独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。

猫菜こん

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不良さんとの出会い

私の朝の始まり

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「……よしっ、これで完成!」

 平日の朝6時半過ぎ、私は菜箸を片手にキッチンに立っていた。

 ふふ、今日も上手にできた……!

 いつもちょっとだけ失敗する卵焼き、久しぶりに綺麗に焼けたし今日は良いことありそうっ。

 咲城和凜さきしろかりん、中学二年生。今日も今日とて、朝のお弁当作りに精を出しています。

 と言うのも、お父さんは仕事柄朝早くに家を出てしまうし、お母さんは夜遅くまでお仕事をしているから、そんな二人の力になりたくて去年からお弁当作りは私の担当。

 ……本当は、もっと家事を手伝いたい。

 でもきっと二人は「気にしなくていいよ」って、優しく笑うだけだろうなぁ……。

 粗熱を取ったお弁当に蓋をしつつ、やるせなさで目を伏せる。

 ――その時、突然背後からゴン!!と鈍い痛そうな音が響いた。

「っ、いったぁ……うぅっ、ちゃんと前見ておけば良かったわ……いてて……」

 音と共に振り返った私の視界には、扉を開け損ねたのかすりガラスの扉の向こうでうずくまっているお母さんの姿が。

 すぐに近寄って様子を見に行くと、そこには使い古してよれたスーツ姿で額を押さえているお母さんがいた。

「お母さん⁉ 大丈夫⁉ ちょ、ちょっと見せて……!」

 押さえているお母さんの手をよけさせて、まだぼさぼさの髪を上げて見てみる。

 ほっ……よかった、ちょっと赤くなってるだけみたい。

 お母さんの前髪を元に戻しつつ胸を撫で下ろすと、ぎこちない苦笑いが聞こえた。

「ごめんね和凜……朝から心配かけちゃって。お母さん、ドジすぎるわよね……」

「そ、そんな事ないよ! お母さんいつも頑張ってるし、昨日帰ってきたのも遅かったし全然気にしないで!」

 た、確かにおっちょこちょいなところもあるけど、ちゃんと休んで元気なお母さんはこんなドジしないって知っている。

 最近お仕事が大変なのも知ってる。お父さんもこの時期は仕事が立て込んでるらしくて、十分に寝ないまま仕事に行ってしまう。

 だから少しでも二人の力になりたくて、できることは全部やりたい。

 でもやっぱり、二人が体を壊さないか心配になってしまう。

 お父さんもお母さんも責任感が強いから、誰かに頼らずに自分の力でやろうとしてしまう。

 少しは休んでも文句なんて言われないと思うのに……。

 なんて考えながら手を差し出すと、お母さんは隈が取れ切ってない目を少し細めた。

「ふふ、ありがとう和凜。やっぱり和凜は優しいわね。」

「……そうかな。」

「そうよ。優しい和凜がいてくれて、お母さん幸せなの。あっ、もちろんお父さんも優しくて素敵だけどねっ。」

「そっか。じゃあ私、お母さんの為にもずーっと元気でいなきゃだね!」

 お母さんを立たせてから両手に拳を作り、私も笑ってみせる。

 私だって、お母さんとお父さんが元気ならそれでいい。それだけでもいいくらいだ。

 ……だからもっと、自分を大事にしてほしいのに。

 思わず口から零れそうになった言葉をぐっと飲み込み、私は「お母さん、朝ご飯できてるから一緒に食べようっ。」と代わりに言ってキッチンに戻った。



「はい、これお弁当! 今日はお母さんの大好きな、ハム入り卵焼き入れてるからね!」

「それならお仕事、今日も頑張らなきゃね。ありがとう、和凜。行ってくるわね。」

「行ってらっしゃい、お母さん!」

 珍しく晴れ渡っている空の下で、先に出勤したお母さんを笑顔で見送る。

 それじゃあそろそろ、私も学校行こうかなっ。

 玄関先に置いていたスクールバッグを取ってきて、戸締りを確認してから家を出る。

 ガス栓も閉じてるし電気も全部消したし……うん、たぶん大丈夫!

 最後に玄関に鍵もかけ、再び快晴を瞳に映しながら一歩足を踏み出した。

 ……――その瞬間だった。

「おい天狼ッ!! 今日こそ先週の落とし前つけてもらうぞ!! ちょこまか逃げやがって!」

「っ!?」

 こ、こんな朝から一体何……っ!?

 家を出た途端どこからともなく飛んできた怒声に、反射的にビクッと肩が揺れる。

 うららかな天気に似合わないさっきの声は、どうやら近くの路地裏のほうからみたいで立て続けにこんな声も聞こえた。

「別に逃げてねーよ。お前らがいつまで経ってもかかってこないのが悪い。」

「天狼貴様……ッ!!」

 いかにも無気力そうな声と、煽られてムキになっている人の声。

 このまま放っておくと喧嘩でも始まりそうなのは私でも分かって、好奇心やら怖いもの見たさで一瞬足がそっち方向に向く。

 ……だけどもし、喧嘩に巻き込まれたら。

 向かった先の事を考えて、進みかけていた足が静かに止まる。

 私は喧嘩なんてできないし護身術も知らない。声からして男の人同士だし、見に行って見つかりでもしたら私がボコボコにされちゃうかも……。

「……やめよう。」

 好奇心に負けないよう言い聞かせ、駆け足気味に学校へ向かう。

 ――でも、この時私はまだ知らなかった。これから先の日常が、もうすでに少しずつ変わっていることに。
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