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第二章 少年期編
第三十話 根拠や証拠がなくたって
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会議の内容が祭典当日の警備についてに変わったので盗聴は切り上げた。
カーペットに寝っ転がってうとうとしていると突然部屋の扉があいた。
「ルシオン元気か?」
「エイデン殿下!?」
「げ!第二皇子!!」
リッツェとレオがそろって目を丸くする。
後ろにいつもの騎士さんを連れたエディは当たり前のように部屋に入って来た。
「ちょ、エド先生!どういうことですか!?」
騎士さんの大きな身体で隠れていたエド先生がひょっこり顔を出す。
「どうもこうも………陛下が皇宮にいないのを良いことに抜け出してきたそうです。
裏門の前で結界に阻まれているのに気づいて私が中に入れました。さすがに殿下を寒空の下に放置する勇気はなかったです」
そりゃそうだ。もしエディが風邪でもひこうものなら立派な不敬罪になる。
「すみません、止めようとしたんですが聞いてくださらなくて」
騎士さんも涙目になっている。
クビにならないよう祈ってるぞ。
それにしてもこんな状況で騎士を一人しか付けずに外出するなんて一体何があったんだ?
「ふわぁ」
「この状況でよく欠伸なんてできますね!?」
リッツェにキレ気味で突っ込まれる。
最近色々騒がしくてゆっくり休む暇もないんだからいいだろ。毎日二十四時間寝たいところを十二時間に抑えてるんだからさ。
「ルシオンに話があって来たんだ。二人にしてくれないか」
「「「それは駄目です」」」
大人三人が即座に却下する。
「なら側に俺の騎士を付けとく。それでいいだろ」
「何も良くないです。何かあったらどう責任を取るつもりですか?」
警戒体制のリッツェはなかなか俺から離れようとしない。
「そうだよ!なんかあってからじゃ遅いんだぞ!」
何故かレオまでご立腹だ。
レオとエディはどうにも馬が合わないようで顔を合わせる度俺を挟んで喧嘩する。
「レオさんには関係ない。さっさと出てってくれ」
「なんでお前にそんなこと言われなくちゃいけないんだ!ここはお前の家じゃないだろ!」
「レオさんの家でもないだろ。黙ってろ」
レオはエディを見ると噛み付かずにはいられないし、エディはエディで大好きな兄の婚約者であるレオをどうしても受け入れられないのだ。
まあ笑顔の下で腹の探り合いするよりはマシだろう。これはこれで兄弟っぽい。
「リッツェ、外で待ってて」
「嫌ですぅ」
なんでいじけモードなんだ。
ギュウギュウと引っ付いてくるリッツェにどうしたものかと考えあぐねる。
レオまで真似して覆い被さってきてお団子状態だ。
んー。リッツェにはさっき盗聴の共犯になってもらったばかりだからなぁ。
かと言って皇室を抜け出してまで来てくれたエディの話が気にならんでもない。
「リッツェさん、レオ様。これ以上駄々を捏ねるとルシオン様が困ってしまいますよ」
「「ぐぬぬぬ…」」
エド先生が助け舟を出してくれたおかげで二人はものすごーく名残惜しそうに部屋を出た。
「騎士様、お願いしますね」
「はい。お任せください」
エド先生も出て行って部屋には騎士さんとエディと俺だけになった。騎士さんは扉の側に姿勢よく立つ。
エディは未だ寝そべったままの俺を軽々持ち上げてベッドに座らせた。
自分は何故かカーペットに座って、これではエディが俺に跪いているみたいだ。
「今回の事件、お前は何か知ってるのか?」
首を横に振る。
事件についてはこれっぽっちも心当たりがない。
小説に出てたのかも定かではなかった。そもそも人づてに聞いた内容だ。
聞かされていないのか忘れているのか。もしかすると小説には登場しない事件なのかも。
「そうか。知らないならいい。でも何かあるなら隠さず言うんだぞ」
エディは自分が今どんな顔をしているか自覚しているのだろうか。
か細い力で指先を握られ揺れる瞳で見上げてくる。
「俺はお前の言葉ならなんでも信じる。根拠も証拠も必要ない。一人でなんとかしようとするのだけはやめてくれ」
懇願されているようだった。
エディは今でも会うと時々俺の左頬に触れてくる。昔エディの教師だった人に叩かれたところだ。俺が自分で煽って叩かれたのに自分のせいだと感じているのかもしれない。
もしかして俺がまたあの時みたいな真似をするんじゃないかと心配してるのか?
エド先生もショックを受けた様子だったからもう不用意に怪我したりしないと心に決めている。
駄々を捏ねる子どもみたいに未だ指先を放さないエディは俺よりずっと大きいのになんだか可愛い。
俺はそんなエディの手を強く握り返した。
「一つお願いがある」
誰にも言えなかった胸の奥のつかえ。
明確な理由もなく口に出してはいけないことだから自分で対策しようと思っていた。
でも、根拠も証拠もいらないと言ってくれるなら───
「なんでも言え。力になってみせるから」
そうして頼りになる友人のおかげでここ最近溜まり続けていた靄を漸く吐き出すことができたのだった。
因みに丁度話が終わったタイミングで皇宮からの知らせを受けた皇帝が部屋に乱入してきてエディは引きずられるように帰っていった。
「一人で帰ってくださいよ!!まだルシオンと話すんだーーーー!」
エディはただ今絶賛反抗期中なので滅茶苦茶抵抗してた。
うんうん。ちゃんと家族に反抗できるようになったんだな。お兄さんは嬉しいぞ。
「クソ親父!触んな!」
ははは。こんな生意気な口まで叩けるようになったなんて。さすがに陛下が可哀想………
「可愛い奴め~!そんな口きいたらめっ!だぞ♡」
………うん。これは反抗したくなるわ。エディが可哀想。
カーペットに寝っ転がってうとうとしていると突然部屋の扉があいた。
「ルシオン元気か?」
「エイデン殿下!?」
「げ!第二皇子!!」
リッツェとレオがそろって目を丸くする。
後ろにいつもの騎士さんを連れたエディは当たり前のように部屋に入って来た。
「ちょ、エド先生!どういうことですか!?」
騎士さんの大きな身体で隠れていたエド先生がひょっこり顔を出す。
「どうもこうも………陛下が皇宮にいないのを良いことに抜け出してきたそうです。
裏門の前で結界に阻まれているのに気づいて私が中に入れました。さすがに殿下を寒空の下に放置する勇気はなかったです」
そりゃそうだ。もしエディが風邪でもひこうものなら立派な不敬罪になる。
「すみません、止めようとしたんですが聞いてくださらなくて」
騎士さんも涙目になっている。
クビにならないよう祈ってるぞ。
それにしてもこんな状況で騎士を一人しか付けずに外出するなんて一体何があったんだ?
「ふわぁ」
「この状況でよく欠伸なんてできますね!?」
リッツェにキレ気味で突っ込まれる。
最近色々騒がしくてゆっくり休む暇もないんだからいいだろ。毎日二十四時間寝たいところを十二時間に抑えてるんだからさ。
「ルシオンに話があって来たんだ。二人にしてくれないか」
「「「それは駄目です」」」
大人三人が即座に却下する。
「なら側に俺の騎士を付けとく。それでいいだろ」
「何も良くないです。何かあったらどう責任を取るつもりですか?」
警戒体制のリッツェはなかなか俺から離れようとしない。
「そうだよ!なんかあってからじゃ遅いんだぞ!」
何故かレオまでご立腹だ。
レオとエディはどうにも馬が合わないようで顔を合わせる度俺を挟んで喧嘩する。
「レオさんには関係ない。さっさと出てってくれ」
「なんでお前にそんなこと言われなくちゃいけないんだ!ここはお前の家じゃないだろ!」
「レオさんの家でもないだろ。黙ってろ」
レオはエディを見ると噛み付かずにはいられないし、エディはエディで大好きな兄の婚約者であるレオをどうしても受け入れられないのだ。
まあ笑顔の下で腹の探り合いするよりはマシだろう。これはこれで兄弟っぽい。
「リッツェ、外で待ってて」
「嫌ですぅ」
なんでいじけモードなんだ。
ギュウギュウと引っ付いてくるリッツェにどうしたものかと考えあぐねる。
レオまで真似して覆い被さってきてお団子状態だ。
んー。リッツェにはさっき盗聴の共犯になってもらったばかりだからなぁ。
かと言って皇室を抜け出してまで来てくれたエディの話が気にならんでもない。
「リッツェさん、レオ様。これ以上駄々を捏ねるとルシオン様が困ってしまいますよ」
「「ぐぬぬぬ…」」
エド先生が助け舟を出してくれたおかげで二人はものすごーく名残惜しそうに部屋を出た。
「騎士様、お願いしますね」
「はい。お任せください」
エド先生も出て行って部屋には騎士さんとエディと俺だけになった。騎士さんは扉の側に姿勢よく立つ。
エディは未だ寝そべったままの俺を軽々持ち上げてベッドに座らせた。
自分は何故かカーペットに座って、これではエディが俺に跪いているみたいだ。
「今回の事件、お前は何か知ってるのか?」
首を横に振る。
事件についてはこれっぽっちも心当たりがない。
小説に出てたのかも定かではなかった。そもそも人づてに聞いた内容だ。
聞かされていないのか忘れているのか。もしかすると小説には登場しない事件なのかも。
「そうか。知らないならいい。でも何かあるなら隠さず言うんだぞ」
エディは自分が今どんな顔をしているか自覚しているのだろうか。
か細い力で指先を握られ揺れる瞳で見上げてくる。
「俺はお前の言葉ならなんでも信じる。根拠も証拠も必要ない。一人でなんとかしようとするのだけはやめてくれ」
懇願されているようだった。
エディは今でも会うと時々俺の左頬に触れてくる。昔エディの教師だった人に叩かれたところだ。俺が自分で煽って叩かれたのに自分のせいだと感じているのかもしれない。
もしかして俺がまたあの時みたいな真似をするんじゃないかと心配してるのか?
エド先生もショックを受けた様子だったからもう不用意に怪我したりしないと心に決めている。
駄々を捏ねる子どもみたいに未だ指先を放さないエディは俺よりずっと大きいのになんだか可愛い。
俺はそんなエディの手を強く握り返した。
「一つお願いがある」
誰にも言えなかった胸の奥のつかえ。
明確な理由もなく口に出してはいけないことだから自分で対策しようと思っていた。
でも、根拠も証拠もいらないと言ってくれるなら───
「なんでも言え。力になってみせるから」
そうして頼りになる友人のおかげでここ最近溜まり続けていた靄を漸く吐き出すことができたのだった。
因みに丁度話が終わったタイミングで皇宮からの知らせを受けた皇帝が部屋に乱入してきてエディは引きずられるように帰っていった。
「一人で帰ってくださいよ!!まだルシオンと話すんだーーーー!」
エディはただ今絶賛反抗期中なので滅茶苦茶抵抗してた。
うんうん。ちゃんと家族に反抗できるようになったんだな。お兄さんは嬉しいぞ。
「クソ親父!触んな!」
ははは。こんな生意気な口まで叩けるようになったなんて。さすがに陛下が可哀想………
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………うん。これは反抗したくなるわ。エディが可哀想。
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