独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。

猫菜こん

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不良さんとの出会い

巻き込まれ体質

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 ――キーンコーンカーンコーン……

「ふぅ……やっと一日終わり!」

 6限終わりのチャイムと共に前に両腕を伸ばして、うーんと固まった体をほぐす。

 今日は数学と英語の宿題があるから、早く帰って終わらせないと……!

 理系教科が苦手な私は数学の宿題を終わらせるのにいつも時間がかかるほうで、急いでスクールバッグに必要な教材を詰めていく。

 そうしていると、何故か申し訳なさそうな美月ちゃんが駆け足で私のところまでやってきた。

「美月ちゃん?」

「和凜ほんっとーにごめんなんだけど、あたしこの後病院行かなきゃで……! 送ってってあげれないの!」

「そうだったんだ……それなら、早く行ったほうがいいんじゃないかな? 私のことは全然気にしなくていいからっ。」

「か、和凜の優しさが沁みる……じゃなくって、行く前に和凜に伝えたいことがあって!」

 伝えたいこと……ってどうしたんだろう?

 不思議に感じて首を傾げると、美月ちゃんは勢いよく私の両肩を掴んだ。

「今朝も言ったけど、しばらくは周りに警戒すること! 変な人に声かけられたら無視して、しつこかったら逃げるか大声出して! いい?」

「うん! 肝に銘じておきます!」

「ならよし! それじゃもう行かないとだからまた明日!」

 ぎこちなく頷いた私の顔を覗き込んで安心した様子の美月ちゃんは、相当急いでいるのか駆け足で教室を出て行った。

 すぐに小さくなった背中を見送っていると、相変わらず運動神経いいなぁ……なんて考えてしまう。

 モデルさんみたいに綺麗でたくさんの人に慕われていて、すっごく優しくて。

 あんなに素敵な人がどうして私の友達でいてくれるのか、不思議で仕方ない。

 こ、こんなこと本人には聞けないけどっ……。

 そう一人で苦笑していたその時、不意に背後から声がした。

「咲城さん、今ちょっといいかな?」

「宮萩さん? どうしたの?」

 慌てて振り返ると、そこにはクラスメイトの宮萩みやはぎさんが。

 彼女の手元には【素行報告書】という初めて見るプリントがあって、一瞬はてなが頭に浮かぶ。

 だけど私の視線に気付いた宮萩さんが、「えっとね、」と教えてくれた。

「実はこれのデータ入力のお手伝いをしてほしいんだ。咲城さんは見た事ないかもしれないけど、この学校っていうか……この辺りって治安がちょっと悪めだから、学級委員が月1で報告書を書かなくちゃいけないらしくて。」

「そ、そうなの? 初めて知った……。」

「だよね、わたしも今年学級委員になってから知ったもん。学校内でも時々喧嘩してる人がいるみたいだし……困っちゃうよね、喧嘩っ早い人たちのせいでさ。」

 素行報告書を私に見せながら唇を尖らせる宮萩さんは、はぁと小さくため息を吐く。

「それで、わたし機械音痴っていうかパソコン触った事なくて……咲城さん、去年会計係でデータ入力もしてたからお願いしたいんだ。時間とか大丈夫ならだけど――」

「そういうことなら任せて! 一通りはできるから、ぜひともお手伝いさせてください!」

「ほんと⁉ よかった~! ありがとう咲城さん!」

 パソコンは小学生の時からお父さんに教えてもらっていて、基本的な操作は今でもできる。

 話を聞いてからすぐ頷いてみせると、宮萩さんは安心したように笑ってくれた。



 ……それから、およそ1時間後。

「いや~、本当に助かったよ! やっぱり咲城さんに頼んで正解だった!」

 少しだけオレンジ色に染まりかけている空の下、私は改めてお礼を言われた。

 データ入力だからすぐ終わるかも……なんて考えてたけど、実際そんな簡単にいくものじゃなくて結構な時間を使ってしまった。

「お役に立てたなら何よりだよ。それに私も、宮萩さんのおかげでスムーズにデータ作れたしっ。」

「いやいやわたしなんて何にも……けど本当にありがとう、咲城さん!」

「どういたしまして。……それじゃあ私、こっち方向だからまた明日ね!」

「うん! 気をつけて帰ってね!」

 昇降口を出てから、宮萩さんに手を振って別れる。

 確か宮萩さんの家ってここから徒歩1分なんだよね……近くて羨ましいなぁ。

 私の家までは最低でも20分はかかっちゃうから、一人で帰っていると心細くなる時がある。

 それに……。

『今朝も言ったけど、しばらくは周りに警戒すること! 変な人に声かけられたら無視して、しつこかったら逃げるか大声出して! いい?」

 帰路につきながら美月ちゃんに言われたことを思い出して、きゅっと唇を引き結ぶ。

 もちろん言われた通り知らない人には近付かないし、逃げること優先で動くつもり。

 だけどそう頑張っても……昔から巻き込まれ体質な私には、効果があんまりない。

 幼い時から何故か人に絡まれることが多かった。知らない人に声をかけられたり、喧嘩を止めようとしたら巻き込まれたり……できれば、そんなのはもうごめんだ。

 中学生になってからは環境が変わったからか、そういう厄介事に巻き込まれるのは減って平和な毎日を送れている。

 ……でも、いつどこで何に巻き込まれるか分からないから油断はできない。

 喧嘩には絶対巻き込まれたくないし……!

「……って、早く帰らないと!」

 夜になるのは思ったよりも早いから、悠長に考えごとをしているとすぐ暗くなってしまう。

 もう夕食の時間帯だから何かに巻き込まれないだろうけど、ちょっと急ごう。

 そんなフラグを立てながら、私は気持ち駆け足で家へと向かった。
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