独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。

猫菜こん

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忍び寄る影

突き放す勇気

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 ……来てしまった、お昼休みが。

 午前中の授業はいつもと変わらず滞りなく終わって、瞬く間にお昼休憩に入る。

「和凜はいるか?」

 絆那さん、だ……。

 未だに“突き放せ”の意味は分からなくて、でも変に思われないように戸惑う心を隠す。

「お、お待たせしました……!」

「大丈夫だ、行くか。」

「はい……っ。」

 絆那さんの顔が見られない。

 私が絆那さんを冷たくあしらえば、絆那さんはどう思うんだろう。

 悲しむ? 呆れる? ……嫌いになる?

 どの可能性もありそうで、先を考えるのが怖い。

「和凜、ぼーっとしてどうした?」

「あ……いえ、何でもありません!」

「そうか? 少し顔色が悪いような気がするが……。」

 屋上、もう着いちゃった……。

 絆那さんの不安な声色で我に返り、慌てて否定する。

 ……実はもう、どうやって絆那さんと距離を取るか考えている。

 嫌だけど、こんなことはしたくないけど……しなきゃ、どうなるか。

 あの会長の目は、本気だった。

 何が会長さんを突き動かしているのか、分からないけど。

 ……逆らうと、もっと酷い状況になる。

「絆那さん。」

「ん? どうした?」

 頑張れ和凜、言わなきゃダメだ。

 そうしないと、絆那さんが……。

『脅しのようなことはあまりしたくなかったが、たてつくようなら俺だって手段は選ばない。』

『無理ならそれで構わない。だがそうすれば、絆那がどうなるか分からないぞ。』

 ……ダメ、だ。早く、言わないと。

 お弁当を持つ手に力を入れて、きゅっときつく唇を結ぶ。

 絆那さん……ごめん、なさい。

「しばらく、私に関わらないでください。」

 言って、しまった。

 絆那さんのほうを見られなくて、強く瞼を閉じる。

 何を、言われちゃうかな。

 嫌いって、失望したって……言われる、かな。

「……和凜。」

 いつもより低く、震えている声。

 どれくらい絆那さんが傷ついているかなんて想像つかなくて、言葉を撤回したくなる。

 でも、ここで揺れちゃダメだ。

「私、よく考えたんです。絆那さんにずっと頼りすぎてて迷惑かけてて……だから、しばらく距離を取りましょう。」

 心臓が、締め付けられるように痛い。息が思うようにできない。

 その空気にいたたまれなくなった私は、ついに立ち上がって踵を返した。

「急にこんなこと、言ってごめんなさい。でもしばらくは、送り迎えもなしにしてください。私に、関わってこないでください……っ。」

 今、絆那さんはどんな顔をしているんだろう。それすらも考える余裕がなくて、頭が回らなくなる。

 絆那さんに嫌われたく、ないのに……っ。

「か、りん……?」

 ごめんなさい、本当にごめんなさい……。

 絆那さんの声が届いてないふりをして、屋上の階段を駆け下りる。

 やっちゃった……私、最低なことしちゃった……っ!

 絆那さんは私に優しくしてくれたのに、全て無下にしてしまった。

 ……これで満足ですか。

 会長さんが何を思って私に指示したのか分からないけど、これでいいんですか?

 これ以上私は、絆那さんを傷つけたくありませんっ……。

「きずな、さんっ……。」

 情けない声を洩らし、階段の影で一人涙を流す。

 いくら拭っても、とめどなく落ちてくる雫は雨のようで。

 ……私の心はそれ以上に、荒れていた。
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