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5話
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応接間の空気は重く、暖炉の火が微かに揺れている。ミシェルはテーブルの上に一通の封筒を置いた。中には探偵が集めた証拠が入っている。アンドルーとニコルが密会する写真、カフェでの会話記録、そして二人が頻繁に訪れる宿の利用記録。
「これを見てちょうだい」
ミシェルの声は冷静だったが、その目には怒りと悲しみが滲んでいた。アンドルーは封筒の中身をちらりと見た後、軽く肩をすくめる。
「……何だ、これは」
「あなたが私を裏切っていた証拠よ。ニコルとね」
「ふん、そうか。見つかったか」
彼の態度には反省の色はない。むしろ、白状したことで肩の荷が下りたかのような余裕さえ感じられた。
「どうして……? 私たちが結婚したばかりなのに」
「結婚? ああ、あれは単なる方便さ。お前の家柄を利用しただけだ」
「利用……?」
ミシェルの声が震える。胸が締めつけられるような痛みを感じるが、それでも彼女は平静を保とうとする。
「そうだ。お前の家が持つ影響力と地位、それだけが必要だった。お前自身はどうでもよかった」
「どうでもよかった……?」
ミシェルは繰り返す。言葉が喉に引っかかって出てこない。信じたくなかったが、これが彼の本心なのだろう。
「正直に言うと、最初からお前を愛してなどいなかった。ただ、目的を達成するために必要な存在だったというだけだ」
アンドルーの言葉は冷たく、容赦がない。それはミシェルにとってあまりにも残酷な現実だった。
「では、ニコルとは?」
「ああ、彼女こそが俺の本当の愛する人間だ。お前の妹だが、それは問題ではない。俺たちの関係はお前の結婚以前から続いていた」
「私の結婚以前から……」
ミシェルは呆然と呟いた。知らなかったわけではない。何かがおかしいと薄々感じていたのに、目を逸らしていた自分が愚かに思える。
「なぜ、そんなことを……」
「簡単な話だ。お前との結婚で得られる利益を得つつ、本当に愛する人と時間を過ごす。それが俺の計画だった」
アンドルーは平然と語る。まるで自分の行為に罪悪感など抱いていないかのように。
「それで、これからどうするつもり?」
「別れるさ。離婚だな」
「離婚……?」
「ああ。もうお前の役目は終わった。これからはニコルと幸せになる」
彼の言葉は淡々としており、どこか他人事のように聞こえた。
「つまり、私は捨てられるのね」
「そういうことだ」
ミシェルは深く息を吸い込んだ。涙は出なかった。ただ、心の中で何かが音を立てて壊れていくのが分かった。
「分かったわ。それなら私も準備をする必要があるわね」
「準備?」
「ええ。あなたが私を道具として使ったように、私もあなたを利用してやる。この結婚から得られるものをすべて手に入れるまで」
「ほう、できるものならやってみろ」
アンドルーは嘲るように笑ったが、ミシェルの目には迷いはなかった。
「必ずやるわ。覚悟しておいてちょうだい」
ミシェルは静かに立ち上がり、部屋を後にした。背後でアンドルーの嘲笑が響くが、もう彼の言葉に耳を傾ける必要はないと感じていた。
「これを見てちょうだい」
ミシェルの声は冷静だったが、その目には怒りと悲しみが滲んでいた。アンドルーは封筒の中身をちらりと見た後、軽く肩をすくめる。
「……何だ、これは」
「あなたが私を裏切っていた証拠よ。ニコルとね」
「ふん、そうか。見つかったか」
彼の態度には反省の色はない。むしろ、白状したことで肩の荷が下りたかのような余裕さえ感じられた。
「どうして……? 私たちが結婚したばかりなのに」
「結婚? ああ、あれは単なる方便さ。お前の家柄を利用しただけだ」
「利用……?」
ミシェルの声が震える。胸が締めつけられるような痛みを感じるが、それでも彼女は平静を保とうとする。
「そうだ。お前の家が持つ影響力と地位、それだけが必要だった。お前自身はどうでもよかった」
「どうでもよかった……?」
ミシェルは繰り返す。言葉が喉に引っかかって出てこない。信じたくなかったが、これが彼の本心なのだろう。
「正直に言うと、最初からお前を愛してなどいなかった。ただ、目的を達成するために必要な存在だったというだけだ」
アンドルーの言葉は冷たく、容赦がない。それはミシェルにとってあまりにも残酷な現実だった。
「では、ニコルとは?」
「ああ、彼女こそが俺の本当の愛する人間だ。お前の妹だが、それは問題ではない。俺たちの関係はお前の結婚以前から続いていた」
「私の結婚以前から……」
ミシェルは呆然と呟いた。知らなかったわけではない。何かがおかしいと薄々感じていたのに、目を逸らしていた自分が愚かに思える。
「なぜ、そんなことを……」
「簡単な話だ。お前との結婚で得られる利益を得つつ、本当に愛する人と時間を過ごす。それが俺の計画だった」
アンドルーは平然と語る。まるで自分の行為に罪悪感など抱いていないかのように。
「それで、これからどうするつもり?」
「別れるさ。離婚だな」
「離婚……?」
「ああ。もうお前の役目は終わった。これからはニコルと幸せになる」
彼の言葉は淡々としており、どこか他人事のように聞こえた。
「つまり、私は捨てられるのね」
「そういうことだ」
ミシェルは深く息を吸い込んだ。涙は出なかった。ただ、心の中で何かが音を立てて壊れていくのが分かった。
「分かったわ。それなら私も準備をする必要があるわね」
「準備?」
「ええ。あなたが私を道具として使ったように、私もあなたを利用してやる。この結婚から得られるものをすべて手に入れるまで」
「ほう、できるものならやってみろ」
アンドルーは嘲るように笑ったが、ミシェルの目には迷いはなかった。
「必ずやるわ。覚悟しておいてちょうだい」
ミシェルは静かに立ち上がり、部屋を後にした。背後でアンドルーの嘲笑が響くが、もう彼の言葉に耳を傾ける必要はないと感じていた。
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