無気力系主人公の総受け小説のモブに本物の無気力人間が転生したら

7瀬

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第二章 少年期編

第五十一話 来客

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 ───一時間ほど前。

 ベッドの上でリッツェは目を覚ました。

 天井を数秒見つめた後、慌てて身体を起こそうとすると腹部に激痛が走る。

「動くでない。ゲイレン殿の魔法のおかげで命こそ繋がったが怪我は治り切っていないんじゃ」

 横を見れば魔塔主が椅子に腰掛けていた。
 一手遅れてここが魔塔の最上階にある魔塔主の部屋だと気がついた。

「『神の器』。厄介じゃのぉ。魔法攻撃の効果が半減する上に神の器によって負わされた傷には魔力や神聖力が効きづらいようじゃ………これリッツェ!大人しくせんか!」

 魔塔主が話している間も立ち上がろうと足掻いていたリッツェだがベッドから少し身体を離しただけでふらついて座り込んでしまう。

 魔塔主の手を借りてなんとかベッドに座った。

「老人の手を煩わせるでない」
「坊ちゃまを、助けに行かないと」
「お主らは揃いも揃ってエリューストの息子のことばかりじゃのぉ」
「それって………」

 魔塔主が長い顎鬚を撫でながら呟いた言葉にまさかと思いながらも期待してしまう。

「既にユリシスが動いておる。じゃからお主はまず怪我を治せ。そんな状態では助けに行く途中で倒れて終わりじゃ」

 リッツェはホッと息を吐いた。
 ユリシスならルシオンを助け出すくらい容易い。
 ヨルと真正面からぶつかり合うとなれば話は別だがルシオンが側にいる状態で深追いすることはないだろう。

 少しだけ胸を撫で下ろし、魔塔主に急かされてベッドに横になろうとした時だった。

「なんじゃ?」

 魔塔主が突然上を見上げる。
 つられてリッツェも視線を上げると頭上から子どもが落ちてきた。

 重力に逆らってゆっくり降下する様子は宛ら天使の降臨だ。

 その子はポスッと軽い音を立ててベッドの上に座る。可愛らしいその顔には見覚えがあった。

「せ………聖女様!?」

 目の前にいるリッツェを見て目を見開いた聖女は口を数回パクパクする。
 何かを伝えたがっているようだ。

「さては神子の力とやらじゃの。安心せい。儂の愛弟子が神子様を助けに行っておる」
「………」

 聖女は魔塔主の言葉に安堵した後目を伏せて襟元を強く握る。

(どうして聖女様が申し訳なさそうな顔をするんだろう)

 鈍いリッツェに彼女の気持ちを察することなど不可能でただ疑問符を浮かべただけだった。



 ───同刻。エリュースト邸。

 ルシアは玄関先で椅子に座っていた。そのすぐ側でハクが地面に座って膝を抱えている。

「ハクくん、椅子に座らないの?」
「はい」

 ハクは身体の重心を前にやったり後ろにやったりして無理矢理自分を落ち着けているようだった。

「奥様、風邪をひいてしまいます」
「大丈夫よ。ルシオンもゼオンも、きっとすぐに帰って来るもの」

 マフラーを持ったマリが心配そうに屋敷から出てくる。慣れた手つきでルシアの首に巻いた。

 今ルシアが座っているのも外にいるルシアを気遣って侍女のマリが持って来たものだ。
 メイド達も分厚いブランケットを持ってきてルシアに掛けてやり、結局屋敷の人間全員が外に出てきてしまった。

 目を覚ましたばかりのエドワルドまでショールを羽織って玄関から出てくる。

「まだ病み上がりなのに………ごめんなさい。私がここにいると皆に気を遣わせてしまうわね」

 ルシアの言葉に全員が首を横に振る。

「私が落ち着かないからここにいるだけです」
「そうですよ!一緒に待たせてください」
「「「ただ一秒でもはやくルシオン様に会いたいだけです」」」

「皆………ありがとう」

 張りつめていた心が僅かにやわらいでルシアの顔にぎこちないながらも笑みが浮かんだ。

「奥様、あれ………」

 エドワルドが不意に門の方を指差した。門の前に一台の馬車が停まっている。
 馬車から下りてきた人物に使用人は慌てて居住まいを正しルシアとエドワルドは門まで足早に向かった。

「こんな時にごめん。レオとエイデンがここに来ると言って聞かなくて」
「あの俺、ルシオンが心配で………」
「邪魔はしません。ルシオンの顔を見たらすぐに帰ります」

 やって来たのは皇后、レオ、エイデンの三人だ。

「いいのよ。ゼオンなら一番にここに帰って来るでしょうからここにいればすぐに会えるわ」

 半分は願望だ。けれどもう半分は二人への信頼の現れだった。

「それにしてもここに来るのをよく陛下が許したわねぇ。騎士もつけない、で………」

 ルシアは言葉にしてみてやっと気が付いた。
 この異常時に国の宝たる三人が騎士もつけずに正式に外出できるはずがない。

「まあね。陛下には言ってないから」
「父上に言ったら仕事を放って付いて来ようとするからな」
「ロイデンもな!皇太子なんだから俺に引っ付いてる場合じゃないのに」

 将来皇太子を支える存在になる二人が見事に皇后に似てきている。
 これを喜ぶべきなのかルシアには分からなかった。

 三人のおかげで比較的なごやかな空気で門を潜り屋敷までの道を辿っていた。
 その途中、皇后がピタリと足を止める。

「母上?」
「フォルト?」

 他の四人もそれに気付いて後ろを振り向く。

「なにか来る」

 皇后が上を見上げた瞬間、目を開けていられないほどの突風が巻き起こり次に視界が開けた時には黒のローブを纏った男が五人の前に立っていた。エドワルドが前に出て皇后は腰に下げた剣に手をかける。

 長い黒髪をなびかせて無表情で前を見据える綺麗な顔の男。
 髪を纏めている青いリボンが風に乗って揺れた。

 そのリボンを見た瞬間一人の小さな男の子の姿がルシアの記憶を遡り、そして目の前の彼に重なった。
 エドワルドも同じだったようではっきりとその名を呼ぶ。

「ユリシス様?」

 
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