独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。

猫菜こん

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忍び寄る影

似た者同士だから

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「それ、どっちも悪いとは言えないよね。和凜が悪いわけじゃないし、天狼ももちろん悪くないし。」

 強引にあの場をやり過ごしたからか、帰りの準備をしながら美月ちゃんにことの発端を聞かれた。

 どっちつかずの返答をされて、私の心はもっと複雑になる。

 確かにそうなのかも、しれないけど……。

「あの場で終わらせた私が悪いし、それに……」

「“巻き込まれ体質だから”、って思ってるでしょ。」

「……さすが、美月ちゃんだね。」

 私のせいで助けてくれた絆那さんを、危ない目に遭わせたくない。

 私といたら、もしかしなくても絆那さんは……。

「あいつはそんなヤワな男じゃないよ。」

「……え?」

「天狼は、和凜が思うよりも強い。なんてったってあいつは――」

「おっ、和凜ちゃんみーっけ!」

 美月ちゃんが何かを言いかけたところで、それは陽気な声に遮られた。

 えっ、絆那さんは何なのっ⁉

 そう問いただしくなったけど、さきほどの声の主が近付いてきて口をつぐむ。

「何よ朝霞、何の用?」

「ほんっと美月は俺に厳しいよなぁ……っていうか俺が用あるのは、美月じゃなくて和凜ちゃんにだし。」

 スクールバッグを肩に引っかけ、無遠慮に教室に入ってきたのは朝霞さん。

 人当たりの良い笑顔でこちらに来る朝霞さんに、私ははてなを浮かべる。

「朝霞さん、私に用って……どうしたんですか?」

 たまらず疑問を口にし、バッグを中身を確認してから立ち上がる。

 すると朝霞さんは何故か困ったように眉尻を下げて、一言。

「俺は絆那の代わりで来たんだよね。『和凜を送ってくれ』って言われてさ。」

「はぁ? あいつがそんなこと頼んだの? ちょっと信じらんない……。」

 美月ちゃんが口を曲げ、朝霞さんがため息を吐いている隣で私は体を強張らせた。

 きっとお昼のせいだ……私が変な空気を作っちゃったから、絆那さんも気まずくなっちゃったんだ。

 でも私がいないほうが、絆那さんは安全で……。

 いくら好意を伝えられても、私がいたら絆那さんまで危険にさらされる。

 ……それならいっそ、このままのほうがいいんじゃないのかな。

「まぁ絆那、平気そうな顔してたけどめちゃくちゃ泣きそうだったけどね。」

「そうでしょうね~……あいつ、ちょっと引くくらい和凜のこと好きだし。愛が深いのも困りもんよね。」

 絆那さんの身を案じて、ぎゅっと拳を作る私。

 朝霞さんはその様子を横目で見てから、含みのある言い方をした。

 まるで私に何かに気付いてほしいみたいに、わざと。

「絆那も心配なんでしょ。涼しい顔してるけど和凜ちゃん一筋だから、内心めちゃくちゃ焦ってるかもだし。」

 ……やっぱりだ。朝霞さん、私と絆那さんに何かあったことに勘付いている。

 それを分かっていて朝霞さんは、私に気付かせようとしてるんだ。

 『絆那のところに行きな』って。

「……朝霞さん、絆那さんってどこにいるか分かりますか?」

 自然と、そう口にする。

 バッグを握りしめ、朝霞さんの答えを急かす。

 朝霞さんは少しだけ拍子抜けしたように目を見開いたけど、すぐ微笑んでみせた。

「絆那ならいつもの場所にいると思うよ。」

「いつもの場所、ですか……?」

「和凜ちゃんなら分かるんじゃないかな。絆那がいそうなとこなんて、あそこしかないよ。」

 場所を曖昧にし、不敵な表情の朝霞さんに首を傾げかける。

 でも……私が知ってて絆那さんが好む場所といったら、あそこしか考えられない。

「分かりました。私、絆那さんと話してきます!」

「うん、思ってることあるんならちゃんと言ったほうがいいよ~。」

「はい……!」

 早くその場に行きたくて、口早に伝えるや否や教室を飛び出す。

 そうだよ、ちゃんとお話ししなくちゃ。絆那さんと離れたままは、嫌だっ……!

「朝霞さぁ、そんな回りくどいことせずに直接言えばいいのに。何か企んでるのバレバレ。」

「さっすが美月、俺の見込んだ女。だって仲違いさせたままなんて可哀想じゃない?」

「それは同意するけど、あんたに見込まれたって嬉しくない。あたし、そろそろ行くから。」

「んじゃ俺も帰りますかね。最近あのグループのリーダーが、うちの絆那を嗅ぎ回ってるみたいだし。」

 私が飛び出した直後。

 遠慮のない二人は、心底面倒そうに言葉を交わしていた。



 目の前の取っ手を回すと、その扉はいともたやすく開いた。

 走って火照った体が吹き抜けた風によって冷やされて、どこか清々しさを感じる。

 私が思い当たったのは、いつも絆那さんとお昼を過ごしている屋上。

 予感は無事当たったらしく、屋上に足を踏み入れるとすぐ絆那さんの姿が見えた。

 どうやら絆那さんは私がやってきたことに気付いてないみたいで、ぼーっと空を見上げながら何かを考え込んでいる様子。

 絆那さんに話しかけるのが、これほどまでに怖いと思ったことはない。

 ……ううん、ちゃんと話すって決めたんだからしっかりしないと。

 自分の両頬に手を当て、小さくペチンッと活を入れる。

「――絆那さんっ!」

「っ、和凜……?」

 思いっきり声を張り上げ、彼の名前を呼ぶ。

 すると絆那さんはいつになく驚いた様子でこちらに振り返り、瞬きを繰り返していた。

 唇を引き結んでから、ゆっくり絆那さんの元へと歩いていく。

 そしてちょっぴり距離を空けて立ち止まると、私は大きく息を吸った。

「ごめんなさい! 私っ、絆那さんに迷惑かけたくなくて……逃げるようなこと、しちゃって……。」

 震える手をぎゅっと包んで、頭は下げずに絆那さんの目を見据える。

 怖がってちゃダメだ……自分の思いを、伝えないと。

 自分をそう奮い立たせながら、浅く呼吸を繰り返して言葉を紡いでいく。

「絆那さんは謝らなくていいって思ってるかもしれないですけど、私が謝りたいんです。いつも私のせいで危険な目に遭わせてしまって、ごめんなさい。」

「……謝るのは、俺のほうだ。」

 今度は頭を下げようと勢い余りかけた時、ぽつりと絞り出したような絆那さんの声が耳に届く。

 その、聞いたこともないような弱々しい声に戸惑って動きが止まる。

「和凜も薄々気付いてると思うが、俺はこれまで何度もああいった喧嘩っ早い奴らと喧嘩をしてきた。危険な目に遭わせているのは俺のほうだ。……すまない、和凜。」

 切なく苦しそうな声色に、私の心臓も握りつぶされるような感覚になった。

 絆那さんの言っていることはごもっともだ。これを否定するのはきっと違う。

 だから私はゆっくりと絆那さんの手を取り、抱きしめるように両手で包み込んだ。

「それなら絆那さん……これからは私にも、絆那さんを守らせてください。私たち似た者同士だと思うので、責任感は半分こしちゃいましょうっ。」

 にこっと、気が緩んだように口元が綻ぶ。

 自分に責任を感じやすくて自己肯定感が低くて、相手を優先してしまう私たち。

 そんな似た者同士だから気遣いが重なってすれ違って、お互いが傷ついてしまった。

 だったらこれからは、全部半分にしちゃって二人でやっていけばいい。責任も肯定感も、全部。

 絆那さんとなら私は、何だってできると思うんだ。

 なんていう気持ちを伝えるために今度は全力で笑ってみせると、絆那さんは珍しくくしゃっと泣き笑いのような表情を浮かべた。

「……ありがとう。こんな俺を、受け入れてくれて。」
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