TonTonテイル

渡 忠幻

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85.商品名はニャンムの手

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 イカれたメンバーを紹介するぜ!緑のリボンをつけた超可愛い豚魔獣ことトンちゃん、不服を隠そうとしない表情のチャーリー・アリュートルチ、書類と署名に必要な判子とペンを持って不気味なぐらいニコニコなリマ・トレード、以上だ!!
 このクソみたいなメンバーでどこに行くか?チュートリアの街にある、木彫り職人、といえば聞こえは良いけど、腰を悪くして農業から引退した趣味で木彫り人形を作ってるお爺ちゃんの所。

「モッコーさん、少しお邪魔しますよ」
「ぷぷぴぷぴーう(おじゃましまーす)」
「おお、領主様じゃのーか、よう来たのぉ」
「近くにカモネスあるでしょう、この方はそこのお偉いさんの、リマ・トレードさんです」
「カモネスの御利用ありがとうございます、これからもチュートリア支店をどうぞよろしくお願い致します!」
「うんうん、若い商人さんは元気だなぁ、こんな汚いところで申し訳ないが、よかったら座っておくれ」

 ガタガタと素朴な木の椅子に座るヒゲオヤジとトレードさん、ちょっとヒゲ、私の椅子は?脛をつつくと爪先で軽く蹴飛ばされたので、今度はふくらはぎを蹄でつまんで抓ってやった。

「ンだだだだだだだッ!!!?」
「ぴっぴきー(クソヒゲが)」
「そいで、領主様はなにしに来たんか?」
「ってー……おほん!この設計図の物を作ってもらおうとな、出来そうだろうか」
「ほぉ、こんな老いぼれでなく、きちんと木を扱う仕事をしてる人間はそこらにごまんと居るだろうに、どれどれ……」

 ガサリと私の描いた設計図を広げるモッコーさん、数分目を通したあと、席を立って部屋の隅に積み上げられていたそれなりの大きさの木の破片を持ってきた。
 小型のナイフで木片を削り、ヤスリで表面を整えていく。モッコーさんがちゃっちゃか小気味よく作業を進める様子を、椅子がないので床から大人しく見ていると、突然見下ろされ、ひょいと膝に乗せられて手を掴まれた。

「このトントンの手に持てるようにすりゃええのか?ちんまい手じゃのぉ」
「ぴぴききゅー(おねがいします)」
「この蹄は物を握れるようになっちょるのか、にしてもこんな先を曲げただけの木の棒を、何に使うのやらなぁ」
「本当にな、子豚、棒の先が指を曲げたような形にした棒なんて……まさか机の上の菓子でも取ろうとしてるのではあるまいな」
「いやいや、トンちゃんさんの事ですから何かもっと凄いことに使える物だと思います、でなければわざわざ設計図なんて描きませんでしょうし」
「ぷぷぴきーぴき、ぴぁー(それも良いわね、わぁー)」
「もう少しで出来るから、良い子にして待ってるんじゃぞー」

 そう言われてまた床へと降ろされる私、主役は私なのに、何この扱い。ぷくぅと頬を膨らまして、和やかに談笑する人間三人を見ていたが、つまらないので部屋の隅に置いてある木の破片を積み上げる作業へと入った。
 積み木ってなにもなくても、暇つぶしにしてしまう物なのよ、そう、中身が人間ならね。表面をなめらかに加工してない木材は、小さくてもなかなか積みごたえがあるわ。

 ぴっきぴっきと一匹で積み木をするトンちゃん、子豚が積める限界値を超えると、二本足でぷるぷるしながら立ち、てっぺんに三角に見える木片を置こうとしたところで突然身体が宙に浮いた。
 
「出来たぞ子豚、使い方を早く説明しろ」
「ぴぴーきゃぴー(タイミング悪)」
「全く、トレードさんの頼みでなければ子豚の落書きなど捨て置くのだがな、なんて優しい領主様なんだワシは」
ガちょぁ……
「ぱー、ぴっきぴぷっぴき(あー、せっかく作ったのに)」

 横暴でトントンに優しくない領主ヒゲオヤジのせいで、私の積み上げたトントンキャッスルは崩れてしまいました、ヒゲのせいです、あ~あ。
 可哀想なトンちゃんは、ヒゲオヤジの小脇に抱えられ、モッコーさんの近くに置かれた。大人しくしといてやったらやったで好き勝手しやがってこの人間ども、トンちゃん今日のおやつを食べるまで許さないからな。

 モッコーさんから出来立ての、設計図通りの物を受け取り、トントンの蹄にフィットする穴にしっかり手をかけ。華麗に湾曲するよう加工された木の道具を使って、先が櫛みたいになってる方を背中に当てて。

「ぴぁ~ぷぴぴぁ~~(あぁ~きもちぃ~~)」

 背中を掻いた。

「子豚……」
「ぷぴぴきーぴきぴぴきゃぱぁ~(これで一人でも背中が掻けるわ~)」

 ついでに頭も掻いた。

「トンちゃんさん……」
「ぱぁ~ぷぴぷぴきゅぷきゃきゃぁぷぷぱぴぽ~~(はぁ~トントンのデザインとてもクソ~~)」

 尻尾の上までちゃんと掻いた。

「ほぉこれは…………」
「ぷぴゃぷきゃぴーぱぴぴぷ~ん、ぷきぷぷぴきゃ~~(めちゃくちゃ毛が取れるじゃ~ん、孫の手さいこ~~)」

 作って貰ってよかったわぁ。ひとしきり痒いところを掻き、また背中へと孫の手の先を戻す。
 それにしても人間達が静かね、トンちゃんから溢れる可愛い小動物オーラに耐えきれなかったのかしら。視線を三人に向けると、なんかわちゃわちゃしてた。

「モッコーさん!ワシにも!ワシにも一本作ってくれ!!」
「ええぃうるさいぞチャー坊!この前木の小舟を作ってやったのを忘れたのか!自分の分をまず作るから大人しくまっちょれやんちゃ坊主!!」
「何十年前の話しとるんですか!!?」
「売れますよこれ絶対に需要あります!特に老化や日々の座り仕事、運動不足で背中に腕が回らなくなった人に需要あります!!なんて商品名にしましょうかねぇ、金の子豚スティック?トンの手??どうしましょうかねぇ!!!!」

 孫の手って、この世界に無いんだぁ。背中をポリポリ掻きながら、そんな事を思った、わちゃわちゃしているいい歳した三人を見ながら、ポツリとひと声鳴く。

「ぷぷぴぴぷぴきゅぅぴきっきぃ(孫の手の需要はあるんだぁ)」

 この後、背中を掻くところが櫛の形状だと人間には痛いので、試行錯誤の結果、みんなの良く知る孫の手の形になった事をここに記しておくことにしよう。     byトンちゃん・アリュートルチ

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