独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。

猫菜こん

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不良に見初められた少女

気に入られた少女

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 天狼さんに腕を引かれ、お昼の賑やかな廊下を歩く。

 これはどこに連れていかれてるんだろう……そんな一抹の不安を抱きながら、天狼さんを後ろから見上げる。

 私より随分大きい背丈に、倍以上のがっしりした手。今日も着崩している制服が天狼さんにはとっても似合っていて、終始ドキドキしてしまう。

 その間、周りからはすごく注目を浴びた。

「ねぇねぇっ、天狼様いるんだけど……⁉ やっぱりめっちゃイケメン……。」

「眼福~、尊い~……ってか、一緒にいるのって咲城和凜ちゃんじゃない?」

「あ、ほんとだ……! あの二人が一緒なのって初めて見たけど、美男美女だから絵になってる~っ!」

 うぅっ、やっぱり私にも矛先は向いてくるよねっ……。

 それもそのはず。私の手を握っている天狼さんは、誰の目から見てもすごくかっこいい人だから。

 きっと『どうしてあんな平凡女が』って思われてるに違いない。

 ごめんなさいっ、こんな平凡女子が天狼さんの隣にいてっ……。

 声を出す事ができない代わりに、胸中で誠心誠意謝る。

 けどそんな私と違って、天狼さんはまるで聞こえていないかのように涼しい顔をしていた。

 すごいなぁ天狼さん。私だったら恥ずかしすぎて歩けないっ……!

 廊下を過ぎる数分、私はなるべく周りを見ないように下を向いていた。



 ……あれ? この場所って……。

 天狼さんに連れられてきたとある場所に、私は呆気に取られてしまった。

 ガチャンと、背後で扉が閉まる音が響く。おそらく天狼さんが閉めたんだろう。

「て、天狼さん……」

「どうした?」

「屋上って、立ち入り禁止じゃないんですかっ?」

 疑問を口にせずにはいられなくて、率直に尋ねてみる。

 屋上は確か鍵がかかっていて、普通はこんなにすんなり入れない。

 ありえないと開いた口が塞がらない私に、天狼さんは気にしない様子で口にした。

「教師から借りてきた……というか、教師のほうから鍵を渡されたんだ。」

「そ、そうなんですね……。」

 先生から鍵を渡されるなんて、どういう事だろう……あはは。そんなあっさりな事、あるのかなぁ。

 気を緩めたら『まさか』と言ってしまいそうで、苦笑いが零れる。

 ……というか、天狼さんはどうして私をここに連れてきたんだろう? 私に何か用事があるから、連れてきたんだよね? やっぱり昨日の事かなぁ……。

 立ったままあれこれと憶測を立てて、うーんと考え込む。

 そうしている私を不意に、天狼さんが手招きで呼んだ。

「和凜、こっち来い。」

「は、はい……。」

 とりあえず、言われた通り天狼さんが座っているベンチに私も腰掛ける。

 そういえば……さっきは何が何だか状況が飲み込めなくてスルーしちゃってたけど、天狼さん私のこと呼び捨てで呼んでる、よね?

 その事に気付いた瞬間、ボンっと煙が上がりそうなほど顔に熱が集まる。

 男の人からの呼び捨てなんてお父さん以外じゃ初めてで、つい緊張してしまう。

 ど、ドキドキするっ……。

 天狼さんから少し距離を取って、高鳴る心臓を必死に抑えようとする。

 そんな中、天狼さんが少し遠慮がちに口にした。

「いきなり連れてきて、悪かった。」

「い、いえっ……それは全然大丈夫です! でも、どうして私を……?」

 本当に申し訳なさそうに眉の端を下げる天狼さんに、慌てて首を横に振る。

 確かに急に呼ばれたのは驚いたけど、ただそれだけ。天狼さんに何か言うつもりなんてないし、きっと理由があるはず。

 だからまっすぐ疑問を言葉にすると、天狼さんは少しだけ目を伏せた。

「――和凜、お前のことが気になって仕方ないんだ。だから、ここに連れてきた。」

「えっ……?」

 気になって……って、一体どういう……。

 口元に手を当て素っ頓狂な声を漏らした私に、天狼さんは熱のこもった瞳を向ける。

 その瞳にからかいやいたずらの色はなく、見ているとドキドキして息ができなくなりそう。

「突然こんな事を言われても困ると思う。だが俺は……お前のことばかりを考えてしまっているんだ。考えないようにしていても頭から離れなくて、お前にもう一度会いたくて仕方なかった。」

「っ……。」

 申し訳そうで、でも真剣な藍色の目。彼に見つめられ、大きく心臓が跳ねる。

 ……こんなのまるで、告白みたいだ。

 そう思ってしまえば彼のことを意識してしまうのは必然で、咄嗟に目を逸らしてしまう。

 そんな私に天狼さんは優しい声色のまま、こう続けた。

「誰かにこんな、くすぐったい気持ちを抱くのは初めてで何も分かっていないんだが……俺はおそらく、和凜に惚れている。」

「へっ⁉」

「俺はこれを、恋と呼びたい。だから和凜、いきなり恋人になってくれとは言わない。友達として、これから和凜のことを知っていきたい。……いいか?」

 さっきとは打って変わり、下手に出た天狼さんはまるで子犬のよう。

 か、可愛いっ……。

 流石に口には出さないけど、そうにしか見えなくてうっと言葉に詰まる。

 惚れてる、なんて言われた瞬間は驚いちゃったけど……天狼さんなりに、距離を考えてくれてるんだよね。

 不器用さが垣間見える彼の気遣いを感じて、私は小さく頷いた。

「と、友達からなら……私も、ぜひそうしたいです!」

「本当か?」

「はいっ! 私も天狼さんのこと、たくさん知っていきたいです!」

「……っ、ありがとう和凜。」

 私の返事に、嬉しそうに目を見開く天狼さん。

 その姿はやっぱり人懐っこいわんちゃんにしか見えなくて、ないはずの尻尾まで見えてきそうだ。

 だけど、こんな素敵な人が私に惚れてるだなんて……ゆ、夢でも見てるのかなっ。

 そう思ってしまい、こっそりほっぺたを引っ張ってみる。

 でも少しひりひりしただけで、これは紛れもなく現実なんだと思わされた。
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