独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。

猫菜こん

文字の大きさ
4 / 30
不良さんとの出会い

救世主の不良さん

しおりを挟む
  ……そんなフラグを立ててしまったからなのか。

「だからぁ、さっき肩が当たったの! 紛れもなく、ガッツリ!」

「アニキの言うことは絶対なんだぞ! さっさと“コレ”出せ!」

 実はさっき、足早に帰っていたからか男の人と肩がぶつかってしまった。

 咄嗟に謝ったんだけど、相手はガラの悪そうな人たちで自身の体質とフラグを恨んでしまう。

「す、すみません! でも、お金はちょっと出せないですっ……!」

 私がぶつかってしまった人をアニキと呼んで慕う男の人が、右手の親指と人差し指で丸を作っている。

 前に見たドラマで彼の動作が何を表しているかはすぐに分かったけど、そもそも手持ちが少ない私は頭を下げるしかない。

 だけどその態度が彼らを機嫌を損ねてしまったらしく、アニキと呼ばれたほうの男の人が私の腕を掴んだ。

「っ、離してください……!」

「まぁまぁちょっと待てや! あんたよく見たら可愛い顔してっし、これからどっか店行かね? それでチャラにしてやるよ。」

 反射的に抗議の声を上げるも、彼には声が届いてないみたいで掴まれた手に力がこもる。

 どうしよう……これじゃ、どうしようもないっ……。

 こういう絡まれ方は初めてされたからどう逃げ出せばいいか分からず、じわっと視界の端が滲み出す。

 私にはこの状況をどうにかする力も、方法もない。

「……っ。」

 せめてもう一度反論しようとするも、喉につっかえて声が出てこない。

 そう、焦った時だった。

「――おい、こんなところで問題起こすな。」

 背後から聞こえたのは、ぶっきらぼうなテノールの声。

 突然のそれにびっくりして反射的に振り返った私は……思わず目を見開いた。

 暗がりの中でもよく分かる、すらりとした長身。

 黒髪の毛先は月明かりに照らされて、銀色にきらめいている。

 そしてこちらを見据える瞳は、まるで夜の空のような藍色で。

 私の通っている学校の制服を程よく着崩している様子から、一目で不良さんなのだと分かった。

 でも何故か……“怖い”とは思わなくて。

「お前、まさか天狼……ッ⁉」

「知ってるんならさっさと行け、ここで暴れんな。」

「ひぃっ……!!」

 私が呆気に取られている間に、凄まれた男の人たちは一目散に去っていく。

 その様子を呆然と眺めていると、私のほうに視線を向けた不良さんが表情そのままに声をかけてきた。

「こんな時間でもああいう奴らはいるから気をつけろよ。」

「は、はいっ! 助けてくださって、ありがとうございます……!」

 彼の注意ではっと我に返り、慌ててお礼を伝える。

 すると一瞬だけ、彼が驚いたように動きを止めた。

 な、何かおかしなこと言ったかな……⁉

 もしかしたら気に障るような態度に見えたのかもしれない……と血の気が引いていって、謝ろうと口を開く。

「お前、名前は?」

 けど不良さんの尋ねた声のほうが早くて、少しだけ戸惑ってしまう。

「さ、咲城和凜です。」

 それでも一応名乗ると、不良さんは満足したように緩く微笑んだ。

 ……っ、ちょっとドキッとしちゃった。

 普段男の人と関わらないせいか心臓が跳ね上がった気がして、右手で軽く抑える。

 しかも不良さん、お顔も整ってるから緊張しちゃってるのかも……。

「えっと、さっきはありがとうございました……! そろそろ失礼します!」

 多分、このまま彼といたら心臓がもたない。

 直感的にそう思った私は、もう一度頭を下げてから帰ろうとする。

「待て、送ってく。」

「へ?」

「最近ここらは治安が悪い。また絡まれでもしたら心配だから、家の近くまで送らせてくれ。」

 だけど、柔らかい彼の声に返した踵を向き直す。

 送っていくって……それは流石に申し訳ない。

 この時間に外にいるってことはきっと学校帰りだろうし、不良さんも早く帰りたいはず。

『まぁまぁちょっと待てや! あんたよく見たら可愛い顔してっし、これからどっか店行かね? それでチャラにしてやるよ。』

 ……でも、彼の言う通りまた絡まれないとも限らない。

 不良さんが助けてくれたのは偶然だし、ここで別れて同じ目に遭ったら振りほどけない。

 それなら、甘えたほうがいいんだろうけど……。

「い、いいんですか?」

 確認の為に恐る恐る彼を見上げ、尋ねてみる。

 そう遠慮がちな私の声に、すぐに不良さんは小さく首を縦に振った。

「遠慮なんかするな。それにまた、ああいう奴らに絡まれたくないだろ?」

「う……それは、もちろん……。」

「なら送らせてくれ。家、どっち方向だ?」

「何から何までありがとうございます……家の方向はこっち、です。」

 図星を突かれて、目を逸らしながら頷く。

 そんな私を見て不良さんはいたずらに口角を上げてから、私の指した方向に歩き出した。

 彼の背を追いかけるように慌てて隣につくと、頭上からぽつりと彼の言葉が降ってくる。

「俺は天狼絆那てんろうきずな。……一応伝えとく。」

 少しの恥じらいが混じったような声で教えられた名前は、彼のような正義感のある人にぴったりの名前で。

 天狼さん、かぁ……。

 口にこそ出さないものの、ずっと繰り返していたいくらい私の心に焼き付いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

【奨励賞】おとぎの店の白雪姫

ゆちば
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 奨励賞】 母親を亡くした小学生、白雪ましろは、おとぎ商店街でレストランを経営する叔父、白雪凛悟(りんごおじさん)に引き取られる。 ぎこちない二人の生活が始まるが、ひょんなことからりんごおじさんのお店――ファミリーレストラン《りんごの木》のお手伝いをすることになったましろ。パティシエ高校生、最速のパート主婦、そしてイケメンだけど料理脳のりんごおじさんと共に、一癖も二癖もあるお客さんをおもてなし! そしてめくるめく日常の中で、ましろはりんごおじさんとの『家族』の形を見出していく――。 小さな白雪姫が『家族』のために奔走する、おいしいほっこり物語。はじまりはじまり! 他のサイトにも掲載しています。 表紙イラストは今市阿寒様です。 絵本児童書大賞で奨励賞をいただきました。

こわモテ男子と激あま婚!? 〜2人を繋ぐ1on1〜

おうぎまちこ(あきたこまち)
児童書・童話
 お母さんを失くし、ひとりぼっちになってしまったワケアリ女子高生の百合(ゆり)。  とある事情で百合が一緒に住むことになったのは、学校で一番人気、百合の推しに似ているんだけど偉そうで怖いイケメン・瀬戸先輩だった。  最初は怖くて仕方がなかったけれど、「好きなものは好きでいて良い」って言って励ましてくれたり、困った時には優しいし、「俺から離れるなよ」って、いつも一緒にいてくれる先輩から段々目が離せなくなっていって……。    先輩、毎日バスケをするくせに「バスケが嫌い」だっていうのは、どうして――?    推しによく似た こわモテ不良イケメン御曹司×真面目なワケアリ貧乏女子高生との、大豪邸で繰り広げられる溺愛同居生活開幕! ※じれじれ? ※ヒーローは第2話から登場。 ※5万字前後で完結予定。 ※1日1話更新。 ※noichigoさんに転載。 ※ブザービートからはじまる恋

星降る夜に落ちた子

千東風子
児童書・童話
 あたしは、いらなかった?  ねえ、お父さん、お母さん。  ずっと心で泣いている女の子がいました。  名前は世羅。  いつもいつも弟ばかり。  何か買うのも出かけるのも、弟の言うことを聞いて。  ハイキングなんて、来たくなかった!  世羅が怒りながら歩いていると、急に体が浮きました。足を滑らせたのです。その先は、とても急な坂。  世羅は滑るように落ち、気を失いました。  そして、目が覚めたらそこは。  住んでいた所とはまるで違う、見知らぬ世界だったのです。  気が強いけれど寂しがり屋の女の子と、ワケ有りでいつも諦めることに慣れてしまった綺麗な男の子。  二人がお互いの心に寄り添い、成長するお話です。  全年齢ですが、けがをしたり、命を狙われたりする描写と「死」の表現があります。  苦手な方は回れ右をお願いいたします。  よろしくお願いいたします。  私が子どもの頃から温めてきたお話のひとつで、小説家になろうの冬の童話際2022に参加した作品です。  石河 翠さまが開催されている個人アワード『石河翠プレゼンツ勝手に冬童話大賞2022』で大賞をいただきまして、イラストはその副賞に相内 充希さまよりいただいたファンアートです。ありがとうございます(^-^)!  こちらは他サイトにも掲載しています。

【完結】またたく星空の下

mazecco
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 君とのきずな児童書賞 受賞作】 ※こちらはweb版(改稿前)です※ ※書籍版は『初恋×星空シンバル』と改題し、web版を大幅に改稿したものです※ ◇◇◇冴えない中学一年生の女の子の、部活×恋愛の青春物語◇◇◇ 主人公、海茅は、フルート志望で吹奏楽部に入部したのに、オーディションに落ちてパーカッションになってしまった。しかもコンクールでは地味なシンバルを担当することに。 クラスには馴染めないし、中学生活が全然楽しくない。 そんな中、海茅は一人の女性と一人の男の子と出会う。 シンバルと、絵が好きな男の子に恋に落ちる、小さなキュンとキュッが詰まった物語。

運よく生まれ変われたので、今度は思いっきり身体を動かします!

克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞」重度の心臓病のため、生まれてからずっと病院のベッドから動けなかった少年が12歳で亡くなりました。両親と両祖父母は毎日のように妾(氏神)に奇跡を願いましたが、叶えてあげられませんでした。神々の定めで、現世では奇跡を起こせなかったのです。ですが、記憶を残したまま転生させる事はできました。ほんの少しだけですが、運動が苦にならない健康な身体と神与スキルをおまけに付けてあげました。(氏神談)

クールな幼なじみの許嫁になったら、甘い溺愛がはじまりました

藤永ゆいか
児童書・童話
中学2年生になったある日、澄野星奈に許嫁がいることが判明する。 相手は、頭が良くて運動神経抜群のイケメン御曹司で、訳あって現在絶交中の幼なじみ・一之瀬陽向。 さらに、週末限定で星奈は陽向とふたり暮らしをすることになって!? 「俺と許嫁だってこと、絶対誰にも言うなよ」 星奈には、いつも冷たくてそっけない陽向だったが……。 「星奈ちゃんって、ほんと可愛いよね」 「僕、せーちゃんの彼氏に立候補しても良い?」 ある時から星奈は、バスケ部エースの水上虹輝や 帰国子女の秋川想良に甘く迫られるようになり、徐々に陽向にも変化が……? 「星奈は可愛いんだから、もっと自覚しろよ」 「お前のこと、誰にも渡したくない」 クールな幼なじみとの、逆ハーラブストーリー。

「いっすん坊」てなんなんだ

こいちろう
児童書・童話
 ヨシキは中学一年生。毎年お盆は瀬戸内海の小さな島に帰省する。去年は帰れなかったから二年ぶりだ。石段を上った崖の上にお寺があって、書院の裏は狭い瀬戸を見下ろす絶壁だ。その崖にあった小さなセミ穴にいとこのユキちゃんと一緒に吸い込まれた。長い長い穴の底。そこにいたのがいっすん坊だ。ずっとこの島の歴史と、生きてきた全ての人の過去を記録しているという。ユキちゃんは神様だと信じているが、どうもうさんくさいやつだ。するといっすん坊が、「それなら、おまえの振り返りたい過去を三つだけ、再現してみせてやろう」という。  自分の過去の振り返りから、両親への愛を再認識するヨシキ・・・           

処理中です...