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99.Round1… fight!
しおりを挟む…………、
………………、
…………………?
なんも起こらない、なんも変わらない、なんもなってない、なんでなん??前を見てもなんか半透明のキーボードをカチャカチャやってる女神。下を見てもちょっと波打つ水面にうつる愛くるしいトントンの顔。
は?なんで?なんも無いけど??まさか失敗したとか??やめろよこっちは魂がかかってんだぞこの仮免女神、どうなってんだ上のやつ連れてこい文句言ってやる。
「ふぅ、やっと終わりました」
「なにがよ、まさか今から準備するとか言うんじゃないでしょうね」
「そんなわけがないでしょう、魂の返還が終わったんですよ、ほらとっとと美しい私の美しい泉から豚足を引き上げなさい子豚」
「は?終わった??」
「当たり前でしょう私を誰だと思ってるんですか、最高にして至高であり究極の女神様ですよ、いいから泉から出なさい子豚」
え、なにそれ、終わり?なんもなく終わり?これ物語なら一番の見せ場じゃないの?ねえ。ちゃぽちゃぽ音を立てて泉から出て、身体を震わせ水気を飛ばした。
終わったって、私の魂が帰ったって、私ここにいるんですけど。意味がわからない、何も終わってないじゃない。呆れたような表情の女神は、私(人間界)が死にかけている場面が映された大画面を消して、私含め四人のモザイク人間が居る病院の画面を大きくした。
そこには、植物状態から起き上がる女子高生を抱きしめて泣き出すお母さんらしき人、床に崩れ落ちて泣いているお父さんらしき人。
それと、ランドセルを放り投げてベッドに手をついてぴょんぴょん飛び跳ねる妹らしき少女がいた。
ガサガサの質の悪い音声が、画面の向こうから聞こえて来る。
『おかあさん……?』
『●●!あんた一週間も寝たきりで……医者にも、もうむりだって…………ッ!!』
『いっしゅうかん……』
『ぱぱ……パパ!お姉ちゃん起きたじゃん嘘つき!ちゃんと起きたじゃん!!」
『そうだな、そう、起きた、起きてくれたな……おきて…………くれた……』
感動の再会してるところ悪いんだけど、私、まだここで豚魔獣やってるんですけど、アレ何?ドッキリ?それとも事前に撮影した映像ですってやつ??
奇跡的で感動的な画面から目を逸らし、どっから取り出したのか水色の千鳥柄の手拭いで目元を拭っている女神に聞く。
「ちょっと女神」
「うぅ……良かったですね……生きていて良かったですね……!」
「おいそこの女神(仮免)って書かないと証明書通らない女神」
「失礼ですね最終試験ぐらいすぐに突破して女神になるに決まってるでしょう!?まったくなんなんですか、せっかく私のお陰で植物状態から起き上がる事が出来た自業自得事故娘と、それを心配していた心優しき家族の奇跡で感動の再会を楽しんでいるというのに」
「私ここにいるが?」
「当たり前でしょうが」
なにをもってこの自称女神未満が当たり前として話を進めているのか全くもってわからない、お前の目は節穴か、おい、ミミンジュ口内に突っ込むぞ。
ふぅーーーーー……なんて何様か知らんがクソ長い溜め息を吐き出した後、私が交換してやった、陰陽おんみょーじ☆セイメーちゃんの五芒星大幣1/1を取り出し、空中に浮かんだ画面をまた切り替え、大幣で指し示しながら説明を始めた。
「いいですか子豚、貴女の中身は人間です」
「最初から最後まで人間だっつってるでしょ」
「しかしこれには少々語弊が有ります、正しくは、現代日ノ本に生きる人間の人格を複製して作られた、いわばコピーなのです」
「は?」
「神とは人からの信仰が無ければ神として生きていけぬモノ、神に成るにも、神で有り続けるにも人間との繋がりは欠かせないのです」
「それが私がここにいる理由となにが」
「なので!新神として他の神々に認められるために、日ノ本から複製された日本人を試験に使われる仮世界へと流入することによって、治安の維持や平均的な信仰心の育成、彼彼女等によって信仰されるかという現代日本において神として生きていけるかの試験とするのです!!」
「日本人である理由は」
「良くも悪くも環境に馴染みやすく、信仰心の強弱はあるが神が違うとしても露骨に攻撃する訳では無く、理解が早く倫理観の育成がある程度出来上がっているからですね」
「つまり記憶残したままぶち込んでも、我が神であると言えば御し易いと」
「黙って説明をお聞きなさい子豚」
だからなんだ、私の魂が返還されて、は?コピー?マジ?アイアムコピー??やめろ止めろそういう"コピー人間ははたして本人であるか否か問題"は荷が重すぎるだろ、当事者に絶対なりたくないタイプの転生じゃん。
あ、転生といえば、一つ疑問が残ってるんだけど。手に大幣をペシペシさせている女神に続けて質問する。
「この世界って私の元いた世界のゲームなのよね?」
「知りませんよ、だってクジで運営する世界のベース決めましたもん」
「クジぃ!!?」
「えぇ、一番運営し易いのが中世の一定地域をベースにした世界です、文明の発達の枷を緩めても進行が緩やかで神の存在を信じさせ易いです、現代社会世界も有りますが人間が勝手な神を乱立させる場合が多くてやり難いみたいですね」
「いやそんな感じで決めてんの!?なんなの女神教習所って!!?」
「ですから、信仰心をいかに人間に持たせ、人間と共存できる神になれるよう勉強するところですよ。あぁ、大ハズレなのが遠未来型の世界ですね、人も神もぶっ殺してやるってぐらい文明が発達するか、神なんてこの世には居ないんだって感じに荒廃化がよく進みます」
「最初から神なんて居なかったんだわこの世界」
「だから私がこの世界の女神だと言っているでしょうに、話を聞きませんねこの子豚」
いや仮免じゃんか。そこまで考えたが口に出すとまた面倒な事になりそうなのでやめた。神でなければなんなのか、妖怪?悪魔?それともコンビニとかに来る小銭投げるタイプのクソ客か??
「そうですねぇ、最近は教習所がチェックし易いのか、子豚の言うゲームというものを元にした世界が一般的なようです」
「教習所のチョイスがクソなのか」
「私が引いたのはなんでしたっけ、モンスター育成ゲームと呼ばれていた気がします」
「育成ゲームの中でもなんでコレを選んだんだ教習所」
「待って下さい今一覧を見ますから、ええと、魔王を倒すタイプのRPG?とか、仮想空間のゲームをそのままとか??あぁ、乙女ゲームと呼ばれるものは文明がいい感じに出来上がっていて、神もいい感じに崇められているので人気が高いです、信仰ポイント集め易いし」
「そんな理由でゲームの世界が教材にされてんの?」
「モブと呼ばれるキャラクター?にしてしまえば、そう大した問題は起こりませんし、そもそも人格の複製だけなので記憶までは複製していない筈なんですよね、でも子豚は魂ごと突っ込んでしまったので例外ということなのでしょう、たぶん」
なるほどなぁ、まさかの異世界ガチャで糞を引いてしまったとは何たる不運、女神(笑)ガチャも糞だったから、女神権限を取れた超可愛い子豚魔獣という状況で運を使い切ってしまったという事か。
それならば詫びメシも仕方がないな、甘んじて食べまくるとしよう。腕を組んでうんうんと一匹頷いていたら、仮免女神がなんか言ってきた。
「では子豚、魂を元の世界に返したので、女神権限を返して下さい」
「やだが?」
「は??」
その時、一柱と一匹の間で、戦いのゴングが鳴った。
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