√悪役貴族 処刑回避から始まる覇王道~悪いな勇者、この物語の主役は俺なんだ~

萩鵜アキ

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1章 悪役貴族は屈しない

第44話 悪いな勇者

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「お前を殺して、元のルートに戻って、ハーレムエンドで、オレは国王になるんだ……ッ」

 血走った目が俺を射貫く。
 ぬらりと勇者が剣を抜いた。

 黄金色のそれは、イージーモード専用の、序盤だけやけに強い『ゴールドソード』。
 中盤までには更新必須だが、序盤の武器を2~3すっ飛ばせる性能がある。

 へえ、そんなのも持ってたのか。
 感心していると、勇者が黄金の剣を構えて俺に迫ってきた。

「死ねぇぇぇぇえ!!」

 だから台詞ぅ!
 それじゃただの悪役だろ!
 お前勇者なんだから、少しは勇者らしい台詞をいえッ!

 寸前のところで、刀剣を抜きガード。
 ――キィィィィン!
 これまでに感じた事のない重みが腕に伝わった。

 おっ、重いな。
 前回戦ったときよりも速いし、攻撃が鋭い。
 このドリンク、ステータスだけじゃなくてスキルも倍化するのか?

 イージーモードは甘え!
 と思って一切手を付けなかったけど、このドリンクがどうなるのかは試しておくべきだったな。
 ――主に知識として。

「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね!!」
「――ッ」

 スキルが倍化されてるはずなのに、攻撃がめちゃくちゃだ。
 こいつ、剣術スキル持ってる……よな?
 だって入学してから三ヶ月経ったんだぜ?
 勇者はステータスからスキルまで、どのキャラよりも取得しやすく上がりやすい。
 これでスキルがなかったら、どんだけ稽古サボってんだよってレベルだ。

 途中途中、ライトニング・ボールを放ってくるけど、これも発動が遅すぎる。
 当たっても、精神力の壁に阻まれてすぐにかき消される。

 弱い。弱すぎる。
 勇者がこれって、めちゃくちゃ悲しい。
 俺がプレイしたらもっと強くなるのに……。

「なんで、これだけ、強化してんのに、死なないんだよッ!」
「……それは、お前が弱すぎるからだ」
「黙れッ! オレは勇者だぞッ!!」
「だからなんだ?」
「オレは物語の主役だッ!」

 勇者が振りかざした黄金の剣に、俺の刀剣を全力でぶつける。
 すると黄金の剣は音もなく真っ二つになった。

「は……うそ、だろ……なんで……。だって、これは、序盤最強の……」

 ゆらゆらと、勇者が後ずさり地面に腰を落とした。
 さもありなん。
 いくら序盤最強といっても、終盤最強の武器とぶつかったらこうなるに決まってる。

 アナライズの鑑定でも、性能差は明らかだ。
『聖光の刀剣』攻撃力500
『ゴールドソード』攻撃力58

 剣をたたき切るのは悪いかと思ったんだが、お前、その剣いらないだろ?
 だってまともに使えてねぇもん。

「オ、オレは勇者だ。このゲームの主人公だぞ!? こんなこと、あっていいわけが――」

「悪いな勇者。この物語ルートの主役は俺なんだ」

 城門の前に、ファンケルベルクの馬車が止まった。
 よし、これで手はず通りだ。あとは王都を出るだけ。

 勇者に向き直り、剣を構える。

「勇者よ。俺は今から国を出る。その意味がわかるか?」
「……?」

 うん、わからないよね。
 そういう奴だよ、お前は。

 これまではアドレア王国の公爵って立場があったせいで、どこぞの勇者が無茶苦茶やっても、外交問題になるから手が出せなかったんだよ。

 その肩書きがなくなったらどうなるかは……言葉より体で教えた方が早いな。

「さて、そろそろ終わりにしよう」
「ま、待て。お互い話し合えばわか――」
「あの世ではせいぜい無能な自分を顧みるんだな」
「うわぁぁぁあ――」

 縦横憮刃エクストラ・シュレイド

 一秒に数十度切りつける。
 体がバラバラになった勇者の、うつろな瞳が空を見る。

 リアルぅ!
 超グログロ。
 いや当然だけどさ。
 やばい。夢に出そう。

 血振るいをして、刀剣を鞘に収める。
 さらば勇者よ。

 馬車に向かおうとした、その時だった。
 勇者の胸元が不自然に発光した。

「むッ!?」

 その光はあっという間に全身(というか全肉)を包み、消えた。
 あとには、勇者の体だけでなく、血すらも残っていない。

 なんだこれは……?
 初めて見る光景だ。

 あー、もしかするとあれか。
 イージー限定蘇生アイテム。

 デッドエンドになった場合、一度だけ蘇生して、セーブポイントで生き返るアイテムがあったな。

 でも、そうか。
 また勇者につきまとわれるのか……。

 死亡これで少しは懲りてくれたらいいんだけどな。
 あの性格じゃ、ちっとも期待出来んな。

「はあ……」

 深いため息を吐き、気持ちを切り替え馬車に向かう。
 勇者のことは忘れよう。
 それより今は、新拠点だ!

 この七年間、俺の稼ぎのほとんどをつぎ込んだ遺跡がどうなってるか、楽しみだ。

 馬車に乗って俺は一路、遺跡を改修した拠点へと向かうのだった。


○名前:エルヴィン・ファンケルベルク
○年齢:16歳  ○肩書き:元貴族 NEW
○レベル:51
○ステータス
 筋力:8610→9670 体力:9400→10761
 知力:8610→9670 精神力:22600→23766

○スキル
 ・大貴族の呪縛 ・剣術Ⅴ ・身体操作Ⅳ→Ⅴ ・魔力操作Ⅵ
 ・強化魔法Ⅴ ・闇魔法Ⅶ ・威圧Ⅲ→Ⅳ ・調合Ⅳ
○称号
 ・EXTRAの覇者
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