独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。

猫菜こん

文字の大きさ
9 / 30
不良に見初められた少女

送り、牽制する狼 side絆那

しおりを挟む
「和凜、そろそろ戻るか。もうじきチャイムが鳴るだろうし。」

「あっ、そうですね! ……もうそんな時間かぁ。」

 残り5分で休み時間が終わってしまうことに気付き、和凜に声をかける。

 名残惜しいが……和凜を授業に遅刻させるわけにはいかないから仕方がない。

 なんて、今までの自分じゃ抱かなかった感情と共にため息を漏らす。

「ちょっとだけ、名残惜しいですね。絆那さんとお話するの、すごく楽しいので……。」

 それは和凜も同じだったようで、ぽつりと呟いたそれを俺は聞き逃さなかった。

「嬉しいことを言ってくれるな。なら、ギリギリまでここにいるか?」

「で、でも授業もあるので……我慢しますっ。」

 一瞬俺の提案に揺らいだ和凜だったが、ふるふると左右に首を動かす。

 ……ダメだな、和凜の全部が愛しい。本当に離したくなくなってしまう。

「分かった。それじゃあ、行こうか。」

 ふつふつと湧いて出てくる独占欲を体の奥へ押しやり、代わりに頬を緩める。

 この感情はまだ、和凜には見せられない。



 ……それにしても、やはり和凜は視線を集めてしまうな。

「咲城さんってほんとお人形みたいで可愛いよね~っ! あー、いつか話してみたいな~。」

「じゃあ今声かけたら……って、一緒にいるの天狼先輩じゃない⁉ え、どういう繋がり⁉」

「お、俺たちのアイドルが天狼絆那に取られた……っ!」

 屋上に向かっていた時もそこそこ野次馬はいたが、休み終わりだとより人が多い。

 そのせいか和凜は心底居心地が悪そうに、小さな体を更に縮こまらせていた。

 こうして見ていると、ますます和凜を一人にさせたくなくなってしまう。

 詐欺とかにも引っ掛かりそうだし、もう少し和凜に警戒心を持たせる方法がないだろうか。

「和凜、放課後はいつも何をしているんだ?」

「放課後ですか? えっと、用事がなければすぐ家に帰ってます!」

「そうか。なら、今日からは俺と帰らないか?」

「えっ、いいんですかっ……⁉」

 目を大きく見開いて、立ち止まりかけた和凜。

 だがすぐふふっと、こちらに満面の笑みを向けた。

「す、すみません大きな声を出してっ……絆那さんと一緒にいられる時間が増えるのが、すっごく嬉しくって……。」

 ……ここが廊下で、本当によかった。二人きりだったら歯止めが利かなかっただろうから。

「ありがとう、和凜。」

 俺のわがままなのに、受け入れてくれて。

 そんな感謝を込めながら、和凜の頭を撫でようと腕を伸ばす。

 けれどそれは、とんでもない怒号によって遮られてしまった。

「やっと帰ってきたわね……! 天狼っ、さっさと和凜を返しなさい!!」

「あっ、美月ちゃん!」

 和凜の驚いたような声でハッと我に返り、怒号が飛んできたほうに視線を向ける。

 そこには予想通りの人物、香椎が鬼の形相で仁王立ちしていた。

 あー……もう教室着いてたのか。正直まだ和凜といたかったが、これ以上わがままは言えないな。

 頭ではそう分かっていても、俺は咄嗟に和凜の腕を掴んで自分のほうに引き寄せた。

「き、絆那さんっ⁉」

「放課後、迎えに行くから待っていてくれ。」

 こそっと耳打ちして、さっと和凜の頭を撫でる。

 いきなりのそれに和凜はリンゴのように頬を染めていて、ぽかんとしていた。

 そんな姿も可愛いなと愛おしく思っていると、今度は香椎が和凜の腕を引っ張る。

「ちょっと天狼、あんた和凜に何もしてないでしょうね⁉」

「……惚れた相手にすぐ手を出すほど、俺は腐っていない。」

「は⁉ 惚れた相手って――」

 ……キーンコーンカーンコーン

 信じられないと声を張り上げる香椎をなだめるように、休憩終わりのチャイムが鳴り響く。

 和凜は香椎に掴まれながらあたふたしていて、香椎に声をかけていた。

「美月ちゃん、授業始まるから……も、戻ろっか?」

 その様子を背に俺も自分の教室に戻ろうと、踵を返す。

 瞬間、和凜のひときわ大きな声が追いかけてきた。

「絆那さんっ、送ってくれてありがとうございます! 午後の授業、頑張ってください……!」

「……あぁ、和凜も頑張ってな。」

 そんな一言を返すのが、精一杯だった。

 何ださっきのは……可愛すぎるだろ。やはり和凜を一人になんてさせられない。

 自分でも気持ち悪いほどの使命感が生まれてきているのは、それほど和凜に溺れているからだろう。

 俺は、紛れもなく和凜に惚れている。やっと、そう確信が持てた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

【奨励賞】おとぎの店の白雪姫

ゆちば
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 奨励賞】 母親を亡くした小学生、白雪ましろは、おとぎ商店街でレストランを経営する叔父、白雪凛悟(りんごおじさん)に引き取られる。 ぎこちない二人の生活が始まるが、ひょんなことからりんごおじさんのお店――ファミリーレストラン《りんごの木》のお手伝いをすることになったましろ。パティシエ高校生、最速のパート主婦、そしてイケメンだけど料理脳のりんごおじさんと共に、一癖も二癖もあるお客さんをおもてなし! そしてめくるめく日常の中で、ましろはりんごおじさんとの『家族』の形を見出していく――。 小さな白雪姫が『家族』のために奔走する、おいしいほっこり物語。はじまりはじまり! 他のサイトにも掲載しています。 表紙イラストは今市阿寒様です。 絵本児童書大賞で奨励賞をいただきました。

こわモテ男子と激あま婚!? 〜2人を繋ぐ1on1〜

おうぎまちこ(あきたこまち)
児童書・童話
 お母さんを失くし、ひとりぼっちになってしまったワケアリ女子高生の百合(ゆり)。  とある事情で百合が一緒に住むことになったのは、学校で一番人気、百合の推しに似ているんだけど偉そうで怖いイケメン・瀬戸先輩だった。  最初は怖くて仕方がなかったけれど、「好きなものは好きでいて良い」って言って励ましてくれたり、困った時には優しいし、「俺から離れるなよ」って、いつも一緒にいてくれる先輩から段々目が離せなくなっていって……。    先輩、毎日バスケをするくせに「バスケが嫌い」だっていうのは、どうして――?    推しによく似た こわモテ不良イケメン御曹司×真面目なワケアリ貧乏女子高生との、大豪邸で繰り広げられる溺愛同居生活開幕! ※じれじれ? ※ヒーローは第2話から登場。 ※5万字前後で完結予定。 ※1日1話更新。 ※noichigoさんに転載。 ※ブザービートからはじまる恋

星降る夜に落ちた子

千東風子
児童書・童話
 あたしは、いらなかった?  ねえ、お父さん、お母さん。  ずっと心で泣いている女の子がいました。  名前は世羅。  いつもいつも弟ばかり。  何か買うのも出かけるのも、弟の言うことを聞いて。  ハイキングなんて、来たくなかった!  世羅が怒りながら歩いていると、急に体が浮きました。足を滑らせたのです。その先は、とても急な坂。  世羅は滑るように落ち、気を失いました。  そして、目が覚めたらそこは。  住んでいた所とはまるで違う、見知らぬ世界だったのです。  気が強いけれど寂しがり屋の女の子と、ワケ有りでいつも諦めることに慣れてしまった綺麗な男の子。  二人がお互いの心に寄り添い、成長するお話です。  全年齢ですが、けがをしたり、命を狙われたりする描写と「死」の表現があります。  苦手な方は回れ右をお願いいたします。  よろしくお願いいたします。  私が子どもの頃から温めてきたお話のひとつで、小説家になろうの冬の童話際2022に参加した作品です。  石河 翠さまが開催されている個人アワード『石河翠プレゼンツ勝手に冬童話大賞2022』で大賞をいただきまして、イラストはその副賞に相内 充希さまよりいただいたファンアートです。ありがとうございます(^-^)!  こちらは他サイトにも掲載しています。

【完結】またたく星空の下

mazecco
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 君とのきずな児童書賞 受賞作】 ※こちらはweb版(改稿前)です※ ※書籍版は『初恋×星空シンバル』と改題し、web版を大幅に改稿したものです※ ◇◇◇冴えない中学一年生の女の子の、部活×恋愛の青春物語◇◇◇ 主人公、海茅は、フルート志望で吹奏楽部に入部したのに、オーディションに落ちてパーカッションになってしまった。しかもコンクールでは地味なシンバルを担当することに。 クラスには馴染めないし、中学生活が全然楽しくない。 そんな中、海茅は一人の女性と一人の男の子と出会う。 シンバルと、絵が好きな男の子に恋に落ちる、小さなキュンとキュッが詰まった物語。

運よく生まれ変われたので、今度は思いっきり身体を動かします!

克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞」重度の心臓病のため、生まれてからずっと病院のベッドから動けなかった少年が12歳で亡くなりました。両親と両祖父母は毎日のように妾(氏神)に奇跡を願いましたが、叶えてあげられませんでした。神々の定めで、現世では奇跡を起こせなかったのです。ですが、記憶を残したまま転生させる事はできました。ほんの少しだけですが、運動が苦にならない健康な身体と神与スキルをおまけに付けてあげました。(氏神談)

クールな幼なじみの許嫁になったら、甘い溺愛がはじまりました

藤永ゆいか
児童書・童話
中学2年生になったある日、澄野星奈に許嫁がいることが判明する。 相手は、頭が良くて運動神経抜群のイケメン御曹司で、訳あって現在絶交中の幼なじみ・一之瀬陽向。 さらに、週末限定で星奈は陽向とふたり暮らしをすることになって!? 「俺と許嫁だってこと、絶対誰にも言うなよ」 星奈には、いつも冷たくてそっけない陽向だったが……。 「星奈ちゃんって、ほんと可愛いよね」 「僕、せーちゃんの彼氏に立候補しても良い?」 ある時から星奈は、バスケ部エースの水上虹輝や 帰国子女の秋川想良に甘く迫られるようになり、徐々に陽向にも変化が……? 「星奈は可愛いんだから、もっと自覚しろよ」 「お前のこと、誰にも渡したくない」 クールな幼なじみとの、逆ハーラブストーリー。

「いっすん坊」てなんなんだ

こいちろう
児童書・童話
 ヨシキは中学一年生。毎年お盆は瀬戸内海の小さな島に帰省する。去年は帰れなかったから二年ぶりだ。石段を上った崖の上にお寺があって、書院の裏は狭い瀬戸を見下ろす絶壁だ。その崖にあった小さなセミ穴にいとこのユキちゃんと一緒に吸い込まれた。長い長い穴の底。そこにいたのがいっすん坊だ。ずっとこの島の歴史と、生きてきた全ての人の過去を記録しているという。ユキちゃんは神様だと信じているが、どうもうさんくさいやつだ。するといっすん坊が、「それなら、おまえの振り返りたい過去を三つだけ、再現してみせてやろう」という。  自分の過去の振り返りから、両親への愛を再認識するヨシキ・・・           

処理中です...