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悪役領主はひれ伏さない
第54話 急ぎ出立
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「どうしたンですか大将?」
「しばし待て」
考えろ。考えるんだ!
今、一瞬浮かんだ光景は、間違いなくプロデニのイベントだ。
だがそれが何だったかすぐに思い出せない。
7年前の記憶だから仕方ないが、脳の皺に刻まれるほどプレイしたプロデニのことを、すんなり思い出せないのがもどかしい。
何がきっかけで光景が浮かんだ?
『操作系魔法が得意な魔物がいたら』
『魅了対策は十分だ』
そう、この一連の流れだ。
大事なワードは、魅了と対策……か?
だが、俺のアクセを突破出来る魅了なんて、この世界にはそもそも存在しない。
絶対的といっていい耐性がある。
だから、別になにも引っかかる要素は……。
「――あった」
あった。あったあったッ!!
くそっ! なんで俺はあのイベントを忘れてたんだよッ!!
あれは、絶対に忘れられないし、忘れちゃいけないはずのもんだろッ!!
畜生、胸がムカムカする。
あれを忘れて、自分が一番プロデニを知ってるツラしてたのが、一番腹が立つ。
「た、大将? おっかねぇ顔して、どうしたんで――」
「ユルゲン、急用が出来た。これを使用人たちに振り分けよ」
「へい。……で、急用ってのは何ですか?」
「イングラム王国に向かう」
「……へっ?」
――そう。あの屈辱的なイベントを事前に防ぎきるには、今すぐにでもイングラム王国に乗り込み、対策アイテムを入手する必要がある。
大事なイベントを忘れていた自分に、猛烈に腹が立つ。
反面、背中には冷や汗がびっしりだ。
万が一対抗策を用意しなかったら、これまで俺が手に入れたあらゆるものが破壊され、引き裂かれる絶望的なバッドエンドが待っている可能性がある。
いくつか考えられるバッドエンドの中でも、これだけは本当にヤバイ!
足早に一階に戻り、最低限必要な荷物を持ち出す。
城を出ると、門前には既に馬車が用意されていた。
「……助かる、ユルゲン」
ただ一言『イングラム王国に向かう』と告げただけで、これほど素早く手はずを整えるとは、さすがはファンケルベルクの家令副長だけはある。
馬車に乗って、ゆったりとした速度で街を進む。
気持ちはもっと飛ばしてほしいが、大通りは人の往来がかなりある。
こんなところで飛ばそうものなら、人を轢きかねない。
万が一、ファンケルベルクの紋章のある馬車が市民を轢き殺そうものなら、とんでもないヘイトが溜まりそうだ。
それはそれで、別のバッドエンドフラグが立ちかねん。
『貴族の馬車が――』『あれは当主の――』
『さすがお貴族様、市民の命はゴミってか』
『くそっ、この街のために頑張ってきたってのにッ!』
想像すると、マジでおっかない。
危険なバッドエンドを避ける旅で、うっかり暴動撲殺エンドは嫌すぎる……。
心にブレーキをかけて深呼吸していると、馬車の扉が開き白い塊が飛び込んできた。
「よっと。あら、エルヴィンじゃない。久しぶりね」
「……ああ、大司教様か」
なにかと思ったら聖女だった。
びっくりしたぁ。
丁度暴動エンドを想像してたから、住民の怒りの突入かと思ったわ。
「やめてよ。アンタに大司教って言われるとなんかイヤ」
「大司教には違いないだろ?」
「そうだけど。ちゃんと、な、名前で呼びなさいよ!」
「ふむ。ではニーナ、久しいな。いつぶりだ?」
「ッ! きょ、教会の運営に必要なものを手配してもらった時以来ね」
ということは、かなり前だな。
この街に来た当初、城も教会も、側はあるが中身がすっからかんだった。
当然、そんな状況ではまともな生活など出来るはずがない。
そこでニーナが直接俺の元に陳情に来た。
家具もそうだが、教会で使う長椅子や聖書台を納品した。
無論、支払いは無料。
エル・テオス教の敬虔な信者たる国王陛下が教会に奉仕したという体になっているが、正直断れば良かったと後悔したくらい金がかかった……。
「あれから、教会の運営はどうだ?」
「まずまずよ。教会に来る人もそこそこ増えてきてるわ」
「それは重畳」
「ところで、今日はどこに行くの? 馬車に乗るなんて珍しいけど」
「イングラム王国だな」
「ふぅん。何が目的?」
「……ただの観光だ」
「悪の大貴族サマが、ただの観光? もう少しまともな嘘をいいなさいよ」
「誰が悪の大貴族だ」
「あら失礼。〝元〟大貴族サマだったわね、国王陛下」
「勘弁してくれ」
勇者が消えて(というか俺が消したんだが)以来、ニーナは憑きものが落ちたように、溌剌としている。
このやり取りだって、学園時代ではまず考えられない。
だが、これがニーナだ。
プロデニではこういうキャラだったから、なんか安心する。
それに、俺の方もこいつとの会話は安心する。
『大貴族の呪縛』が唯一効果を発揮しない人物だからな。
少し前までラウラも効果がない人物だったんだが、俺の肩書きが変わったからか、なんか突然スキルが発動するようになっちまったんだよなあ。
なんで、国王になんて変わっちまったんだよ……。
ちくしょう!
さておき、ニーナの場合は肩書きの『聖女』が効いてるのか、それとも『大司教』って立場が効いてるのかはわからない。
いずれにせよ、スキルはこいつを俺と同格かそれ以上と認識してるらしい。
「ねえ、イングラム王国だけど、アタシも付いてっていい?」
「しばし待て」
考えろ。考えるんだ!
今、一瞬浮かんだ光景は、間違いなくプロデニのイベントだ。
だがそれが何だったかすぐに思い出せない。
7年前の記憶だから仕方ないが、脳の皺に刻まれるほどプレイしたプロデニのことを、すんなり思い出せないのがもどかしい。
何がきっかけで光景が浮かんだ?
『操作系魔法が得意な魔物がいたら』
『魅了対策は十分だ』
そう、この一連の流れだ。
大事なワードは、魅了と対策……か?
だが、俺のアクセを突破出来る魅了なんて、この世界にはそもそも存在しない。
絶対的といっていい耐性がある。
だから、別になにも引っかかる要素は……。
「――あった」
あった。あったあったッ!!
くそっ! なんで俺はあのイベントを忘れてたんだよッ!!
あれは、絶対に忘れられないし、忘れちゃいけないはずのもんだろッ!!
畜生、胸がムカムカする。
あれを忘れて、自分が一番プロデニを知ってるツラしてたのが、一番腹が立つ。
「た、大将? おっかねぇ顔して、どうしたんで――」
「ユルゲン、急用が出来た。これを使用人たちに振り分けよ」
「へい。……で、急用ってのは何ですか?」
「イングラム王国に向かう」
「……へっ?」
――そう。あの屈辱的なイベントを事前に防ぎきるには、今すぐにでもイングラム王国に乗り込み、対策アイテムを入手する必要がある。
大事なイベントを忘れていた自分に、猛烈に腹が立つ。
反面、背中には冷や汗がびっしりだ。
万が一対抗策を用意しなかったら、これまで俺が手に入れたあらゆるものが破壊され、引き裂かれる絶望的なバッドエンドが待っている可能性がある。
いくつか考えられるバッドエンドの中でも、これだけは本当にヤバイ!
足早に一階に戻り、最低限必要な荷物を持ち出す。
城を出ると、門前には既に馬車が用意されていた。
「……助かる、ユルゲン」
ただ一言『イングラム王国に向かう』と告げただけで、これほど素早く手はずを整えるとは、さすがはファンケルベルクの家令副長だけはある。
馬車に乗って、ゆったりとした速度で街を進む。
気持ちはもっと飛ばしてほしいが、大通りは人の往来がかなりある。
こんなところで飛ばそうものなら、人を轢きかねない。
万が一、ファンケルベルクの紋章のある馬車が市民を轢き殺そうものなら、とんでもないヘイトが溜まりそうだ。
それはそれで、別のバッドエンドフラグが立ちかねん。
『貴族の馬車が――』『あれは当主の――』
『さすがお貴族様、市民の命はゴミってか』
『くそっ、この街のために頑張ってきたってのにッ!』
想像すると、マジでおっかない。
危険なバッドエンドを避ける旅で、うっかり暴動撲殺エンドは嫌すぎる……。
心にブレーキをかけて深呼吸していると、馬車の扉が開き白い塊が飛び込んできた。
「よっと。あら、エルヴィンじゃない。久しぶりね」
「……ああ、大司教様か」
なにかと思ったら聖女だった。
びっくりしたぁ。
丁度暴動エンドを想像してたから、住民の怒りの突入かと思ったわ。
「やめてよ。アンタに大司教って言われるとなんかイヤ」
「大司教には違いないだろ?」
「そうだけど。ちゃんと、な、名前で呼びなさいよ!」
「ふむ。ではニーナ、久しいな。いつぶりだ?」
「ッ! きょ、教会の運営に必要なものを手配してもらった時以来ね」
ということは、かなり前だな。
この街に来た当初、城も教会も、側はあるが中身がすっからかんだった。
当然、そんな状況ではまともな生活など出来るはずがない。
そこでニーナが直接俺の元に陳情に来た。
家具もそうだが、教会で使う長椅子や聖書台を納品した。
無論、支払いは無料。
エル・テオス教の敬虔な信者たる国王陛下が教会に奉仕したという体になっているが、正直断れば良かったと後悔したくらい金がかかった……。
「あれから、教会の運営はどうだ?」
「まずまずよ。教会に来る人もそこそこ増えてきてるわ」
「それは重畳」
「ところで、今日はどこに行くの? 馬車に乗るなんて珍しいけど」
「イングラム王国だな」
「ふぅん。何が目的?」
「……ただの観光だ」
「悪の大貴族サマが、ただの観光? もう少しまともな嘘をいいなさいよ」
「誰が悪の大貴族だ」
「あら失礼。〝元〟大貴族サマだったわね、国王陛下」
「勘弁してくれ」
勇者が消えて(というか俺が消したんだが)以来、ニーナは憑きものが落ちたように、溌剌としている。
このやり取りだって、学園時代ではまず考えられない。
だが、これがニーナだ。
プロデニではこういうキャラだったから、なんか安心する。
それに、俺の方もこいつとの会話は安心する。
『大貴族の呪縛』が唯一効果を発揮しない人物だからな。
少し前までラウラも効果がない人物だったんだが、俺の肩書きが変わったからか、なんか突然スキルが発動するようになっちまったんだよなあ。
なんで、国王になんて変わっちまったんだよ……。
ちくしょう!
さておき、ニーナの場合は肩書きの『聖女』が効いてるのか、それとも『大司教』って立場が効いてるのかはわからない。
いずれにせよ、スキルはこいつを俺と同格かそれ以上と認識してるらしい。
「ねえ、イングラム王国だけど、アタシも付いてっていい?」
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