夫の浮気相手は私の妹でした

柚鳥

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9話

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 アンドルーは広場の片隅に立ち、周囲に集まった野次馬たちに向かって熱弁を振るっていた。だが、その内容は以前とは明らかに異なっていた。

「俺はミシェルを愛している!」

 彼の声にはどこか必死さが滲み出ている。人々は一瞬驚いた表情を見せた後、好奇心を抱いたように耳を傾け始める。

「何度も言うが、俺は彼女を裏切った罪人だ。だが、それでも俺は彼女を愛しているんだ!」

「それで? 彼女の気持ちはどうなんだ?」

 一人の男が皮肉っぽく問い返す。アンドルーは少し言葉に詰まるが、すぐに続ける。

「彼女が俺を許してくれなくても構わない。ただ、俺の気持ちだけは知ってほしい。俺は彼女なしでは生きていけないんだ」

「随分と一方的じゃないか」

「ああ、そうだよ。俺の感情は完全に一方通行かもしれない。だが、それが本心なんだ」

 彼の目には狂おしいほどの情熱が宿っている。しかし、それを聞いた人々の反応は冷ややかなものだった。

「結局、お前は反省していないんじゃないか?」

「違う! 俺は本当に彼女を愛しているんだ! 後悔もした! それでも彼女への愛は失われなかったんだ!」

 アンドルーは声を荒らげる。彼自身、自分が何をすべきなのか分からなくなっているようだった。人々の嘲笑にもかかわらず、彼はなおも話し続ける。

「ミシェルは完璧な女性だ。俺のような屑でも受け入れてくれた。だが俺は愚かにも彼女を傷つけてしまった。それでも……それでも俺は彼女を愛し続けているんだ!」

 その言葉はまるで呪文のように何度も繰り返される。聞いている人々の中には、呆れ果てて去っていく者もいれば、面白半分で聞き続ける者もいた。

「お前の都合だろう。彼女はどう思っているのか考えたことがあるのか?」

「考えたさ。毎日考えている。彼女が俺を許してくれないのは当然だ。それでもいいんだ。少なくとも俺の愛を伝えたい」

「そんな押し付けがましい愛など意味がないだろう」

「意味はある! 俺にとってはすべてなんだ!」





 別の日、酒場でも同じような光景が繰り広げられていた。グラスを片手にしたアンドルーは、酔いに任せたように語り出す。

「俺はミシェルを愛している。誰よりも愛している。彼女がどんなに俺を嫌っても、俺の気持ちは変わらない」

「お前の話は毎回同じじゃないか。それで彼女が振り向くと思っているのか?」

「分からない。でも、諦められないんだ」

「哀れな男だな」

「そうかもしれない。でも、これが俺なんだ。いつかミシェルに俺の気持ちが届くと信じている」

 アンドルーの言葉はますます滑稽なものに聞こえてくる。彼自身、自分が何をすべきか分からず、ただ彼女への執着、あるいは未練で行動しているかのようだった。

「彼女のために醜態を晒してまで告白するなんて、全く理解できない」

「俺だって理解されなくてもいい。ただ、俺の愛を知ってもらいたいだけだ」

「馬鹿げてるな」

 周囲の人々は冷ややかに笑うが、アンドルーは一向に気にしない。





 こうしてアンドルーの行動はさらに歪んでいった。彼が語る「愛」は、人々にとって単なる自己満足の押し付けにしか感じられなかった。彼の姿は哀れでありながらも、どこか滑稽で不快感を覚える存在へと変わっていた。

「アンドルー様が今度は愛を語り始めたようです」

 使用人がミシェルに報告すると、彼女は深くため息をついた。

「また何か企んでいるのね」

「どうやらそうらしいです。しかし、あまり良い反応は得られていないようです」

「そうでしょうね。彼の行動はもう誰のためでもなく、完全に自分勝手なものだわ」

 ミシェルは小さく首を振る。アンドルーの執着は彼女にとって重荷でしかない。

「放っておくしかないわ。彼がどれだけ叫ぼうと、私の気持ちが変わるはずもないもの」

「承知しました」

 使用人は軽く一礼し、部屋を後にした。

「もう関わりたくないのに……放っておいても解決しないわよね……」

 彼女は静かに呟いた。
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