独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。

猫菜こん

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忍び寄る影

気付いた恋心

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「ごめんなさい、お金出してもらっちゃって……。」

「誘ったのは俺だから、これくらいはさせてくれ。」

「あ、ありがとうございます……!」

 喫茶店のスイーツを思いっきり楽しんだ後、お会計を済ませて帰路につく。

 ケーキも紅茶も、とっても美味しかったっ。

 幸せな気分に浸りながら、街灯を頼りに家へと歩を進めていく。

 結構真っ暗だなぁ……うっ、ちょっぴり怖いかも。

 街頭で照らされているものの目先は暗がりで、足がすくみそうになってしまう。

 気を抜いたら、絆那さんを見失っちゃいそうだ……。

「……どうした、和凜。」

「あっ……ご、ごめんなさい!」

 絆那さんに呼ばれて、つい謝ってしまう。

 わ、私ってば何やって……!

 怖さからなのか私は無意識に絆那さんの袖を掴んでいて、慌てて離す。

「暗いの、怖いか?」

「っ! はい、実はそこそこ……。」

 昔から暗いところは好きになれなくて、かすかな物音でも怯えてしまう。

 私の呟くような声に、絆那さんは何かを確信したように丁寧に私の手を握りしめた。

「あっ……」

「こうすれば気は紛れるだろ?」

 握った手を持ち上げ、絆那さんはニッと笑う。

 そんな彼にドキドキしないわけなく、久しぶりに心臓が激しく高鳴る。

 何度か手を握られたことはあったけど、こうしてまじまじと繋いだことはなかった。

 やっぱり大きくて優しい手で、ほっと安心感を覚える。

 絆那さんって、本当にすごい人だなぁ……。

 すぐに私の不安を取り除いてくれて、優しく接してくれる。

 ドキドキする心臓の音が、今は心地よく感じた。

 ……分かった。どうして絆那さんといると、こんな幸せにドキドキするのかが。

 私――絆那さんのことが好きなんだ。

 吊り橋効果なんかじゃない。はっきりと、心の中に“好き”が溢れていく。

「和凜、これなら怖くないか?」

「はいっ……!」

 好き、大好きだ。絆那さんのこと。

 どうして今まで気付かなかったんだろう。どうして気が付けなかったんだろう。

 今なら多分、絆那さんの気持ちが分かると思う。

 ……私、絆那さんのこと大好きです。きっと絆那さんに負けないくらい、好きです。

 今すぐこれを言えるわけじゃないけど、いつかちゃんと言いたい。

 絆那さんと同じ言葉を返す勇気がまだ出ない私は、握られている手をいつの間にか強く握り返していた。



 ……今日は楽しかったな。

 絆那さんに家まで送ってもらい、自室のベッドに飛び込む。

 すっごく素敵なお店に連れて行ってもらったし、奢ってもらっちゃったし……絆那さんには頭が上がらない。

 けどこれから、どんな表情で絆那さんに会えばいいんだろう……。

 絆那さんへの恋心を自覚した以上、緊張してまともに顔を見られない気がする。

 ……ううん、絶対見れないっ。

「どうすればいいのかなぁ……。」

 人を好きになるなんて初めてで、恋愛初心者の私にはどうすればいいか分からない。

 絆那さんにアピールとか……は、私がドキドキしすぎて死んじゃう。

 アピールした自分を想像して、それだけでも恥ずかしくて足をバタバタさせる。

 恋って、こんなに難しいものだったんだなぁ……。

 ドキドキして、事あるごとにその人のことを考えちゃう……みたいなイメージはあったけど、想像以上に恋っていうのは難しい。

 でも、幸せだ。絆那さんのことを考えるだけで、心がぽかぽかと温まる。

 それくらい私にとって、絆那さんは大事な人なんだ。



 翌日、早速絆那さんと顔を合わせる。

 毎朝一緒に登校しているから当たり前なんだけど、いざ会うとやっぱり緊張してしまう。

「和凜、少し顔が赤いが大丈夫か?」

「えっ⁉」

「もしかして熱でもあるのか?」

 言いながら、絆那さんは私の額に手を当ててくる。

 瞬間、大きく肩を跳ねさせてしまった。

「な、ないです! は、早く学校行きましょうっ……!」

 急いで、絆那さんの手を振り払う。

 いつもよりも速足で通学路を歩きながら、両手で自分の頬に触れた。

 わ、すごく熱くなってるっ……。

 本当に熱があるんじゃないかと思うくらい、私の頬は熱を持っている。

 こんな感じじゃダメだ……意識すると恥ずかしくなっちゃう。

 だけど、絆那さんと会わないようにするわけにもいかず。

 平常心、平常心……っと。

 そう何度も自分に言い聞かせて、跳ねている心臓を落ち着かせる。

「和凜……?」

 平静を保つのに必死な私に、絆那さんの不思議そうな声はその場に溶けて消えていった。
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