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1章 悪役貴族は屈しない
第15話 プレイヤーの夢
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「ハンナ。そこに直れ」
「ええと?」
「そこに直れ!」
威圧を発動。
体から魔力が膨張し、相手にのしかかる。
この一年でわかったことだが、どうもエルヴィンは魔力がたくさんあるようだ。
元々ゲームのエルヴィンって、キャストディレイが無かったからな。
初めて対戦したとき、魔法を連発してきて、めちゃくちゃうざかった。
まだゲームになれてない頃は、『なんでそんなに魔法連チャンできんだよ!』と憤ったな。懐かしい。
VRゴーグルの操作に慣れるまでは、かなり苦戦したもんだ。
そのキャストディレイゼロが、現実に置き換わると魔力量という形になるようだ。
さておき、ハンナは使用人筆頭。
戦闘能力は未知数。
手心は加えずとも良いだろう。
己の体質を存分に利用し、魔力をガンガン込めまくる。
魔力を一定量込めたところで、ハンナががくっと膝を折った。
忠臣のように、片膝を立てて頭を垂れる。
さて、と。
ここからが本番だ。
「貴様、あの男に情報を流し――俺の暗殺に加担したな?」
「な…………なんのこと、でしょうか?」
「しらばくれるな」
偶然にもハンナが俺とともに行動していたこと。
何故か、俺の通学ルートが男に漏れていたこと。
男が襲いかかってきたのに、ハンナが動かなかったこと。
これらを併せると、この事件の裏にハンナの姿が浮かび上がる。
まあ、これが俺の勘違いだったとしてもな。
不審者が襲いかかってきたのに、ファンケルベルク使用人筆頭のハンナが動かなかったのはアウトだ。
これだけで、使用人を首に出来るレベルである。
「弁明はあるか?」
「…………」
「まあ、答えずとも良い。貴様の考えはわかっている」
「――ッ!?」
きっと、裏の世界に疲れたんだろうな。
そういうキャラクターだし。
実際、ゲームの中だとエルヴィンを裏切るし。
この際だから、ハンナを切る手もあるんじゃないか?
護衛として、明らかな不手際だし。
首にすれば、ハンナは嫌な世界から足を洗えるし、将来俺が背中から撃たれる可能性がなくなる!
一石二鳥。
よし、これで行こう。
「貴様は本日をもって首だ」
「…………はっ?」
「好きなところへゆけ」
「そ、そんなッ!!」
次の瞬間、ハンナが絶望の表情を浮かべた。
まるで殺される直前のような悲壮感が漂っている。
……もしかして『首』って別の意味に聞こえちゃったか?
「く、首は暇を出すという意味で――」
「大変申し訳ありませんでした!! お願いです。お願いですから、首だけはッ!!」
「……う、む?」
ハンナが地面に額をつけた。
あれぇ?
なんか、想像してたのと違う。
というかこの状況。
周りから見たら貴族が使用人をいじめてる、悪者貴族みたいに見えないか!?
背中に嫌な汗が流れる。
もしかして、これは俺の悪評を流す作戦か?
「こ、今回の一件は、ほんの出来心……エルヴィン様をお心を試しておりました」
「――はッ?」
「申し訳ございません! 使用人風情が主を試すなんて、とんでもないことだとはわかっております!! し、しかしこれには、訳があります。
私は、本当にファンケルベルクを愛しております。社会の悪を制御し、悪臭を放つゴミを消す、正義悪の権化ファンケルベルク家に、一生を捧げる覚悟を持っています! しかし、先代が亡くなってから、エルヴィン様はその……ファンケルベルクとして悪の覇道を歩んでいるように思えず……」
ちょっと待って。
ハンナの言ってるファンケルベルクって、うちのこと?
なんか、別のものを見てないか?
なんだよ正義悪の権化って……。
「てっきり、ヴァルトナーに鞍替えするのかと思い、真意を知りたく、このようなことを……」
「あ-、うむ」
たしかにな。
俺はこれまで、商人っぽいことをずっとしてきたからなあ。
家の仕事は使用人にほとんど投げっぱなしだったし。
父親の後を継いで、裏世界をまとめ上げようなんて気概は一切見せてない。
だって、悪の覇道なんて歩む気さらさらないもん!
「家中の者たちも不安に思ってます。ファンケルベルクが消えてしまうのではないかと」
ファンケルベルクが消えたら、自分たちが消される(物理)番だしな。
そら怖いよな。
そうだな。
考えていることを明かさなかった、俺にも落ち度はあるか。
そろそろ目処も立ったし。
ここらで、しっかり伝えておくべきだな。
「ファンケルベルクを終わらせるつもりはない」
「そう、でしたか……」
「それから、今まで黙っていたが、これから家を上げた事業を始める」
これまでお金を稼いできた理由。
第二の矢。
それは、プロデニの終盤コンテンツを今の俺が先取りしてしまおうという計画だ。
今後俺が悪役貴族として勇者に締め上げられるのは確定事項だ。
俺はそれまでに勇者に対抗出来る力を付ける。
しかしいくら力を付けても、運命……というかシナリオの強制力のせいで、悪役貴族として敗北するかもしれない。
ようはゲームの負けイベントみたいなもんだ。
負けた場合に、俺やファンケルベルクの使用人たちの逃走先を作ろうと思った。
それが終盤コンテンツ先取り計画。
――拠点作りだ!
「ええと?」
「そこに直れ!」
威圧を発動。
体から魔力が膨張し、相手にのしかかる。
この一年でわかったことだが、どうもエルヴィンは魔力がたくさんあるようだ。
元々ゲームのエルヴィンって、キャストディレイが無かったからな。
初めて対戦したとき、魔法を連発してきて、めちゃくちゃうざかった。
まだゲームになれてない頃は、『なんでそんなに魔法連チャンできんだよ!』と憤ったな。懐かしい。
VRゴーグルの操作に慣れるまでは、かなり苦戦したもんだ。
そのキャストディレイゼロが、現実に置き換わると魔力量という形になるようだ。
さておき、ハンナは使用人筆頭。
戦闘能力は未知数。
手心は加えずとも良いだろう。
己の体質を存分に利用し、魔力をガンガン込めまくる。
魔力を一定量込めたところで、ハンナががくっと膝を折った。
忠臣のように、片膝を立てて頭を垂れる。
さて、と。
ここからが本番だ。
「貴様、あの男に情報を流し――俺の暗殺に加担したな?」
「な…………なんのこと、でしょうか?」
「しらばくれるな」
偶然にもハンナが俺とともに行動していたこと。
何故か、俺の通学ルートが男に漏れていたこと。
男が襲いかかってきたのに、ハンナが動かなかったこと。
これらを併せると、この事件の裏にハンナの姿が浮かび上がる。
まあ、これが俺の勘違いだったとしてもな。
不審者が襲いかかってきたのに、ファンケルベルク使用人筆頭のハンナが動かなかったのはアウトだ。
これだけで、使用人を首に出来るレベルである。
「弁明はあるか?」
「…………」
「まあ、答えずとも良い。貴様の考えはわかっている」
「――ッ!?」
きっと、裏の世界に疲れたんだろうな。
そういうキャラクターだし。
実際、ゲームの中だとエルヴィンを裏切るし。
この際だから、ハンナを切る手もあるんじゃないか?
護衛として、明らかな不手際だし。
首にすれば、ハンナは嫌な世界から足を洗えるし、将来俺が背中から撃たれる可能性がなくなる!
一石二鳥。
よし、これで行こう。
「貴様は本日をもって首だ」
「…………はっ?」
「好きなところへゆけ」
「そ、そんなッ!!」
次の瞬間、ハンナが絶望の表情を浮かべた。
まるで殺される直前のような悲壮感が漂っている。
……もしかして『首』って別の意味に聞こえちゃったか?
「く、首は暇を出すという意味で――」
「大変申し訳ありませんでした!! お願いです。お願いですから、首だけはッ!!」
「……う、む?」
ハンナが地面に額をつけた。
あれぇ?
なんか、想像してたのと違う。
というかこの状況。
周りから見たら貴族が使用人をいじめてる、悪者貴族みたいに見えないか!?
背中に嫌な汗が流れる。
もしかして、これは俺の悪評を流す作戦か?
「こ、今回の一件は、ほんの出来心……エルヴィン様をお心を試しておりました」
「――はッ?」
「申し訳ございません! 使用人風情が主を試すなんて、とんでもないことだとはわかっております!! し、しかしこれには、訳があります。
私は、本当にファンケルベルクを愛しております。社会の悪を制御し、悪臭を放つゴミを消す、正義悪の権化ファンケルベルク家に、一生を捧げる覚悟を持っています! しかし、先代が亡くなってから、エルヴィン様はその……ファンケルベルクとして悪の覇道を歩んでいるように思えず……」
ちょっと待って。
ハンナの言ってるファンケルベルクって、うちのこと?
なんか、別のものを見てないか?
なんだよ正義悪の権化って……。
「てっきり、ヴァルトナーに鞍替えするのかと思い、真意を知りたく、このようなことを……」
「あ-、うむ」
たしかにな。
俺はこれまで、商人っぽいことをずっとしてきたからなあ。
家の仕事は使用人にほとんど投げっぱなしだったし。
父親の後を継いで、裏世界をまとめ上げようなんて気概は一切見せてない。
だって、悪の覇道なんて歩む気さらさらないもん!
「家中の者たちも不安に思ってます。ファンケルベルクが消えてしまうのではないかと」
ファンケルベルクが消えたら、自分たちが消される(物理)番だしな。
そら怖いよな。
そうだな。
考えていることを明かさなかった、俺にも落ち度はあるか。
そろそろ目処も立ったし。
ここらで、しっかり伝えておくべきだな。
「ファンケルベルクを終わらせるつもりはない」
「そう、でしたか……」
「それから、今まで黙っていたが、これから家を上げた事業を始める」
これまでお金を稼いできた理由。
第二の矢。
それは、プロデニの終盤コンテンツを今の俺が先取りしてしまおうという計画だ。
今後俺が悪役貴族として勇者に締め上げられるのは確定事項だ。
俺はそれまでに勇者に対抗出来る力を付ける。
しかしいくら力を付けても、運命……というかシナリオの強制力のせいで、悪役貴族として敗北するかもしれない。
ようはゲームの負けイベントみたいなもんだ。
負けた場合に、俺やファンケルベルクの使用人たちの逃走先を作ろうと思った。
それが終盤コンテンツ先取り計画。
――拠点作りだ!
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