独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。

猫菜こん

文字の大きさ
13 / 30
不良さんとドキドキ

全部ひっくるめて

しおりを挟む
「じゃあ今日はここまで。しっかり復習してくるように。」

 おなじみのチャイムが学校中に響き渡ってから、先生が教室を出ていく。

 瞬間、クラスの大半が一斉に机に突っ伏してしまった。

 みんな疲れ切ってるなぁ……あ、美月ちゃんもだ……。

 うーんと腕を伸ばして視線を動かすと、頭を押さえてげっそりしている美月ちゃんが見える。

 かくいう私も結構疲れていて、同じように頭を押さえたくなってしまう。

 テストも近いし、頑張らなきゃって思うんだけどね……。

 そう頭を悩ませながら、いそいそとお弁当箱をふたつ取り出す。

 片方は自分の、もう片方の大きいのは絆那さんのだ。

 気合を入れすぎちゃってギリギリまで詰め込んだから重たいけど……喜んでくれるかな。

 なんて一抹の不安を覚えていると、こちらにやってきながら美月ちゃんがこうぼやいた。

「和凜、お迎え来てるよ。てか天狼、いくら和凜と一緒にいられるからって顔ゆるゆるすぎ……。」

「え、絆那さんもう来たの⁉」

 呆れたように小首を傾げる美月ちゃんの声に反応するよう、ガタッと席から立ち上がる。

 それと同時に教室の後ろ扉で待ってくれている様子の絆那さんが見えて、急いでお弁当を抱えた。

「美月ちゃん、教えてくれてありがとうっ。行ってきます……!」

「うん、気を付けてね。……そうだ、ちょっと天狼!」

 だけどその時、美月ちゃんが何かを思い出したように絆那さんの元へまっすぐ歩いていく。

 美月ちゃんの表情は何かを企んでいるようにも見えて、鋭い眼光がこちらを刺してくるみたいだった。

 どうしたんだろう、絆那さんに用事かな……?

 不思議に思いながらも私も二人のところへ向かうと、自分の両腕を組んだ美月ちゃんの堂々たる声が教室中に響いた。

「和凜のこと、連れていくからにはちゃんと守るのよ。傷なんてつけたら、あたしがあんたをぶっとばすから。」

 声は真剣そのもので、美月ちゃんが本気で言っているのが一瞬で伝わってくる。

 そのまま美月ちゃんは一息吐くと、私の両肩を掴んでずいっと絆那さんへと差し出した。

「ていうことだから、ちゃーんと仲良くなってよね! ほら和凜、行ってきな。」

「わっ……!」

 優しい声色と共に背中を押され、危うく絆那さんの胸にダイブしかける。

 そして急いで踏みとどまった私の手は、きゅっと弱い力で握られた。

 それはもちろん、天狼さんからで。

「分かってる。何に代えたとしても和凜だけは守るつもりだ。」

 吐き捨てるようなその言葉は、やけに悲しく耳に残った。



 ガチャリと、屋上へと扉が開かれる。

 昨日の今日だけど屋上へは滅多に来ないから、物珍しさできょろきょろと見回してしまう。

 手は繋がれたまま絆那さんに連れられ、陽に照らされて暖かいベンチへと腰を下ろした。

 ……絆那さん、どうしたんだろう。

 さっき美月ちゃんと言葉を交わした時から、絆那さんの表情は暗い。

 ううん、暗いだけじゃなくて……何かに悩んでるように影を落としている。

 どうしよう、何か話したほうがいいんだろうけど……何も思いつかない。

 隣に座っている絆那さんをチラチラ見ながら、意味もなく口を開閉させる。

 沈黙の時間が長くなればなるほど気まずさが増してきて、手元や足元にも視線を彷徨わせてしまった。

 何か、空気を変えられるような話題を――。

「嫌なら嫌だと言ってくれて、構わない。」

「え?」

 突拍子もなく、絆那さんはそう言った。

 嫌ならって……何で絆那さんは、そんなことを言うの?

「どういうこと、ですか……?」

 言葉の意味が全く分からなくて、呆然としながら疑問を零す。

 嫌になんて、なるはずないのに。

 そう言いたくて唇を噛みしめると、寂しそうなままの言葉が聞こえた。

「ここまで連れてきておいて今更何だって話だが……俺はいつも、強引だ。和凜の気持ちを聞かずに勝手に連れてきたりして、そんなのは嫌だろ? だから俺を、断ってくれていい。」

 静かに重ねられた手からは、まるで絆那さんの葛藤が伝わってくるみたい。

 じっと絆那さんを見据えていると、しばらく目を伏せていた絆那さんは瞼を上げた。

 不安が拭いきれていない綺麗な藍色の瞳とぶつかって、どれだけ悩んでいたのかと考えさせられてしまう。

 絆那さんが、どんな不安をどれだけ抱いているかは分からない。

 でもひとつだけ、私にも言えることはある。

 それを伝えるために自分から絆那さんの大きな手を取ると、控えめに力を込めた。

「絆那さんの気持ちは分かりました。だけど私は絆那さんを強引だとは思いませんし、断ったりなんてしません。」

 私の言葉に、ぴくっと絆那さんの手がかすかに動いた。

 そこで私は一旦言葉を切ってから、全力で笑ってみせる。

「私はきっと、絆那さんが思っているほど気にしてないです! それに強引でも、全部ひっくるめて絆那さんだって思うので大丈夫ですよ!」

 語彙力がないなりに言ってみたけど、これが私の正直な気持ち。

 優しいところも強引なところも、喧嘩が強くたって全部絆那さんだ。たとえ絆那さんが欠点だと思っていても、私が全部肯定する。

 ……って、そういえば早くお昼食べないと休憩終わっちゃう!

 ハッと現実に戻ってきてすぐ、隣に置いていたお弁当のひとつを絆那さんの前に出した。

「これ、絆那さんのお弁当です! お口に合うかどうか分からないですけど、よかったら食べてくださいっ!」

「……ありがとう、嬉しい。」

「えへへっ、どういたしまして!」

 両手で差し出したお弁当を、絆那さんは笑顔で受け取ってくれる。

 でも直後、突然腕を掴んで引かれたと思うと。

「ありがとう、本当に……やっぱり好きだ、和凜。」

「き、絆那さん……っ⁉」

 まんまと抱きしめられ、間を置かずに告白なるものをされる。

 す、好きって……いきなりどうしたんですか……!

 まさかの発言に驚きを隠せず、恥ずかしさから逃れるために絆那さんの胸板をトントン叩く。

 けれども、絆那さんが離してくれる様子は一切なく。

「っ、絆那さん……!」

「……悪い。和凜が可愛くて、歯止めが利かなくなっていた。」

「が、頑張って利かせてください!」

 このままじゃ私の心臓がもちませんっ!

 そんな気持ちを込めて、ぷくーっと頬を膨らませる。

 絆那さんはその様子を愛おしそうに眺めてきて、少し悩んだ素振りを見せてから再び私を引き寄せた。

「うなっ⁉ だから絆那さんってば……!」

「……すまない。」

 ち、力がこもってる……。

 口では謝りながらも離してはくれない絆那さんに、心の中で私は困ってしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

【奨励賞】おとぎの店の白雪姫

ゆちば
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 奨励賞】 母親を亡くした小学生、白雪ましろは、おとぎ商店街でレストランを経営する叔父、白雪凛悟(りんごおじさん)に引き取られる。 ぎこちない二人の生活が始まるが、ひょんなことからりんごおじさんのお店――ファミリーレストラン《りんごの木》のお手伝いをすることになったましろ。パティシエ高校生、最速のパート主婦、そしてイケメンだけど料理脳のりんごおじさんと共に、一癖も二癖もあるお客さんをおもてなし! そしてめくるめく日常の中で、ましろはりんごおじさんとの『家族』の形を見出していく――。 小さな白雪姫が『家族』のために奔走する、おいしいほっこり物語。はじまりはじまり! 他のサイトにも掲載しています。 表紙イラストは今市阿寒様です。 絵本児童書大賞で奨励賞をいただきました。

こわモテ男子と激あま婚!? 〜2人を繋ぐ1on1〜

おうぎまちこ(あきたこまち)
児童書・童話
 お母さんを失くし、ひとりぼっちになってしまったワケアリ女子高生の百合(ゆり)。  とある事情で百合が一緒に住むことになったのは、学校で一番人気、百合の推しに似ているんだけど偉そうで怖いイケメン・瀬戸先輩だった。  最初は怖くて仕方がなかったけれど、「好きなものは好きでいて良い」って言って励ましてくれたり、困った時には優しいし、「俺から離れるなよ」って、いつも一緒にいてくれる先輩から段々目が離せなくなっていって……。    先輩、毎日バスケをするくせに「バスケが嫌い」だっていうのは、どうして――?    推しによく似た こわモテ不良イケメン御曹司×真面目なワケアリ貧乏女子高生との、大豪邸で繰り広げられる溺愛同居生活開幕! ※じれじれ? ※ヒーローは第2話から登場。 ※5万字前後で完結予定。 ※1日1話更新。 ※noichigoさんに転載。 ※ブザービートからはじまる恋

星降る夜に落ちた子

千東風子
児童書・童話
 あたしは、いらなかった?  ねえ、お父さん、お母さん。  ずっと心で泣いている女の子がいました。  名前は世羅。  いつもいつも弟ばかり。  何か買うのも出かけるのも、弟の言うことを聞いて。  ハイキングなんて、来たくなかった!  世羅が怒りながら歩いていると、急に体が浮きました。足を滑らせたのです。その先は、とても急な坂。  世羅は滑るように落ち、気を失いました。  そして、目が覚めたらそこは。  住んでいた所とはまるで違う、見知らぬ世界だったのです。  気が強いけれど寂しがり屋の女の子と、ワケ有りでいつも諦めることに慣れてしまった綺麗な男の子。  二人がお互いの心に寄り添い、成長するお話です。  全年齢ですが、けがをしたり、命を狙われたりする描写と「死」の表現があります。  苦手な方は回れ右をお願いいたします。  よろしくお願いいたします。  私が子どもの頃から温めてきたお話のひとつで、小説家になろうの冬の童話際2022に参加した作品です。  石河 翠さまが開催されている個人アワード『石河翠プレゼンツ勝手に冬童話大賞2022』で大賞をいただきまして、イラストはその副賞に相内 充希さまよりいただいたファンアートです。ありがとうございます(^-^)!  こちらは他サイトにも掲載しています。

【完結】またたく星空の下

mazecco
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 君とのきずな児童書賞 受賞作】 ※こちらはweb版(改稿前)です※ ※書籍版は『初恋×星空シンバル』と改題し、web版を大幅に改稿したものです※ ◇◇◇冴えない中学一年生の女の子の、部活×恋愛の青春物語◇◇◇ 主人公、海茅は、フルート志望で吹奏楽部に入部したのに、オーディションに落ちてパーカッションになってしまった。しかもコンクールでは地味なシンバルを担当することに。 クラスには馴染めないし、中学生活が全然楽しくない。 そんな中、海茅は一人の女性と一人の男の子と出会う。 シンバルと、絵が好きな男の子に恋に落ちる、小さなキュンとキュッが詰まった物語。

運よく生まれ変われたので、今度は思いっきり身体を動かします!

克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞」重度の心臓病のため、生まれてからずっと病院のベッドから動けなかった少年が12歳で亡くなりました。両親と両祖父母は毎日のように妾(氏神)に奇跡を願いましたが、叶えてあげられませんでした。神々の定めで、現世では奇跡を起こせなかったのです。ですが、記憶を残したまま転生させる事はできました。ほんの少しだけですが、運動が苦にならない健康な身体と神与スキルをおまけに付けてあげました。(氏神談)

クールな幼なじみの許嫁になったら、甘い溺愛がはじまりました

藤永ゆいか
児童書・童話
中学2年生になったある日、澄野星奈に許嫁がいることが判明する。 相手は、頭が良くて運動神経抜群のイケメン御曹司で、訳あって現在絶交中の幼なじみ・一之瀬陽向。 さらに、週末限定で星奈は陽向とふたり暮らしをすることになって!? 「俺と許嫁だってこと、絶対誰にも言うなよ」 星奈には、いつも冷たくてそっけない陽向だったが……。 「星奈ちゃんって、ほんと可愛いよね」 「僕、せーちゃんの彼氏に立候補しても良い?」 ある時から星奈は、バスケ部エースの水上虹輝や 帰国子女の秋川想良に甘く迫られるようになり、徐々に陽向にも変化が……? 「星奈は可愛いんだから、もっと自覚しろよ」 「お前のこと、誰にも渡したくない」 クールな幼なじみとの、逆ハーラブストーリー。

「いっすん坊」てなんなんだ

こいちろう
児童書・童話
 ヨシキは中学一年生。毎年お盆は瀬戸内海の小さな島に帰省する。去年は帰れなかったから二年ぶりだ。石段を上った崖の上にお寺があって、書院の裏は狭い瀬戸を見下ろす絶壁だ。その崖にあった小さなセミ穴にいとこのユキちゃんと一緒に吸い込まれた。長い長い穴の底。そこにいたのがいっすん坊だ。ずっとこの島の歴史と、生きてきた全ての人の過去を記録しているという。ユキちゃんは神様だと信じているが、どうもうさんくさいやつだ。するといっすん坊が、「それなら、おまえの振り返りたい過去を三つだけ、再現してみせてやろう」という。  自分の過去の振り返りから、両親への愛を再認識するヨシキ・・・           

処理中です...