√悪役貴族 処刑回避から始まる覇王道~悪いな勇者、この物語の主役は俺なんだ~

萩鵜アキ

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1章 悪役貴族は屈しない

第29話 悪役ポジション……変わろうか?

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 決闘の一件について、教師からちょっとだけお小言を貰った以外は、特に目立った罰則は受けなかった。

 どうやら勇者の奇行については教師の耳にも入っているらしい。

「なんとか決闘だけは避けられなかったのか?」
「さすがにアレの相手は無理です。言葉が通じません」
「……そうか」

 そう言うとあっさり引き下がったので、間違いない。

 学校から出ると、ハンナが小走りで近づいてきた。
 その目が、少々血走っている。
 もう何言うかがわかるな。

「消――」
「さない!」

 ほらな。
 なんでもすぐ消そうとするんじゃない。
 人間はパソコンじゃない。
 一度消したら、再起動出来ないんだぞ。

「事故を装えば――」
「ヤろうとするなってば……」

 ずいぶんと好戦的だな。
 勇者といい勝負だ。

「それにしても、圧勝でしたね。攻撃をかすらせることもありませんでしたね」
「……見てきたように言うな?」
「見てましたから」
「…………」

 えっ、あの場にいたの?
 忍び込んで?

 ファンケルベルクの筆頭使用人、すげぇな。
 全然気づかなかったわ。

「そういえば、何故攻撃されなかったんですか?」
「……触れたら壊れるぞ、あいつ」

 勇者のくせに、めっっっっっちゃくちゃ弱かった!

 なんだアイツ。
 これまでの人生、どんだけサボったらあんなに弱くなれるの!?

 正直、弱すぎて引いた。
 戦う価値もないって、格好付けや煽りの台詞じゃなくて、本当に実在する感覚なんだな……。

「あれでも一応は、聖皇国公認の勇者だ」
「見逃すのですか?」

 その時、ハンナの瞳から光が抜け落ちた。
 ぞっとする程深い闇。

 やばっ。
 そういえばこいつ、ファンケルベルク一筋だったっけ。

 家を馬鹿にされてんのに放置したなら、俺の背中に穴が空きかねんな……。

 あっという間に落命の危機。
 背中に冷たい汗が流れる。

 頭をフル回転させて、出て来た言い訳は。

「いや、泳がせる」
「……と、言いますと」
「今は弱すぎて話にならん」
「?」
「お前は、子犬に吠えられただけで消すのか?」
「なるほど、今はヤる気にならないと。よくわかりました」

 くっ、消すとかヤるとか、ファンケルベルク語かなんかなのか!?
 なんで穏便な言葉じゃ伝わらねぇんだよ……。



          ○



 この一件を境にして、勇者がプロデニの基本シナリオからはずれ――孤立していった。
 いやマジでどうなってんだ?

 シナリオはずれすぎだろ。
 プロデニ本編だと、結構取り巻きがいて、ワイワイ談笑してるシーンいっぱいあったぞ?

 なのに今の勇者くんときたら……。
 教室の中央にぽつんと一人座ってる。
 周りには誰もいない。

 近づいたら絡まれると思ってるんだろ、きっと。
 うん、俺でも思うよ。

 だってめっちゃ絡まれたし。
 いきなり決闘だ! とか言う奴の近くに寄りたい奇特な人なんてこの世におるんか?

 ――あ、いた。

 ニーナだけは勇者の近くにいるんだな。
 まあ……内心仕事仕事!とか思ってそうだが。

 あれで平常心を保ててる勇者がすご――。

「――ッ!!」

 勇者がギロッと俺を睨んだ。
 うん、全然平常心じゃないな。
 怖い怖い。
 俺も近づかないでおこーっと。

 三ヶ月もすると、もう勇者は空気になっていて、誰も動向を気にしなくなっていた。
 これっていじめに入るのか?
 危ない奴に近づかないって判断は、いじめになるのか?

 よくわからん。

 最近勇者がおとなしくて平穏が保たれてるが、時々怖くなる。
 どこかで暴発するんじゃないかって。
 あるいは、爆発する場所を待ってるのか……。



 入学して初めての訓練授業。
 はい、二人一組になって剣術のお稽古をしましょー、なんて緩い授業じゃなくて、ガチでぼこぼこになるまで殴り合う。

「どんな怪我をしても、国定回復士がいるから大丈夫だ」

 というのが、この授業担当の教師の言葉だ。

「でも、気を抜くなよ? 当たり所が悪けりゃ死ぬからな。実際、毎年何人かは死んでるからな。ハッハッハ!」

 何笑ってんだよ。
 事件だろ。
 まあ今年は国定回復士と一緒に、心強い仲間(?)もいる。

「アタシ、一応これでも聖女だし。心臓止まってなきゃ元通りに治せるわよ。みんな、心臓だけは止まらないように頑張ってね☆」

 いやその台詞はどうなんだ。
 逆にみんな腰引けてんぞ?

「念のため繰り返すが、この訓練ではファイアボールなどの放出系の魔法は一切禁止だ。あくまで肉体だけでぶつかり合ってもらう。追い込まれても魔法だけは絶対に使うなよ? 使ったら停学。最悪退学だからなッ!」

 人が集まってる中で素人が放出系の魔法なんて使ったら、どれだけ怪我人が出るかわからないからな。
 最悪、死人が出る。
 魔法はあくまで魔法の授業でしか使っちゃダメ、絶対。

 立てかけてある木剣を手に取る。
 さあて俺の相手は……って、まあ、探すまでもないか。

「よお、首洗って待ってたか?」

 初めから殺意マックス。
 殺る気十分のアベルくんが、俺の前に立ちはだかって顔を歪ませた。

 君のその顔、完全悪役なんだけど……。
 絶対俺とポジション変えたほうがいいよ。

 勇者と俺がやるってことになった途端に、みんなが一気に壁際に引っ込んだ。
 いいぞやれやれ、って感じじゃなくて、巻き込まれないように逃げただけだ。

「裏でクラスメイトを操ってオレを孤立させてんだろ?」
「……そんなことをして、俺に何の得がある?」
「裏でオレを嗤ってたんだろ!!」

 えっ、嗤うためだけに、クラスメイトを操ったって?
 やらねぇよそんなこと。
 手間に対してリターンが釣り合ってないだろ。

「今日、ここで叩き潰してやる」
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