85 / 113
85.商品名はニャンムの手
しおりを挟むイカれたメンバーを紹介するぜ!緑のリボンをつけた超可愛い豚魔獣ことトンちゃん、不服を隠そうとしない表情のチャーリー・アリュートルチ、書類と署名に必要な判子とペンを持って不気味なぐらいニコニコなリマ・トレード、以上だ!!
このクソみたいなメンバーでどこに行くか?チュートリアの街にある、木彫り職人、といえば聞こえは良いけど、腰を悪くして農業から引退した趣味で木彫り人形を作ってるお爺ちゃんの所。
「モッコーさん、少しお邪魔しますよ」
「ぷぷぴぷぴーう(おじゃましまーす)」
「おお、領主様じゃのーか、よう来たのぉ」
「近くにカモネスあるでしょう、この方はそこのお偉いさんの、リマ・トレードさんです」
「カモネスの御利用ありがとうございます、これからもチュートリア支店をどうぞよろしくお願い致します!」
「うんうん、若い商人さんは元気だなぁ、こんな汚いところで申し訳ないが、よかったら座っておくれ」
ガタガタと素朴な木の椅子に座るヒゲオヤジとトレードさん、ちょっとヒゲ、私の椅子は?脛をつつくと爪先で軽く蹴飛ばされたので、今度はふくらはぎを蹄でつまんで抓ってやった。
「ンだだだだだだだッ!!!?」
「ぴっぴきー(クソヒゲが)」
「そいで、領主様はなにしに来たんか?」
「ってー……おほん!この設計図の物を作ってもらおうとな、出来そうだろうか」
「ほぉ、こんな老いぼれでなく、きちんと木を扱う仕事をしてる人間はそこらにごまんと居るだろうに、どれどれ……」
ガサリと私の描いた設計図を広げるモッコーさん、数分目を通したあと、席を立って部屋の隅に積み上げられていたそれなりの大きさの木の破片を持ってきた。
小型のナイフで木片を削り、ヤスリで表面を整えていく。モッコーさんがちゃっちゃか小気味よく作業を進める様子を、椅子がないので床から大人しく見ていると、突然見下ろされ、ひょいと膝に乗せられて手を掴まれた。
「このトントンの手に持てるようにすりゃええのか?ちんまい手じゃのぉ」
「ぴぴききゅー(おねがいします)」
「この蹄は物を握れるようになっちょるのか、にしてもこんな先を曲げただけの木の棒を、何に使うのやらなぁ」
「本当にな、子豚、棒の先が指を曲げたような形にした棒なんて……まさか机の上の菓子でも取ろうとしてるのではあるまいな」
「いやいや、トンちゃんさんの事ですから何かもっと凄いことに使える物だと思います、でなければわざわざ設計図なんて描きませんでしょうし」
「ぷぷぴきーぴき、ぴぁー(それも良いわね、わぁー)」
「もう少しで出来るから、良い子にして待ってるんじゃぞー」
そう言われてまた床へと降ろされる私、主役は私なのに、何この扱い。ぷくぅと頬を膨らまして、和やかに談笑する人間三人を見ていたが、つまらないので部屋の隅に置いてある木の破片を積み上げる作業へと入った。
積み木ってなにもなくても、暇つぶしにしてしまう物なのよ、そう、中身が人間ならね。表面をなめらかに加工してない木材は、小さくてもなかなか積みごたえがあるわ。
ぴっきぴっきと一匹で積み木をするトンちゃん、子豚が積める限界値を超えると、二本足でぷるぷるしながら立ち、てっぺんに三角に見える木片を置こうとしたところで突然身体が宙に浮いた。
「出来たぞ子豚、使い方を早く説明しろ」
「ぴぴーきゃぴー(タイミング悪)」
「全く、トレードさんの頼みでなければ子豚の落書きなど捨て置くのだがな、なんて優しい領主様なんだワシは」
ガちょぁ……
「ぱー、ぴっきぴぷっぴき(あー、せっかく作ったのに)」
横暴でトントンに優しくない領主ヒゲオヤジのせいで、私の積み上げたトントンキャッスルは崩れてしまいました、ヒゲのせいです、あ~あ。
可哀想なトンちゃんは、ヒゲオヤジの小脇に抱えられ、モッコーさんの近くに置かれた。大人しくしといてやったらやったで好き勝手しやがってこの人間ども、トンちゃん今日のおやつを食べるまで許さないからな。
モッコーさんから出来立ての、設計図通りの物を受け取り、トントンの蹄にフィットする穴にしっかり手をかけ。華麗に湾曲するよう加工された木の道具を使って、先が櫛みたいになってる方を背中に当てて。
「ぴぁ~ぷぴぴぁ~~(あぁ~きもちぃ~~)」
背中を掻いた。
「子豚……」
「ぷぴぴきーぴきぴぴきゃぱぁ~(これで一人でも背中が掻けるわ~)」
ついでに頭も掻いた。
「トンちゃんさん……」
「ぱぁ~ぷぴぷぴきゅぷきゃきゃぁぷぷぱぴぽ~~(はぁ~トントンのデザインとてもクソ~~)」
尻尾の上までちゃんと掻いた。
「ほぉこれは…………」
「ぷぴゃぷきゃぴーぱぴぴぷ~ん、ぷきぷぷぴきゃ~~(めちゃくちゃ毛が取れるじゃ~ん、孫の手さいこ~~)」
作って貰ってよかったわぁ。ひとしきり痒いところを掻き、また背中へと孫の手の先を戻す。
それにしても人間達が静かね、トンちゃんから溢れる可愛い小動物オーラに耐えきれなかったのかしら。視線を三人に向けると、なんかわちゃわちゃしてた。
「モッコーさん!ワシにも!ワシにも一本作ってくれ!!」
「ええぃうるさいぞチャー坊!この前木の小舟を作ってやったのを忘れたのか!自分の分をまず作るから大人しくまっちょれやんちゃ坊主!!」
「何十年前の話しとるんですか!!?」
「売れますよこれ絶対に需要あります!特に老化や日々の座り仕事、運動不足で背中に腕が回らなくなった人に需要あります!!なんて商品名にしましょうかねぇ、金の子豚スティック?トンの手??どうしましょうかねぇ!!!!」
孫の手って、この世界に無いんだぁ。背中をポリポリ掻きながら、そんな事を思った、わちゃわちゃしているいい歳した三人を見ながら、ポツリとひと声鳴く。
「ぷぷぴぴぷぴきゅぅぴきっきぃ(孫の手の需要はあるんだぁ)」
この後、背中を掻くところが櫛の形状だと人間には痛いので、試行錯誤の結果、みんなの良く知る孫の手の形になった事をここに記しておくことにしよう。 byトンちゃん・アリュートルチ
0
あなたにおすすめの小説
溺愛兄様との死亡ルート回避録
初昔 茶ノ介
ファンタジー
魔術と独自の技術を組み合わせることで各国が発展する中、純粋な魔法技術で国を繁栄させてきた魔術大国『アリスティア王国』。魔術の実力で貴族位が与えられるこの国で五つの公爵家のうちの一つ、ヴァルモンド公爵家の長女ウィスティリアは世界でも稀有な治癒魔法適正を持っていた。
そのため、国からは特別扱いを受け、学園のクラスメイトも、唯一の兄妹である兄も、ウィステリアに近づくことはなかった。
そして、二十歳の冬。アリスティア王国をエウラノス帝国が襲撃。
大量の怪我人が出たが、ウィステリアの治癒の魔法のおかげで被害は抑えられていた。
戦争が始まり、連日治療院で人々を救うウィステリアの元に連れてこられたのは、話すことも少なくなった兄ユーリであった。
血に染まるユーリを治療している時、久しぶりに会話を交わす兄妹の元に帝国の魔術が被弾し、二人は命の危機に陥った。
「ウィス……俺の最愛の……妹。どうか……来世は幸せに……」
命を落とす直前、ユーリの本心を知ったウィステリアはたくさんの人と、そして小さな頃に仲が良かったはずの兄と交流をして、楽しい日々を送りたかったと後悔した。
体が冷たくなり、目をゆっくり閉じたウィステリアが次に目を開けた時、見覚えのある部屋の中で体が幼くなっていた。
ウィステリアは幼い過去に時間が戻ってしまったと気がつき、できなかったことを思いっきりやり、あの最悪の未来を回避するために奮闘するのだった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合
鈴白理人
ファンタジー
北の辺境で雨漏りと格闘中のアーサーは、貧乏領主の長男にして未来の次期辺境伯。
国民には【スキルツリー】という加護があるけれど、鑑定料は銀貨五枚。そんな贅沢、うちには無理。
でも最近──猫が雨漏りポイントを教えてくれたり、鳥やミミズとも会話が成立してる気がする。
これってもしかして【動物スキル?】
笑って働く貧乏大家族と一緒に、雨漏り屋敷から始まる、のんびりほのぼの領地改革物語!
真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます
難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』"
ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。
社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー……
……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!?
ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。
「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」
「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族!
「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」
かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、
竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。
「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」
人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、
やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。
——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、
「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。
世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、
最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕!
※小説家になろう様にも掲載しています。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした
月神世一
ファンタジー
「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」
ブラック企業で過労死した日本人、カイト。
彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。
女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。
孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった!
しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。
ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!?
ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!?
世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる!
「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。
これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる