65 / 92
悪役領主はひれ伏さない
第65話 空気が重い……
しおりを挟む
ただ、街を知るためにいろいろ案内してもらおうと思ったのは本心だ。
こいつ――レナード・ダン・ヴァン・イングラムなら、街の隅々まで知っていそうだからな。
途中からはそんなことすっかり忘れて、アイテムの在処に夢中になっちゃったけど……。
「む? 貴様、俺の魅了にかかってたんじゃないのか?」
「魅了にひっかかるバカがいいるか」
その程度、子どもの頃から対策を取ってるわ。
俺の反応に、レナードがいぶかしげに眉根を寄せた。
「ならば、何故来た?」
「それは――」
「馬鹿なのか?」
ババ、馬鹿ちゃうわっ!
「少々懸念ごとがあったのだ」
「む? その懸念とは一体……まあ良い。どうせ貴様はこの場で終わりだ」
レナードがパチン、と指を鳴らした。
その合図と同時にここ、謁見の前に一斉に武装した兵士がなだれ込んできた。
兵士たちが俺に槍を向けて円形に取り囲む。
その動きは、アドレアの近衛兵より隙がない。
あの近衛兵たちは魅了で操られてたからな。
しらふの兵士と比べるのは可哀想か。
「さて、偽りの王エルヴィン。貴様は4カ国が不可侵と契りを結んだ地を拓き、罪人の身でありながら不遜にも王を名乗った。まるで盗人のように武力で現状を変更しようと企む傍若無人な振る舞いには、聖皇国教皇も大いに憂慮されている。よもや、魔王の使徒ではないかとも噂されている程だ。
いま、この場で貴様の首を跳ね、聖皇国へと献上する。これで猊下も、少しは安心されるだろう」
「その見返りは名誉か? それとも金か?」
「……貴様に答える義理はない」
なにが得られるかはわからんが、いい取引材料にはなりそうだよな、俺の首。
絶対やらんけど。
「せめてもの情けだ、なにか言い残すことはあるか?」
「あー、俺は王を名乗ったつもりはない」
「……ただの阿呆だったか」
レナードが手を上げる。
それと同時に、兵士たちが槍に力を込めた。
えっ、やべぇ。
これマジもんの死亡フラグじゃん!
くそっ! この包囲から逃げ出せる気が全然しねぇ!!
内心ガクブルしてるのに、大貴族の呪縛のおかげでちっとも体は震えない。
でも、顔が少し引きつる。
さすがの呪縛も死は怖いよね……。
なんとか、打開策を見つけないと。
と、とりあえずハッタリだ!
「レナードよ。迂闊に兵を近づけぬほうがいいぞ」
「……はあ、今度は悪あがきか。すまないが、阿呆の言葉は聞こえんのだ。皆、かかれ」
ハッタリがミスったぁぁぁ!
うわぁあ!
兵士が、兵士が槍を俺にぃ!!
全方位から兵士が鋭く踏み込み、槍が突き出された。
その時――。
ムクッ。
床で、影が蠢いた。
次の瞬間、一斉に影が膨張。
周りの兵士をすべて飲み込み、消滅した。
――えっ?
なに、これ……?
いや、聞くまでもなく俺の魔法なんだけどさ。
いや効果おかしいだろ!
一瞬で二十人も消えたぞおいッ!
今まで、こんなに恐ろしい効果を発揮したことなんてなかったのに、なんで……。
――あっ!
そういえば一回トモエ対策に影を使ったから、それ以降ずっと魔力を込め続けてたんだった。
トモエの襲来が怖くて、尋常じゃない量の魔力を込めてたっけ……。
「そんなバカなッ!」
「我が国最強の近衛が……一瞬で……」
あれ、最強の近衛だったのかよッ!
やっべぇ。
国の最大戦力削っちまった……。
って、老年の男、久しぶりに喋ったな。
完全に存在忘れてたわ。
たぶん宰相なんだろうけど、全面に出て指揮を振るうタイプじゃなく、後ろから支えるタイプか。
アドレアとは真逆だな。
さておき、精鋭が消滅して俺は助かったからいいんだけど、イングラム王国にとっては大打撃だな。
だって、最大戦力だったらしいし。
規模は全然違うが、ファンケルベルクからハンナとユルゲン、カラスを排除されたようなもんだ。
この穴、簡単に埋まらんぞ……。
……謝ったら許してくれるかな?
こっちの命取ろうとしたし、お互い様だよね♪ って。
恐る恐る、レナードを見る。
見開かれた目は血走っている。
全然謝れる雰囲気じゃない!
……無言の空気が重い。
なんだか呼吸も苦しい気がする。
なにか軽い一言で少しでも場を和ませたい。
ここは一つ、お願いします『大貴族の呪縛』さん!
「だから迂闊に兵を近づけぬほうがいいと言ったのだ」
挑発してんじゃねぇよッ!!
こいつ――レナード・ダン・ヴァン・イングラムなら、街の隅々まで知っていそうだからな。
途中からはそんなことすっかり忘れて、アイテムの在処に夢中になっちゃったけど……。
「む? 貴様、俺の魅了にかかってたんじゃないのか?」
「魅了にひっかかるバカがいいるか」
その程度、子どもの頃から対策を取ってるわ。
俺の反応に、レナードがいぶかしげに眉根を寄せた。
「ならば、何故来た?」
「それは――」
「馬鹿なのか?」
ババ、馬鹿ちゃうわっ!
「少々懸念ごとがあったのだ」
「む? その懸念とは一体……まあ良い。どうせ貴様はこの場で終わりだ」
レナードがパチン、と指を鳴らした。
その合図と同時にここ、謁見の前に一斉に武装した兵士がなだれ込んできた。
兵士たちが俺に槍を向けて円形に取り囲む。
その動きは、アドレアの近衛兵より隙がない。
あの近衛兵たちは魅了で操られてたからな。
しらふの兵士と比べるのは可哀想か。
「さて、偽りの王エルヴィン。貴様は4カ国が不可侵と契りを結んだ地を拓き、罪人の身でありながら不遜にも王を名乗った。まるで盗人のように武力で現状を変更しようと企む傍若無人な振る舞いには、聖皇国教皇も大いに憂慮されている。よもや、魔王の使徒ではないかとも噂されている程だ。
いま、この場で貴様の首を跳ね、聖皇国へと献上する。これで猊下も、少しは安心されるだろう」
「その見返りは名誉か? それとも金か?」
「……貴様に答える義理はない」
なにが得られるかはわからんが、いい取引材料にはなりそうだよな、俺の首。
絶対やらんけど。
「せめてもの情けだ、なにか言い残すことはあるか?」
「あー、俺は王を名乗ったつもりはない」
「……ただの阿呆だったか」
レナードが手を上げる。
それと同時に、兵士たちが槍に力を込めた。
えっ、やべぇ。
これマジもんの死亡フラグじゃん!
くそっ! この包囲から逃げ出せる気が全然しねぇ!!
内心ガクブルしてるのに、大貴族の呪縛のおかげでちっとも体は震えない。
でも、顔が少し引きつる。
さすがの呪縛も死は怖いよね……。
なんとか、打開策を見つけないと。
と、とりあえずハッタリだ!
「レナードよ。迂闊に兵を近づけぬほうがいいぞ」
「……はあ、今度は悪あがきか。すまないが、阿呆の言葉は聞こえんのだ。皆、かかれ」
ハッタリがミスったぁぁぁ!
うわぁあ!
兵士が、兵士が槍を俺にぃ!!
全方位から兵士が鋭く踏み込み、槍が突き出された。
その時――。
ムクッ。
床で、影が蠢いた。
次の瞬間、一斉に影が膨張。
周りの兵士をすべて飲み込み、消滅した。
――えっ?
なに、これ……?
いや、聞くまでもなく俺の魔法なんだけどさ。
いや効果おかしいだろ!
一瞬で二十人も消えたぞおいッ!
今まで、こんなに恐ろしい効果を発揮したことなんてなかったのに、なんで……。
――あっ!
そういえば一回トモエ対策に影を使ったから、それ以降ずっと魔力を込め続けてたんだった。
トモエの襲来が怖くて、尋常じゃない量の魔力を込めてたっけ……。
「そんなバカなッ!」
「我が国最強の近衛が……一瞬で……」
あれ、最強の近衛だったのかよッ!
やっべぇ。
国の最大戦力削っちまった……。
って、老年の男、久しぶりに喋ったな。
完全に存在忘れてたわ。
たぶん宰相なんだろうけど、全面に出て指揮を振るうタイプじゃなく、後ろから支えるタイプか。
アドレアとは真逆だな。
さておき、精鋭が消滅して俺は助かったからいいんだけど、イングラム王国にとっては大打撃だな。
だって、最大戦力だったらしいし。
規模は全然違うが、ファンケルベルクからハンナとユルゲン、カラスを排除されたようなもんだ。
この穴、簡単に埋まらんぞ……。
……謝ったら許してくれるかな?
こっちの命取ろうとしたし、お互い様だよね♪ って。
恐る恐る、レナードを見る。
見開かれた目は血走っている。
全然謝れる雰囲気じゃない!
……無言の空気が重い。
なんだか呼吸も苦しい気がする。
なにか軽い一言で少しでも場を和ませたい。
ここは一つ、お願いします『大貴族の呪縛』さん!
「だから迂闊に兵を近づけぬほうがいいと言ったのだ」
挑発してんじゃねぇよッ!!
23
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
扱いの悪い勇者パーティを啖呵切って離脱した俺、辺境で美女たちと国を作ったらいつの間にか国もハーレムも大陸最強になっていた。
みにぶた🐽
ファンタジー
いいねありがとうございます!反応あるも励みになります。
勇者パーティから“手柄横取り”でパーティ離脱した俺に残ったのは、地球の本を召喚し、読み終えた物語を魔法として再現できるチートスキル《幻想書庫》だけ。
辺境の獣人少女を助けた俺は、物語魔法で水を引き、結界を張り、知恵と技術で開拓村を発展させていく。やがてエルフや元貴族も加わり、村は多種族共和国へ――そして、旧王国と勇者が再び迫る。
だが俺には『三国志』も『孫子』も『トロイの木馬』もある。折伏し、仲間に変える――物語で世界をひっくり返す成り上がり建国譚、開幕!
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
学生学園長の悪役貴族に転生したので破滅フラグ回避がてらに好き勝手に学校を魔改造にしまくったら生徒たちから好かれまくった
竜頭蛇
ファンタジー
俺はある日、何の予兆もなくゲームの悪役貴族──マウント・ボンボンに転生した。
やがて主人公に成敗されて死ぬ破滅エンドになることを思い出した俺は破滅を避けるために自分の学園長兼学生という立場をフル活用することを決意する。
それからやりたい放題しつつ、主人公のヘイトを避けているといつ間にかヒロインと学生たちからの好感度が上がり、グレートティーチャーと化していた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる