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不良さんとの出会い
救世主の不良さん
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……そんなフラグを立ててしまったからなのか。
「だからぁ、さっき肩が当たったの! 紛れもなく、ガッツリ!」
「アニキの言うことは絶対なんだぞ! さっさと“コレ”出せ!」
実はさっき、足早に帰っていたからか男の人と肩がぶつかってしまった。
咄嗟に謝ったんだけど、相手はガラの悪そうな人たちで自身の体質とフラグを恨んでしまう。
「す、すみません! でも、お金はちょっと出せないですっ……!」
私がぶつかってしまった人をアニキと呼んで慕う男の人が、右手の親指と人差し指で丸を作っている。
前に見たドラマで彼の動作が何を表しているかはすぐに分かったけど、そもそも手持ちが少ない私は頭を下げるしかない。
だけどその態度が彼らを機嫌を損ねてしまったらしく、アニキと呼ばれたほうの男の人が私の腕を掴んだ。
「っ、離してください……!」
「まぁまぁちょっと待てや! あんたよく見たら可愛い顔してっし、これからどっか店行かね? それでチャラにしてやるよ。」
反射的に抗議の声を上げるも、彼には声が届いてないみたいで掴まれた手に力がこもる。
どうしよう……これじゃ、どうしようもないっ……。
こういう絡まれ方は初めてされたからどう逃げ出せばいいか分からず、じわっと視界の端が滲み出す。
私にはこの状況をどうにかする力も、方法もない。
「……っ。」
せめてもう一度反論しようとするも、喉につっかえて声が出てこない。
そう、焦った時だった。
「――おい、こんなところで問題起こすな。」
背後から聞こえたのは、ぶっきらぼうなテノールの声。
突然のそれにびっくりして反射的に振り返った私は……思わず目を見開いた。
暗がりの中でもよく分かる、すらりとした長身。
黒髪の毛先は月明かりに照らされて、銀色にきらめいている。
そしてこちらを見据える瞳は、まるで夜の空のような藍色で。
私の通っている学校の制服を程よく着崩している様子から、一目で不良さんなのだと分かった。
でも何故か……“怖い”とは思わなくて。
「お前、まさか天狼……ッ⁉」
「知ってるんならさっさと行け、ここで暴れんな。」
「ひぃっ……!!」
私が呆気に取られている間に、凄まれた男の人たちは一目散に去っていく。
その様子を呆然と眺めていると、私のほうに視線を向けた不良さんが表情そのままに声をかけてきた。
「こんな時間でもああいう奴らはいるから気をつけろよ。」
「は、はいっ! 助けてくださって、ありがとうございます……!」
彼の注意ではっと我に返り、慌ててお礼を伝える。
すると一瞬だけ、彼が驚いたように動きを止めた。
な、何かおかしなこと言ったかな……⁉
もしかしたら気に障るような態度に見えたのかもしれない……と血の気が引いていって、謝ろうと口を開く。
「お前、名前は?」
けど不良さんの尋ねた声のほうが早くて、少しだけ戸惑ってしまう。
「さ、咲城和凜です。」
それでも一応名乗ると、不良さんは満足したように緩く微笑んだ。
……っ、ちょっとドキッとしちゃった。
普段男の人と関わらないせいか心臓が跳ね上がった気がして、右手で軽く抑える。
しかも不良さん、お顔も整ってるから緊張しちゃってるのかも……。
「えっと、さっきはありがとうございました……! そろそろ失礼します!」
多分、このまま彼といたら心臓がもたない。
直感的にそう思った私は、もう一度頭を下げてから帰ろうとする。
「待て、送ってく。」
「へ?」
「最近ここらは治安が悪い。また絡まれでもしたら心配だから、家の近くまで送らせてくれ。」
だけど、柔らかい彼の声に返した踵を向き直す。
送っていくって……それは流石に申し訳ない。
この時間に外にいるってことはきっと学校帰りだろうし、不良さんも早く帰りたいはず。
『まぁまぁちょっと待てや! あんたよく見たら可愛い顔してっし、これからどっか店行かね? それでチャラにしてやるよ。』
……でも、彼の言う通りまた絡まれないとも限らない。
不良さんが助けてくれたのは偶然だし、ここで別れて同じ目に遭ったら振りほどけない。
それなら、甘えたほうがいいんだろうけど……。
「い、いいんですか?」
確認の為に恐る恐る彼を見上げ、尋ねてみる。
そう遠慮がちな私の声に、すぐに不良さんは小さく首を縦に振った。
「遠慮なんかするな。それにまた、ああいう奴らに絡まれたくないだろ?」
「う……それは、もちろん……。」
「なら送らせてくれ。家、どっち方向だ?」
「何から何までありがとうございます……家の方向はこっち、です。」
図星を突かれて、目を逸らしながら頷く。
そんな私を見て不良さんはいたずらに口角を上げてから、私の指した方向に歩き出した。
彼の背を追いかけるように慌てて隣につくと、頭上からぽつりと彼の言葉が降ってくる。
「俺は天狼絆那。……一応伝えとく。」
少しの恥じらいが混じったような声で教えられた名前は、彼のような正義感のある人にぴったりの名前で。
天狼さん、かぁ……。
口にこそ出さないものの、ずっと繰り返していたいくらい私の心に焼き付いた。
「だからぁ、さっき肩が当たったの! 紛れもなく、ガッツリ!」
「アニキの言うことは絶対なんだぞ! さっさと“コレ”出せ!」
実はさっき、足早に帰っていたからか男の人と肩がぶつかってしまった。
咄嗟に謝ったんだけど、相手はガラの悪そうな人たちで自身の体質とフラグを恨んでしまう。
「す、すみません! でも、お金はちょっと出せないですっ……!」
私がぶつかってしまった人をアニキと呼んで慕う男の人が、右手の親指と人差し指で丸を作っている。
前に見たドラマで彼の動作が何を表しているかはすぐに分かったけど、そもそも手持ちが少ない私は頭を下げるしかない。
だけどその態度が彼らを機嫌を損ねてしまったらしく、アニキと呼ばれたほうの男の人が私の腕を掴んだ。
「っ、離してください……!」
「まぁまぁちょっと待てや! あんたよく見たら可愛い顔してっし、これからどっか店行かね? それでチャラにしてやるよ。」
反射的に抗議の声を上げるも、彼には声が届いてないみたいで掴まれた手に力がこもる。
どうしよう……これじゃ、どうしようもないっ……。
こういう絡まれ方は初めてされたからどう逃げ出せばいいか分からず、じわっと視界の端が滲み出す。
私にはこの状況をどうにかする力も、方法もない。
「……っ。」
せめてもう一度反論しようとするも、喉につっかえて声が出てこない。
そう、焦った時だった。
「――おい、こんなところで問題起こすな。」
背後から聞こえたのは、ぶっきらぼうなテノールの声。
突然のそれにびっくりして反射的に振り返った私は……思わず目を見開いた。
暗がりの中でもよく分かる、すらりとした長身。
黒髪の毛先は月明かりに照らされて、銀色にきらめいている。
そしてこちらを見据える瞳は、まるで夜の空のような藍色で。
私の通っている学校の制服を程よく着崩している様子から、一目で不良さんなのだと分かった。
でも何故か……“怖い”とは思わなくて。
「お前、まさか天狼……ッ⁉」
「知ってるんならさっさと行け、ここで暴れんな。」
「ひぃっ……!!」
私が呆気に取られている間に、凄まれた男の人たちは一目散に去っていく。
その様子を呆然と眺めていると、私のほうに視線を向けた不良さんが表情そのままに声をかけてきた。
「こんな時間でもああいう奴らはいるから気をつけろよ。」
「は、はいっ! 助けてくださって、ありがとうございます……!」
彼の注意ではっと我に返り、慌ててお礼を伝える。
すると一瞬だけ、彼が驚いたように動きを止めた。
な、何かおかしなこと言ったかな……⁉
もしかしたら気に障るような態度に見えたのかもしれない……と血の気が引いていって、謝ろうと口を開く。
「お前、名前は?」
けど不良さんの尋ねた声のほうが早くて、少しだけ戸惑ってしまう。
「さ、咲城和凜です。」
それでも一応名乗ると、不良さんは満足したように緩く微笑んだ。
……っ、ちょっとドキッとしちゃった。
普段男の人と関わらないせいか心臓が跳ね上がった気がして、右手で軽く抑える。
しかも不良さん、お顔も整ってるから緊張しちゃってるのかも……。
「えっと、さっきはありがとうございました……! そろそろ失礼します!」
多分、このまま彼といたら心臓がもたない。
直感的にそう思った私は、もう一度頭を下げてから帰ろうとする。
「待て、送ってく。」
「へ?」
「最近ここらは治安が悪い。また絡まれでもしたら心配だから、家の近くまで送らせてくれ。」
だけど、柔らかい彼の声に返した踵を向き直す。
送っていくって……それは流石に申し訳ない。
この時間に外にいるってことはきっと学校帰りだろうし、不良さんも早く帰りたいはず。
『まぁまぁちょっと待てや! あんたよく見たら可愛い顔してっし、これからどっか店行かね? それでチャラにしてやるよ。』
……でも、彼の言う通りまた絡まれないとも限らない。
不良さんが助けてくれたのは偶然だし、ここで別れて同じ目に遭ったら振りほどけない。
それなら、甘えたほうがいいんだろうけど……。
「い、いいんですか?」
確認の為に恐る恐る彼を見上げ、尋ねてみる。
そう遠慮がちな私の声に、すぐに不良さんは小さく首を縦に振った。
「遠慮なんかするな。それにまた、ああいう奴らに絡まれたくないだろ?」
「う……それは、もちろん……。」
「なら送らせてくれ。家、どっち方向だ?」
「何から何までありがとうございます……家の方向はこっち、です。」
図星を突かれて、目を逸らしながら頷く。
そんな私を見て不良さんはいたずらに口角を上げてから、私の指した方向に歩き出した。
彼の背を追いかけるように慌てて隣につくと、頭上からぽつりと彼の言葉が降ってくる。
「俺は天狼絆那。……一応伝えとく。」
少しの恥じらいが混じったような声で教えられた名前は、彼のような正義感のある人にぴったりの名前で。
天狼さん、かぁ……。
口にこそ出さないものの、ずっと繰り返していたいくらい私の心に焼き付いた。
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