独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。

猫菜こん

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不良に見初められた少女

舞い降りた天使 side絆那

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 和凜はどうして、こうも可愛いことばかりしてくるんだろうか。

 心の中で大きくため息を吐き出すも、隣に座って嬉しそうな和凜の愛しさが変わることはない。

「天狼さんは卵焼きは甘めと少ししょっぱめの、どっちのほうが好きですか?」

 弁当を作ってくれると言って、俺のためにあれこれと考えてくれる和凜の可愛さに心臓が落ち着いてくれない。

 あぁ本当に、あの時和凜を助けられてよかった。

 しみじみと今の幸せを噛みしめて、昨日のことをこっそりと思い出す。



「っ、離して、ください……!」

「まぁまぁちょっと待てや! あんたよく見たら可愛い顔してっし、これからどっか店行かね? それでチャラにしてやるよ。」

 ちょうどあの場に居合わせたのは、偶然だった。

 この地域は荒くれ者が多い地域だから、元々喧嘩が強かった俺が度々止めに入っていた。

 そのせいで気付けば“最強の一匹狼”なんて言われて、腕試しなのか喧嘩を吹っ掛けてくる奴もいた。

 どうせ今回も似たようなものだと思い、何も考えずに声をかけた。

「――おい、こんなところで問題起こすな。」

「お前、まさか天狼……ッ⁉」

「知ってるんならさっさと行け、ここで暴れんな。」

「ひぃっ……!!」

 相手は俺の顔を見るなり逃げ出して、すぐに見えなくなった。

 はぁ……これで逃げるような腰抜けなら最初からやるなよ。

 そう呆れながら、絡まれていたであろう女子に忠告するため向き直った。

「こんな時間でもああいう奴らはいるから気をつけろよ。」

「は、はいっ! た、助けてくださってありがとうございます……!」

 さっきの一連の流れに驚いているのか、ぽけっとしていた女子が慌てたように頭を下げる。

 何故かその瞬間……ビビッと、強力な電流が走った感覚が全身に回った。

 ……何だ、この言葉にできないような感情は。

 もやもやと得体の知れない複雑な気持ちに、ぐわっと体全体が満たされる。

 だからなのか咄嗟に、普段なら絶対言わないであろう言葉を口にしていた。

「お前、名前は?」

「さ、咲城和凜です。」

 和凜……すごく、いい名前だな。似合ってて、優しい名前だ。

 名前を知っただけなのにより満たされた感覚がやってきて、まるで自分が自分じゃなくなっていくようだ。

 この感情の正体は分からないが、こうも幸せな感情ってまだあったんだな……。

「えっと、さっきはありがとうございました……! そろそろ失礼します!」

 ドキドキと高鳴っている心臓を抑えようと息を吐き出すと、和凜の可愛らしい大きな声が飛んできた。

 そして帰ろうと踵を返す和凜を見て、思わず声をかけていた。

「待て、送ってく。」

「へ?」

「最近ここらは治安が悪い。また絡まれでもしたら心配だから、家の近くまで送らせてくれ。」

 ぽかんと効果音が付きそうな和凜に、言い訳のように言葉を連ねていく。

 けれどこれは本心で、和凜のような可愛い奴が一人でいるのは危険すぎる。

 最近は不審者も多いし、血気盛んな奴も増えていて何が起きるかが予測できない。

 和凜は断れなさそうな雰囲気を持っているからそういう奴のカモになりやすそうで、何かあったらと思うと……俺はきっと自分を許せない。

 その読みは当たっていたようで、少し考え込んだ和凜がおずおずと首を傾げた。

「い、いいんですか?」

「遠慮なんかするな。それにまた、ああいうチンピラに絡まれたくないだろ?」

「う……それは、もちろん……。」

 さっきのことを思い出してか、静かに目を伏せる和凜。

 それだけでもう可愛いなと思って、今まで知らなかった自分に戸惑ってしまった。


 
 可愛い、愛おしい、傍にいたい。あわよくば自分のものにしたい。和凜を見つめていると、そんな言葉ばかりが頭に浮かんでくる。

 それは今現在もそうで、うーんと悩む和凜が可愛くてずっと眺めていたくなる。

 だがまさか、和凜と同じ学校だったなんて驚いた。

《待って絆那、今女の子の名前言った……? え、天変地異でも起こんの? 世界終わる? 俺まだ死にたくないんだけど……!》

『起きねぇし終わんねぇし死なねぇよ。……和凜のこと知ってるかって聞いただけだろうが。』

《それが俺にとっては驚きなんだよ……まぁいいけどさぁ。咲城和凜ちゃん、俺らと同じ学校で2年A組。可愛いし優しい子だから和凜ちゃんを好きな男は多いらしいけど、本人が鈍感なのとお前も知ってる香椎美月が牽制してるから今はフリーだって。》

 昔馴染みから聞いた情報は、俺を妬かせるのには十分だった。

 けれどそれは仕方のないこと。和凜は本当に可愛いから他の奴の視線を集めてしまうのは必然だ。

 心が綺麗でやること成すこと全てが可愛いのは言うまでもないが、和凜は容姿も整っている。

 肩までの艶のあるブラウンの髪に色素の薄い瞳。そして見るからに小柄である和凜は、抱きしめたら潰れてしまいそうだ。

 ……抱きしめたら、怒られるだろうか。

 肩同士が触れあってしまいそうな距離で、ぐっとその欲求を抑え込む。

 まだ、ダメだ。さっき“友達から”という話になったし、焦ったらいけない。

 そう必死に理性を保とうと唇を少し噛んだ時、隣から不安がかった声がした。

「天狼さん……? む、難しい顔をされてどうかしましたかっ?」

 見ると、和凜が眉尻を下げて顔を覗き込んできていた。

 それに一瞬ドキッとしてしまうも、心配をかけないようにできるだけ平静さを装う。

「いや、少し考えごとをしていただけだから心配しないでくれ。」

「考えごと、ですか?」

「あぁ。和凜はどうしてこうも可愛いんだろうなと、考えていたんだ。」

「っ……!」

 ポッと、そんな効果音が付くように頬を染める和凜。

 やっぱり可愛らしいなと胸が愛おしさで溢れるのを感じながら、俺は心の隅で言おうか迷っていたことを口にした。

「なぁ和凜。俺のこと、“天狼さん”じゃなくて“絆那”と名前で呼んでくれないか……?」

「ふぇっ?」

 ぱちぱちと瞬きを繰り返し、理解を追いつかせようとする和凜に『しまった』と思った。

 名前呼びは急ぎすぎたか……? 和凜は明らかに男慣れしていなさそうだし、ぐいぐい行くのはよくなかったかもしれない。

 顔にこそ出さないものの内心焦り、やはり「何でもない」と撤回しようとした……瞬間。

「じゃあ、絆那さんって呼んでもいいですかっ……?」

「…………っ、本当に可愛いなお前は。」

「へっ⁉」

 迷う素振りを見せたものの、決めたように和凜はぐっと体を寄せて見つめてくる。

 その姿があまりにいじらしくて、つい本音が零れ出た。

 ……誰にも、和凜は渡さない。

 そんな独占欲を隠すように、俺は小さく息を吐き出した。
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