√悪役貴族 処刑回避から始まる覇王道~悪いな勇者、この物語の主役は俺なんだ~

萩鵜アキ

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1章 悪役貴族は屈しない

第8話 真の取引はすべてのカードが開かれてから

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「だったら、うちが仕入れるわよ」
「本当ですか!?」

 それは渡りに船。
 それも豪華客船レベルだ。

 ヴァルトナーならば、どこから何を仕入れているか誤魔化す術はいくらでもあるだろう。
 ファンケルベルクが危険なオクスリを簡単に仕入れられるように。(仕入れないけどな!)

「販売も、うちが直接商店に卸すわ」
「それって……」

 ヴァルトナー公認商品!
 これは、とんでもない後ろ盾が出来た。

 通常、ヴァルトナーは商品の流通を俯瞰して管理する。
 だがその品質を認めたものには、ヴァルトナー公認の印が押される。
 それだけで、価値が何倍にも膨れ上がると言われている。

 おまけに、背後にヴァルトナーが付いているため、製造方法の探りも入れられなくなる。
 もし手を出そうものなら、表世界から締め出されるだろう。

「それだけ、気に入ったってことよ」

 そういうエレンの肌は、以前よりも明らかに透明感が増しており、つやつやしていた。
 一転。表情を引き締める。
 途端に空気がピリッとする。

「さて、それでは価格のお話に移りましょう」
「はい」
「あなたは、いくらで卸すつもりかしら?」
「それは……」

 ヤシの仕入れ値は1玉100クロン。
 そこに、製造コストと俺の人件費を入れる。
 石けんの原価は50クロン。
 化粧水は30クロンだ。

 これはあらかじめ、計算してきたものだが、ここからいくら値段をつり上げられるかは、その場の雰囲気で考えようと思ってた。

 いま、俺が生み出した石けんと化粧水はビッグウェーブに乗ってる。
 なら強気の価格設定をしても、喧嘩にはならないだろう。

「……石けんが1万クロン。化粧水が5万クロンで」
「却下」
「えっ!?」

 途端に、空気が張り詰める。
 心臓がバクバクいって、背中に嫌な汗が流れる。

 さすがは親子。
 今の表情は、ゲームに出て来た悪役令嬢ラウラにそっくりで、とても怖い。
 緊張のあまり、顔が歪む。

 待て。
 俺は何を間違えたんだ?

 高すぎた、か?
 強気すぎたか?

 くそっ、リセットボタンはどこだ!?
 選択肢の前からやりなおしたい!

「あなた。自分の才能を安売りすべきでないわ」
「……はい?」
「これほどの商品は、そうそう世に出てこない。そんなものを、1セットたかが6万クロンで販売するなんて、私が許しません」
「ええと……では、いかほどなら?」
「その十倍よ」
「え?」
「十倍。10万クロンと、50万クロンにしなさい」

 10万と、50万て、マジか……。
 1セット売れるだけで、貧乏学生なら半年は暮らせるぞ!

 かなり多すぎる気はするが、ここは素直に頷いておく。
 素人はプロの仕事に口を挟まないほうが上手くいく。

 それに、勇者と対決した後を思えば、儲けはデカければデカいほどいい。
 お金はあっても腐らないしな。

 そこから、月に納品できる量や、支払いについて詰めていく。
 今のままでよければ、月に50セット。少し無理をすれば100セットはいける。

 そう提案すると、50セットのままで良いと言われた。

「少なければ少ないほど、プレミアが付く。欲しいものが手に入らなければ、貴族という生き物はなんとしてでも買いたくなるのよ」

 なるほど。そういうものなのか。
 そうなると、見込みだけで……1ヶ月に三千万クロンの収入、だとッ!

「まあ、いまは種類が少なくて取引も少額だけど、ゆくゆくは商品点数を増やしていきたいわね」

 これで少額!?
 ……貴族の商売って、すごいな。
 金銭感覚がバグりそうだ。

 商談が終わり、お互いに書類にサインを行う。

「ところで、先週頂いた試供品だけれど、5点ほど作って頂ける?」
「ええ、大丈夫ですけど、なにに使われるんですか?」
「お友達に使って貰うのよ。一度でもこれを使ったら、もう二度と抜け出せないわよ。うふふ」

 エレン夫人が、まさに悪役といった表情を浮かべた。
 うわ、ホンモノだ。ホンモノがいる!
 背筋がゾクゾクする。

 さて。
 腹に力を入れる。
 ここからが、本題――ファンケルベルクの領分だ。

「ところでエレンさん。一つお願いがあるんですけど、よろしいですか?」
「ええ、構わないわよ」
「一人、どうしても消したい人がいましてね」

 言うと、エレンさんの顔が引きつった。
 でも一瞬で元の表情に戻る。

「そ、それならあなたの領分よ?」
「そうなんですけど、俺の手が届く範囲は限られていましてね。隣の島には手が出せない」
「……あー……そう、うちの領域なのね」
「はい」

 ファンケルベルクは、裏の勢力を牛耳っている。
 その中なら、誰であっても自由に闇に葬れる。
 例外として政治家の暗殺もあるが、これは国家主導の処刑――見せしめなので、俺の家に裁量はない。国王の勅令があって初めて暗殺可能になる仕組みだ。

 逆に、これだけの力があっても手が出せない領分がある。
 それがヴァルトナー――表の領域だ。

 どれだけ邪魔でも、商人を闇に葬ってはいけない。

 ファンケルベルクとヴァルトナーが対立すれば、国家の安全が脅かされる。
 だから、お互いの領分には手を出さない。
 これは建国時代からの鉄の掟だ。

「……一応、話だけは聞きましょうか。誰が標的なのかしら?」
「それは――――」
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