英雄様を育てただけなのに《完結》

トキ

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新たな王3

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 大切な話も終わり、俺はメリと一緒に孤児院の庭へ向かった。翠嵐さんとフォティアさんはメリが王になることを自国の人達に知らせる為に急いで帰ってしまった。俺達の気が変わらない内に報告して逃げ道を塞いでおきたいらしい。フィスィさんはギルバートさんと今後についてまだ話があるから談話室に残っている。エドガー達は残っていた洗濯や掃除を片付ける為、それぞれ担当している場所へと走って行った。

「みんな、疲れ果てて眠っちゃったんだね」
「サクも眠っているな」
『ミツル様。メリ様。済みません。このような姿で』
「ううん。子ども達の相手をしてくれてありがとう。チトセ」
『弟や妹達で慣れているからな』
「怖がられなかったのか?」
『直ぐに懐いてくれました』
「そっか」

 サクのお兄ちゃんだし、チトセ達の言葉も分かるようになったからかな? 伏せの状態のチトセのお腹を枕にして眠っていたり、背中に乗ったまま眠っていたり、胸あたりに抱きついて眠っていたり。サクはチトセの頭に乗って眠っている。なんでそんな不安定な位置で眠っているんだ? サク。

「この子が兄さんが救ったサクって子? うわあ。ちっちゃい。兄さんに似てすっごく可愛い」
「俺に似ているかは分からないけど、サクが可愛いのは認めるよ」
『ミツル様。まさか、サクの可愛さに負けて甘やかしてなどいませんよね?』
「…………」
「兄さん、甘やかしてるんだね」
「ミツはサクにものすごく甘いぞ? こっそりお菓子をあげていたり、サクが食べたいと言った料理を作って多めに食べさせたり。本当に甘い」
『ミツル様』
「ご、ごめんなさい。サクが可愛くて、つい……」

 チトセに聞かれるだろうと思っていたけど、まさかこんなに早く聞かれてしまうとは。俺だって、俺だってサクに我慢させようとはしたんだ。このままじゃ体によくないよ? とか、甘やかしてばかりではダメだ、とか。思いはするんだけど、あのうるうるお目目でお願いされると、さ。負けてしまうんだ。それでつい、厳しくするのは今度でいいかってなって、それでズルズルと……

『甘やかすのも程々にしてくださいね』
「え?」
『サクがこんなにも心優しい子に育ったのは、ミツル様のお陰です。今後も、サクのことをよろしくお願いします。ミツル様。メリ様』
「う、うん。それは勿論。大切にするよ」
「一応、俺が止めるから安心してくれ」
「とか言いながら、メリさんも甘やかしてるでしょ? 絶対」
「…………」
「あ。無言ってことは甘やかしてるんだ。まあ仕方ないよね。この子、こんなにふわふわしてて可愛いんだもん」

 チトセの頭の上で器用に眠るサクをそっと撫でて、満帆はクスクス笑った。満帆も動物が好きなんだな。そう思って微笑ましく眺めていると、チトセは満帆にセイランは元気にしているか? とか、本当に怪我を負っていないのか? とか、色々聞いていた。満帆が「ものすごく元気だよ」と答えると、チトセは安堵の息を零して「良かった」と呟いた。離れてしまった弟を心配している姿を見るとやっぱりチトセは立派なお兄ちゃんだなあとしみじみ思う。俺もチトセを見習わないといけないな。




 チトセと色々と話した後、満帆も風雷の国に帰って行った。俺が「一人で大丈夫なのか?」と聞くと満帆は満面の笑みを浮かべて「大丈夫。僕も転移魔法を使えるから!」と言った。

「じゃあ、またね。兄さん。メリさんも。兄さんを泣かせたら僕が兄さんをもらうから。僕に奪われたくなかったら、兄さんを必ず幸せにしてよね!」
「何度も言わせるな。ミツは俺が幸せにする。お前には絶対に渡さない」

 メリを敵視しているけど、俺との関係は認めているみたいなんだよな。満帆。俺に会うと色々と暴走しがちだけど、家族が応援してくれているのはとても嬉しい。

「またな。満帆。後、サクは元気だよってセイラン伝えてくれるか?」
「勿論! あ、でもチトセ様がサクを独り占めしてたって言ったら喚き散らすかも」
「ははは。確かに……」

 セイランも満帆に負けず劣らずのブラコンだからなあ。チトセはもしもの時の為を思って来てくれたんだけど、確かにチトセがサクを独り占めしている状態なんだよなあ。ちょっと不安になりながら、俺達は満帆が転移魔法で自国へ帰るのを見送った。

『しっかりした弟さんですね。ミツル様』
「え? あ、うん。満帆は俺の自慢の弟だよ。少し前までは嫌われていると思ってたけど」
『雰囲気を見れば分かります。とても優しく芯の強い子です。やはり兄弟ですね』
「そう? この世界でそんなことを言われたのは初めてだな。今は血の繋がりはないし、満帆の外見も以前とは全く違うから」
『我々はトキワ様の眷属ですから、外見ではなくその人の魂で判断するんです。似ていますよ。ミツル様とあの子の魂は』
「彼奴の魂がどうかは知らないが、優しくて芯が強いのはミツも一緒だ」
「う、わ! メ、メリ!? 急になに!? 子ども達がいる前で」
「彼奴ばかり褒めるミツが悪い」
「は!?」

 急に抱きついて離れなくなったメリは、拗ねた顔をしてそう告げた。俺が満帆ばかり褒めるのが気に入らなかったらしい。メリも立派だよと告げると「それだけじゃ足りない」と言ってぎゅうぎゅうと抱きしめてきた。こういうところは子どもっぽくて可愛いなあと微笑ましく思いながら、俺はメリの頭をそっと撫でた。

「ミツ」
「俺が好きなのはメリだよ」
「…………」
「メリは、俺の自慢の恋人だよ」
「…………」
「拗ねないでよ。メリ」

 メリから少しだけ離れて、不安そうな表情で見下ろしてくるメリの額にそっとキスをした。するとメリは漸く満足したようで、俺を離してくれた。

『んん。みつー、なにしてるの?』
「は! え、えっと、サク? 起きたの?」
『うん! あのね、あのね、ちとせおにいちゃん、いっぱいあそんでくれたんだよ!』
「そ、そっか。良かったね。サク」
『えへへ。ちとせお兄ちゃん、だあーいすき!』
『そうか。俺も大好きだぞ? サク』

 サクが起きると、子ども達も次々と目を覚ました。俺は慌ててメリから距離を置いて子ども達の相手をした。フローラから「ミツルさま、お顔が真っ赤だよ? 大丈夫?」と聞かれて、俺は「うん! 大丈夫!」と答えた。タイミングよくエドガー達がやって来て、子ども達を孤児院の中に連れて行ってくれた。こ、子ども達の前で俺は一体なにをしていたんだ! ぅう。恥ずかしい。
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