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「なにしてるんですか!? また変なことして!」
『うるさいぞ』
俺の部屋に入ってくるなり大声を出すフロイドは相変わらず賑やかだ。こいつは普段から大声ばかり出してどういうつもりなのだろうか。もう少し静かに過ごせないのか。
くわぁと欠伸する俺は、緩く尻尾を振って抗議しておく。けれども俺の可愛さに見向きもしないフロイドは、「人の上にのらない!」と俺を持ち上げようとしてきた。なにすんだ、この野郎。邪魔をするんじゃない。俺がクッキー貰えなかったらどうしてくれる!
「なんでロッドの顔を踏んでるんですか! やめなさい!」
『俺が悪いみたいな言い方しやがる』
「どう見たってウィル様が悪いでしょうよ!」
頭の硬いフロイドは、目の前の光景だけを見て俺が悪いと決めつけている。そういう思い込みはよくないぞ。ペシペシと短い前足でロッドの頬を叩きながら『こいつに踏めと言われた』と真相を教えてやる。
俺は現在、部屋のど真ん中で仰向けに倒れるロッドの顔面に寝そべっていた。なんかロッドが踏んでほしいと言ってきたので。これは同意であって、俺が意地悪しているわけではない。そういうことを丁寧に説明するのだが、フロイドは疑いの目を向けてくる。到底俺を信じてなどいなかった。クソが。
「ロッドがそんなこと言うわけないでしょ! また意味のわからない言い訳して。人のせいにしない」
頭ごなしに俺を叱るフロイドであったが、ここでようやく倒れていたロッドが片手をあげた。
「あ、フロイドさん。違うんです。僕が踏んでくれってお願いしたんです」
そうそう。その通りだ。うんうん頷いてロッドの言葉を肯定しておく。これにフロイドが驚愕した。
「え!? 言ったんですか? なんで、気持ち悪い」
後半本音だだ漏れのフロイドは、露骨にロッドから距離を取る。わかりやすく引いている。後輩だろうが。そんな目で見てやるなよ、可哀想に。
『ほら。俺の言った通りだろう』
ドヤ顔でフロイドを見上げれば、さっと寄ってきた彼が俺を簡単に持ち上げてしまう。ジタバタ抵抗するが無意味。おのれ、フロイドめ。
「ウィル様に変なことさせないでくださいよ」
「はぁ」
俺をロッドから守るように再び距離をとったフロイドは、「ウィル様も。あんな馬鹿の言うこと聞かなくていいですから」とやんわり苦言を呈してきた。おまえの後輩だろうが。馬鹿とか言ってやるなよ。
ふんふん鼻息荒く前足を動かす。いつまでも俺を抱っこするんじゃない。おろせとアピールすれば、フロイドがようやく手を離してくれた。
『おい! クッキーはどこだ!』
お願いきいてやったんだから約束のものを渡してもらおうか。ゆっくりと体を起こすロッドは、「あぁ、はい。僕の部屋にありますけど」と立ち上がる。
『はやく持ってこい! 俺のクッキー』
「ちょっと待ってください」
クッキーってなんですか、と余計な首を突っ込んでくるフロイドを無視して、ロッドは走って部屋を出ていく。その慌ただしい背中を見送って、その場でくるくる回る。
『クッキー! クッキー!』
「暴れないでくださいよ」
俺を避けるように離れていくフロイドを追いかけてやる。楽しくなって足に体当たりすれば「ちょっと!」と怒ったような声が返ってきた。
それをへらへら笑って誤魔化して、再び『クッキー』と繰り返しておく。
「なんですか。クッキーって」
不思議そうな顔をするフロイドに、ロッドがお土産に美味しいクッキーを買ってきてくれたらしいと教えてやる。
「へぇ、それで帰りが遅かったんですか」
『あいつはおまえと違って気が利くな』
「悪かったですね。気が利かなくて」
そっぽを向くフロイドは、心が狭い。
フロイドはいつも文句ばかりで、俺の邪魔をしてくる。その点ロッドは非常にいい子分だ。最初は俺の正体を知ったという理由で渋々そばに置くことにしたが、意外と使える。
「お待たせしました」
『クッキー!』
戻ってきたロッドの手には紙袋。なんか美味しそうな匂いがする。はよ寄越せとロッドの足に飛びついて催促しておく。それを見ていたフロイドが「少しは落ち着いたらどうなんですか?」と苦笑をもらした。
早速テーブルの上でクッキーを取り出すロッド。俺もテーブルの上がみたい。椅子のあしを前足でカシャカシャしていれば、ロッドが抱えて椅子にのせてくれた。
「どうぞ、ウィル様」
さくさくクッキーだ。なんかジャムものっている。ひと口かじって『美味い』とにんまり笑えば、ロッドがくすりと微笑んだ。
「ウィル様なら絶対に好きだと思いました」
『……』
ぱちぱち目を瞬いて、ロッドの顔を凝視する。じっとこちらを凝視するロッドは、なんだか楽しそうな顔をしている。俺がクッキー食べる様子を見ているだけで何が楽しいんだ。
『……おまえも食べるか?』
そっと残りのクッキーを示せば「いいんですか!?」ときらきら目を輝かせる。いや、いいもなにも。買ってきたのはおまえだろ。
『遠慮せずに食べていいぞ』
尻尾を振ってどうぞどうぞと促せば、ロッドが早速クッキーに手を伸ばした。
『うるさいぞ』
俺の部屋に入ってくるなり大声を出すフロイドは相変わらず賑やかだ。こいつは普段から大声ばかり出してどういうつもりなのだろうか。もう少し静かに過ごせないのか。
くわぁと欠伸する俺は、緩く尻尾を振って抗議しておく。けれども俺の可愛さに見向きもしないフロイドは、「人の上にのらない!」と俺を持ち上げようとしてきた。なにすんだ、この野郎。邪魔をするんじゃない。俺がクッキー貰えなかったらどうしてくれる!
「なんでロッドの顔を踏んでるんですか! やめなさい!」
『俺が悪いみたいな言い方しやがる』
「どう見たってウィル様が悪いでしょうよ!」
頭の硬いフロイドは、目の前の光景だけを見て俺が悪いと決めつけている。そういう思い込みはよくないぞ。ペシペシと短い前足でロッドの頬を叩きながら『こいつに踏めと言われた』と真相を教えてやる。
俺は現在、部屋のど真ん中で仰向けに倒れるロッドの顔面に寝そべっていた。なんかロッドが踏んでほしいと言ってきたので。これは同意であって、俺が意地悪しているわけではない。そういうことを丁寧に説明するのだが、フロイドは疑いの目を向けてくる。到底俺を信じてなどいなかった。クソが。
「ロッドがそんなこと言うわけないでしょ! また意味のわからない言い訳して。人のせいにしない」
頭ごなしに俺を叱るフロイドであったが、ここでようやく倒れていたロッドが片手をあげた。
「あ、フロイドさん。違うんです。僕が踏んでくれってお願いしたんです」
そうそう。その通りだ。うんうん頷いてロッドの言葉を肯定しておく。これにフロイドが驚愕した。
「え!? 言ったんですか? なんで、気持ち悪い」
後半本音だだ漏れのフロイドは、露骨にロッドから距離を取る。わかりやすく引いている。後輩だろうが。そんな目で見てやるなよ、可哀想に。
『ほら。俺の言った通りだろう』
ドヤ顔でフロイドを見上げれば、さっと寄ってきた彼が俺を簡単に持ち上げてしまう。ジタバタ抵抗するが無意味。おのれ、フロイドめ。
「ウィル様に変なことさせないでくださいよ」
「はぁ」
俺をロッドから守るように再び距離をとったフロイドは、「ウィル様も。あんな馬鹿の言うこと聞かなくていいですから」とやんわり苦言を呈してきた。おまえの後輩だろうが。馬鹿とか言ってやるなよ。
ふんふん鼻息荒く前足を動かす。いつまでも俺を抱っこするんじゃない。おろせとアピールすれば、フロイドがようやく手を離してくれた。
『おい! クッキーはどこだ!』
お願いきいてやったんだから約束のものを渡してもらおうか。ゆっくりと体を起こすロッドは、「あぁ、はい。僕の部屋にありますけど」と立ち上がる。
『はやく持ってこい! 俺のクッキー』
「ちょっと待ってください」
クッキーってなんですか、と余計な首を突っ込んでくるフロイドを無視して、ロッドは走って部屋を出ていく。その慌ただしい背中を見送って、その場でくるくる回る。
『クッキー! クッキー!』
「暴れないでくださいよ」
俺を避けるように離れていくフロイドを追いかけてやる。楽しくなって足に体当たりすれば「ちょっと!」と怒ったような声が返ってきた。
それをへらへら笑って誤魔化して、再び『クッキー』と繰り返しておく。
「なんですか。クッキーって」
不思議そうな顔をするフロイドに、ロッドがお土産に美味しいクッキーを買ってきてくれたらしいと教えてやる。
「へぇ、それで帰りが遅かったんですか」
『あいつはおまえと違って気が利くな』
「悪かったですね。気が利かなくて」
そっぽを向くフロイドは、心が狭い。
フロイドはいつも文句ばかりで、俺の邪魔をしてくる。その点ロッドは非常にいい子分だ。最初は俺の正体を知ったという理由で渋々そばに置くことにしたが、意外と使える。
「お待たせしました」
『クッキー!』
戻ってきたロッドの手には紙袋。なんか美味しそうな匂いがする。はよ寄越せとロッドの足に飛びついて催促しておく。それを見ていたフロイドが「少しは落ち着いたらどうなんですか?」と苦笑をもらした。
早速テーブルの上でクッキーを取り出すロッド。俺もテーブルの上がみたい。椅子のあしを前足でカシャカシャしていれば、ロッドが抱えて椅子にのせてくれた。
「どうぞ、ウィル様」
さくさくクッキーだ。なんかジャムものっている。ひと口かじって『美味い』とにんまり笑えば、ロッドがくすりと微笑んだ。
「ウィル様なら絶対に好きだと思いました」
『……』
ぱちぱち目を瞬いて、ロッドの顔を凝視する。じっとこちらを凝視するロッドは、なんだか楽しそうな顔をしている。俺がクッキー食べる様子を見ているだけで何が楽しいんだ。
『……おまえも食べるか?』
そっと残りのクッキーを示せば「いいんですか!?」ときらきら目を輝かせる。いや、いいもなにも。買ってきたのはおまえだろ。
『遠慮せずに食べていいぞ』
尻尾を振ってどうぞどうぞと促せば、ロッドが早速クッキーに手を伸ばした。
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