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第一章 幼少期編
第六十二話 本物の無気力はお勉強する(8)
しおりを挟むエディと騎士さんは皇宮へ戻り、二人とすれ違いで帰宅した父さんは何故かリッツェと母さんとともに執務室に籠もりきりだ。
そして俺は自室のベッドで座っていた。
………エド先生に見張られながら。
「俺ねう」
「そうですか。どうぞお休みください」
「エドしぇんしぇいは?」
「私はここにおります」
確かにエド先生やらリッツェやらが側にいるまま眠ることもある。人の視線とか気にせずに寝れるタイプだし。
でもこんなにも熱心な視線を浴びながら寝たことはない。寝ようと思えば寝れるけど、このまま寝たら後が怖いというか………。
エド先生は本も開かず瞬きも最小限で、食い入るように俺の顔をジッと見つめている。いや、睨んでる?
「お………おこってう………?」
「………」
返事がない。これは百パーセントおこだ!!
もしかして殴られ………ることは絶対ないと断言出来るけど、寧ろ一発殴られた方がスッキリするくらいには視線が怖い。
「………はあ。怒ってませんから。そんなに怯えないでください」
絶対零度の緊張感のある無表情からいつもの取り付く島のない無表情に戻る。
この表現だとどっちも印象が悪いような気もするがまあいいや。
取り敢えず怒ってないなら良かった。寝よう。
「おやしゅみー」
「怒ってはいませんが言いたいことはあります」
布団に潜ろうとモゾモゾした途端エド先生が椅子からベッドへと移動してきた。
ベッドの端に腰掛けてさっきよりずっと至近距離で見つめられる。
び、びっくりした。何でそんな急に距離を詰めるんだ。心臓に悪い。
「ルシオン様のペンに録音されていた音声、私も聞かせていただきました。初めから夫人の本性を知っていたんですよね?」
「ひっく」
「今日の会話だけ全く残っていなかったのはわざと夫人を怒らせるような言葉をかけたからですか?
言葉だけでは罪に問えるか怪しいです。先に教師を辞めさせる決定的な事件を起こさせた上で夫人の企みを全て暴いてもらえるよう仕向けた。
何か違うところはありますか?」
怖い。怖い怖い怖い。
俺の考えが完璧に読まれてる!
「何も言わないということは大体当たっているということですね」
ギクリ。
「ルシオン様、一つだけ教えてください」
既にそこまで読み切っているのに聞かなければならないことなんてあるのか?
怖くてそっぽを向いていたけど恐る恐るエド先生を見る。
「何故私に相談してくださらなかったのですか」
怒っていないというのは本当だったらしい。
怒っているのではなく悲しんでいるのだ。
分厚いレンズ越しに、いつも通りの無表情の中に、そういう感情が透けて見えた。
「私は事情を把握しているわけですし、隠す必要などなかったはずです。教えてくだされば怪我を負わずとも解決できたかもしれません」
「わ、」
「わ?」
「わすれてた………」
そうだった。エド先生知ってたんだわ。
くそう。初めからエド先生に頼っていればこんな面倒な方法取らなくても済んだのに。
常に楽をすることに余念がない俺がこんな失態を犯すとは。なんだかちょっと悔しい。
「………」
どうやら予想外の答えだったらしくエド先生は宇宙人でも発見したような目で俺を見てくる。
あまりの衝撃に思考が停止した様子だったが、数秒でいつもの調子を取り戻すと俺の頰を優しく撫でた。夫人に叩かれたところだ。
自分が怪我をしたみたいに眉を潜めるエド先生。
そういえばこの人も誰かの死の一因となってしまった重荷を背負っているんだな。
「めんちゃい」
「謝ることではありません。
ただ、もう二度と忘れないでください。私が貴方様の力になれるということを。
どんな話をされようと深く問いただすような真似は絶対にしないと約束しますから」
「ん」
何でそんな約束するんだ?とは思いつつも空気を読んでコクンと頷く。
エド先生は俺の返事を聞いて安心したように眉を下げた。そのまま椅子に戻ろうと腰を上げる。
「ルシオン様?」
俺としたことが。
ついついエド先生の手を掴んでしまった。
だって今寝たら、あの悍ましい光景を夢に見そうで。でもとっくの昔に体力の限界を迎えているから瞼は既に半分閉じている。睡眠しないという選択肢はない。
「………大丈夫ですよ。ここにいますからゆっくりお休みください。どうか良い夢が見られますように」
触れ合った手から温かな温度が流れてくる。
積み重なった疲労が消え去り胸に残る黒い靄が浄化されていくような心地良い感覚とともに意識を手放した。
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