるの」
「なんでも言ってくれ」
エリシアは、照れくさそうに目を伏せながら言った。
「もう、王太子妃としてではなく……“母”としても、貴方の隣に立たせてください」
「もちろんだよ。エリシア」
彼はその名を、誰よりも優しく呼んだ。
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夢のようで、でも確かにお腹の奥に“ぬくもり”がある気がする。
この命が、私たちの未来を照らしてくれる――そんな気がした。
アランはとても驚いて、でもそれ以上に、私を抱きしめてくれた。
あのときの震える声も、温かな手も、全部覚えている。
この子が無事に生まれて、落ち着いたとき。
私は“王妃”として即位する。
そのとき、王としての彼の隣に、真っ直ぐに立てるように。
私は、私の歩幅で進んでいく。
――貴方と、家族になるために。
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