無気力系主人公の総受け小説のモブに本物の無気力人間が転生したら

7瀬

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第一章 幼少期編

第一話 本物の無気力は親不孝?(1)

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 ある程度の物事を自分でこなせるようになった時誰もが一度は考える。 
『赤ちゃんだった頃に戻りたい。何でも他人にやってもらえて、そこにいるだけで褒められたあの頃に』

 ところで話は変わるが、生活費全てとはいかずとも娯楽費くらいは自分で稼げるくらいになっていたはずの俺は気がつくと赤子に戻っていた。

 戻っていたというより、新たに全く別の人間として生を受け再び赤子を経験していると言った方が正しいか。

 いずれにせよ、寝ているだけで良かったあの頃に戻りたいと嘆いている人々よ。知っているか?赤子の生活というのは………この上なく素晴らしいものであるぞ!

「坊ちゃまー、流石にそろそろ起きません?赤子はよく眠ると言いますが続けて十五時間も寝るのはどうでしょう。お身体に問題はないとのことですが、だとしたらお腹が空いても泣き声をあげないのはおかしいですよね?お願いですから早くお目覚めになってその愛らしい瞳を僕に見せてください」

 元々浮かび上がりかけていた意識を完全に覚醒させたのは一人の男の懇願する声だった。別にそれに応えたわけではないが、確かにお腹が空いていたので目を開ける。

「うわあああ!起きた!起きたぞー!このリッツェが遂にやりましたよー!!」 

 目覚めた赤ん坊を放ったらかしてガッツポーズを決めているこの男はこう見えても俺の世話係らしい。ピョコピョコと動物の短い尻尾のように毛先を跳ねさせ、似合わない執事服を身に纏って一応誠心誠意全力で俺を育ててくれている。

「いやー、そろそろ起きると思ってたんですよね。ほら見てください、ミルクが丁度良い温度になってます」
「………」

 見ても温度は分からんやろ。という感想はどうせ言葉にはできないので心の内に留めておく。仮に喋れる状態であったとしてもツッコミの為に口を開く気力はないが。

「赤ん坊って起きたら取り敢えず泣くイメージがあったんですけど坊ちゃまは本当に全く泣かないですよね。お腹が空いてもおしめが濡れても泣かないし、育児書は役に立たないって本当なんだなー」

 リッツェは慣れた手つきで俺を抱き上げると、口元に哺乳瓶を当ててくれる。脳が指示する前に反射的にそれを咥えた。
 見た目も言動も子どもっぽいこの男に本当に育児なんて出来るのかと疑った時もあったが、意外にも手際は良いしかなり真面目に育児の勉強をしているようだ。俺の快適な赤ん坊ライフに大きく貢献してくれている。抱っこも安定していて居心地が良くて………いかん。また眠たくなってきた。

「は!またミルクが減ってない!もー、坊ちゃま!ちゃんと吸ってくださいよ。お腹が空いて起きたんじゃないんですか?食べないと気持ちよく寝られませんよ。ほーら、僕のお口を真似してください。チュー、チュー」

 再度船を漕ぎ始めると、リッツェの成人済み男性にしては高めの声が遠慮なく部屋に響いた。確かに腹が減っては快眠は出来ぬとよく言うので仕方なくミルクを吸う。これ意外と疲れるんだよな。

「よ!流石は坊ちゃま!ハイハイもっと?ハイハイ飲んで?鼠のお口でチューチューチュー!」

 これはリッツェのオリジナルだろうか?それともこの世界の赤子向けソング?
 何方どちらでもいいが、その声量で歌ったら普通の赤子だったら号泣している。お世話して貰う立場で言うのは気が引けるが、君のお坊ちゃまが前世の記憶持ちであることに感謝して欲しい。

 リッツェの歌に急かされながら自分のペースでミルクを飲みきった俺はきっちりゲップをしたことで再び眠る権利を手に入れた。

「ええー、坊ちゃままた寝るんですか?もっと構ってくださいよ。折角坊ちゃまの世話係に任命されたのに、坊ちゃまがあんまりにも大人しいので僕もう暇で暇で………」

 また何か世話係らしからぬことを言っているようだが、これ以上耳を傾けると心の中でツッコんでしまい声に出さずとも体力が削られるので目を瞑ってシャットアウトする。


 ―――あれ、俺赤ん坊になってる?
 意識が芽生えた瞬間そんなことを考えるくらいには前世の記憶を覚えていた。事細かく残っているわけではないが、自分がある程度大人に近づいていたこと、死んだこと、常識、言葉、それから姉との会話。曖昧だが妄想でもなんでもなく確かな経験談としてそれらの記憶がある。

 だがどうにもこの世界は俺の知る世界とはまた別のものらしかった。
 名前や容姿、生活習慣に馴染みがないだけでなく、他にも前世の言葉で言うファンタジー的要素をいくつか見つけた。

 でも、正直もう、そんなことはどうでも良くなるくらい………眠い。ちょっと違う世界にちょっと違う人間として生まれてきたから何だって言うんだ。

 そんなことで驚くのも悩むのも面倒くさい。そんな暇があるなら、この限られた合法ニートタイム赤ん坊の時間を堪能したい。

「………すぅー、すぅー」
「あー!結局また寝てしまった!
………まあ、可愛いからいいか!」
 

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