独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。

猫菜こん

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不良さんとドキドキ

やり返し

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「……で、何でお前がついてきてんだよ。」

 学校を出て数分後、帰路についていると突然絆那さんが立ち止まった。

 極めて面倒で嫌そうな顔をしている絆那さんは、あからさまに不機嫌。

 その後に小さく舌打ちをしたかと思えば、踵を返して視線を投げた。

「水翔。」

「あれ、バレてたか。」

 えっ、朝霞さんっ⁉

 絆那さんに倣うように私も振り返ると、すぐに苦笑した朝霞さんの姿が見えた。

 というか朝霞さん、ついてきてたんだ……!

 てっきりあの場でお別れかと思ってた、とぽかんとしてしまう。

 いつからついてきてたんだろう……気配がないなんて不思議な人だな。

 朝霞さんを睨んで、分かりやすく不機嫌オーラを出す絆那さん。

 けど朝霞さんはさほど気にしていないみたいで、絆那さんの肩を叩いた。

「そんな機嫌悪くしないでよ、絆那。別に和凜ちゃんを取ろうとなんて思ってないから。」

「ならさっさと一人で帰れ。つーかお前、家真逆だろ。」

「確かにそうだけどー……今はそういうわけにはいかないんだよね~。」

 パシンッと乾いた音を響かせながら、朝霞さんの手を払う絆那さん。

 それに朝霞さんは苦い表情を浮かべて、何やら意味ありげな言葉を口にした。

 そういうわけにはいかない……? 朝霞さん、何のことを言って――。

 不思議に思って尋ねてみようかなと口を開いた、その瞬間。

「――こうして、不意に狙ってくるバカがいるからね。」

 っ……⁉

 あざ笑うかのような朝霞さんの声がその場に響いたかと、思った時。

 風を切るような鋭い音が耳のすぐそばでして、直後ドンッという鈍い音がやってくる。

 朝霞さんがそれをしたんだと気付くには、少し時間がかかった。

「ひっ……!」

 無意識に、口から悲鳴が出る。だって振り返ってすぐ、道路に倒れこんでいる男の人が視界に入ったから。

 これ、朝霞さんが……?
 
「前も言ったでしょ絆那、“あいつら”は血気盛んで喧嘩したがりな奴らだから喧嘩買わないほうがいいって。じゃないと、お前の大好きな和凜ちゃんが狙われちゃうよ?」

 言いながら朝霞さんは、茂みからぞろぞろと出てくる男の人たちに挑戦的な笑みを向ける。

「かかってきたいなら早く来れば?」

 ざっと10人はいるだろうか、すっかり囲まれてしまって逃げ場を失う。

 右を見ても左を見ても体格の良い人ばかりで、足がすくんでしまった。

「天狼! この間はよくも俺たちの仲間をボコボコにしてくれたな……ッ!」

「借り、返しに来てやったぜ! 感謝しろよな天狼!」

「売られた喧嘩を買っただけだったが……面倒なことになったな。」

 怒りが含まれた声色が四方八方から飛んできて、足元がふらつく。

 っ、こわい……。

 自分を奮い立たせようと力を入れようとしても、恐怖が勝ってぎゅっと絆那さんにしがみついた。

「水翔、ここは任せた。すぐ戻るから、こいつらの相手を頼む。」

「りょーかい。」

 そんな私の状態を案じてくれたのか、絆那さんは震えている私の手を優しくとる。

 そして一瞬、体が宙に浮いたと思えばあっという間にお姫様抱っこをされていた。

 へっ……⁉

「絆那さんっ⁉」

「すまない和凜、こんな危険な目に遭わせてしまって。少し走るから、しっかり掴まっておいてくれ。」

「で、でもっ……」

「あいつらはしぶとい。水翔が引き留めてる間に距離を取らないとなんだ、分かってくれ。」

「朝霞さんは……その、大丈夫なんですか⁉」

「あぁ、あいつの喧嘩の腕は上等なもんだ。10人引き留めるくらい、どうってことないはずだ。」

 そ、そういうものなのかなっ……⁉

 朝霞さんのことを全然知らないから何とも言えないけど、やっぱり心配になってしまう。

 どうか朝霞さん、無事でいてくださいっ……!

 お姫様抱っこでの恥ずかしさはどこへやら、気が気じゃない私は心の中でそう願っていた。



 その後、絆那さんに抱えられながら無事家へと到着した私は、やっと地に足をつけることができた。

 もう着いちゃった……さすが絆那さん、早かった。

 濁流のようにやってきた展開とお姫様抱っこされたことによる恥ずかしさで、バクバクとうるさい心臓を落ちつけようと深呼吸を繰り返す。

 そうしていると突然、絆那さんがこんな提案を投げかけてきた。

「和凜、明日からは朝も迎えに来ていいか?」

「朝、ですか……?」

「わがままだとは分かっているが、さっきみたいなことが今後起こらないと断言はできない。和凜の身に何かあったら俺はどうにかなってしまいそうなんだ。」

 弱気の、珍しい絆那さんに言われて息を呑む。

 絆那さんはきっと、底知れない優しさの持ち主だ。こんな素敵な人に守られるなんて贅沢でしかない。

 ……絆那さんの負担には、絶対になりたくない。それにここで甘えてしまえば、この先も絆那さんに甘えてしまうと思う。

 そう分かっているのに……どうしてか、断りたくない自分がいる。

 もっと絆那さんといたい、仲良くなりたい。そう思っている自分が。

「私、は……」

 しっかりしろ、私。ここはちゃんと断るべきだ。

 頭で考えながら、ゆっくり震える声を吐き出す。

 ……甘えちゃ、ダメなのに。

「絆那さんと、もっと長く一緒にいたいので……お願いしても、いいですかっ?」

 そんな頼みが、自然と口から出ていた。

 はっと気付いた時にはもう遅かったけど、後悔はしていない。むしろどこか安心したような感覚がある。

 だって、絆那さんといると……。

「私、絆那さんのお隣にいるとすごく落ち着いて……こう、嬉しくなっちゃって……なので、もっとお隣にいさせてほしいんです。」

 出会ってまだ二日しか経っていないのに、そう思うのは絆那さんが私を気遣ってくれるから。

 優しい言葉をかけてくれて守ってくれて……私にはもったいないすごい人。

 ここまで異性に好かれたことなんてなかったから、どうすればいいかはさっぱり分からない。

 でも絆那さんがこんなにも私のことを考えてくれているなら、私も同じものを返したい。

 同じくらいの、優しさを。

「今よりももっともっと仲良くなって、絆那さんのことをいっぱい知りたいですしっ……なので――」

「どうして、そんな可愛いことばかり言うんだ。」

 言葉を続けようと、絆那さんの顔を見上げようとした途端。

 何の前触れもなく絆那さんは、ぎゅうっと私を抱きしめてきた。

 自分一人では抜け出せないほどの力が絆那さんの腕にこもっていて、硬直したまま指先や顔が熱くなってくる。

「あのっ、絆那さん……!」

「悪い、もう少しこのままでいさせてくれ。」

「……っ、わかり、ました。」

 甘くとろける、懇願する声が耳元で囁かれる。

 うぅっ、そんな声で言われちゃったら振りほどけないよ……。

 抵抗しようとした腕を脱力させながら、絆那さんの腕の中で大人しくする。

 その後の数分間、私は爆発しそうな心臓の音を体全体で感じながら抱きしめられていた。
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