独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。

猫菜こん

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不良に見初められた少女

お弁当の約束

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「そういえば、昼はいつも香椎と過ごしているのか?」

「はい! 美月ちゃんとはずっと仲良しで、いつでも一緒にいます!」

 お話が一段落したところで、思い出したように天狼さんが呟く。

 それに意気揚々と言葉を返すと、天狼さんは切なく目を細めた。

「……なら、悪い事をしたな。すまない、教室まで送っていく。」

「あっ、天狼さん待ってください!」

 私をほぼ強制的に連れてきたことを気にしているのか、ベンチから立ち上がった天狼さん。

 だけど私はその背中に慌てて声をかけ、同じように立ち上がった。

 そして引き留めるように、天狼さんの制服の裾をちょんと引っ張る。

「わ、私っ、せっかくなのでもっと天狼さんと一緒にいたいです……! 美月ちゃんにはさっきメッセージを送っておいたので……天狼さんがよければ、もう少しお話しませんかっ?」

 緊張しているのか、声が上ずって震えている。

 ……って、言っても困らせちゃうだけかな。

 天狼さんだってお昼食べてないだろうし、お言葉に甘えたほうがいいはず。

 頭ではそう分かっているけど、これもきっと何かの縁だしっ……。

「……和凜がそう言ってくれるなら、俺もまだ一緒にいさせてくれ。」

 言いながら恥ずかしくなってしまい、目を伏せると頭上から柔らかい声が降ってくる。

 い、いいのっ?

 反射的に顔を上げると、ちょうど私を見下ろしていた天狼さんと目が合う。

 それにまたドキッとしてしまったけど、すぐに我に返ってお礼を伝えた。

「あ、ありがとうございます……!」

 えへへ、嬉しいなっ……。

 私のわがままを聞いて座り直してくれた天狼さんを眺めながら、ついニコニコしてしまう。

 だけどその時、天狼さんの手元に何にもないことに気が付いた。

「あの、天狼さん……今日もしかして、学食で食べる予定でしたか……?」

 一応私はお弁当を持っているけど、天狼さんはお弁当どころかパンひとつも持っていない。

 そ、そういえば天狼さんも“少し”って言ってたし、友達を待たせているのかもしれない。

 なら悪いことしちゃったかもっ……。

 でも焦る私の元に届いた言葉は、耳を疑うようなものだった。

「いや、いつも昼は食べていないんだ。」

「えっ⁉」

 食べてないだなんて、そんなのダメですよ……!

 どうしてもそう言いたくなってしまい、私はたまらずお弁当を開けた。

「お昼はちゃんと食べてくださいっ! じゃないと……し、死んじゃいます!」

 卵焼きをお箸に挟んで、ずいっと天狼さんに差し出す。

 これだけでお腹は満たされないと思うけど、何も食べないよりはいいはず。

 けど天狼さんは小さく首を左右に振って、薄く笑ってみせた。

「いいんだ和凜、気にしないでくれ。」

「天狼さんがよくても私がよくないんです……! 一口でもいいので食べてください!」

 ご飯は大事だから、ちゃんと食べてほしい。

 たまにお母さんたちも夕飯を抜くことがあるけど、その翌日はいつになくしんどそうだった。天狼さんにはそうなってほしくない。

 それに天狼さんはまだ育ち盛りの中学生。それならより栄養をとったほうがいい。

 むっと頬を膨らませて卵焼きを近付けると、分かってくれたのか苦笑した天狼さん。

「意外にも押し強いんだな。分かった、和凜の頼みだ。」

「本当ですか⁉ じゃあ――」

「いただきます。……ん、うま。」

 そしてそのまま、天狼さんは私の腕を軽く掴んで引き寄せ……ぱくっと卵焼きを食べた。

 へっ⁉と驚く暇もなく離された手に、ぽけーっとしばし放心してしまう。

 今の……こ、恋人同士がすることみたい、だった……よね?

 それに気付いてしまい、ぼっと顔から火が出そうなくらい熱くなる。

 わ、私ったら……!

「和凜。」

「は、はい……」

「さっきの、和凜が作ったのか? めちゃくちゃ美味かった。」

「ふぇっ? ……そ、それなら良かったです!」

 恥ずかしさに襲われながら顔の火照りを冷ましていると、天狼さんが間髪入れずに嬉しいことを言ってくれる。

 うぅっ、どんな顔すればいいか分かんないよっ……!

 天狼さんから視線を逸らし、軽く自分の頬を叩く。

 そしてその恥ずかしさからも目を逸らすために、私はこんな提案を口にした。

「天狼さんっ……もしよかったらなんですけど、これからは天狼さんの分のお弁当を作って持ってきてもいいですか⁉ ご飯、ちゃんと食べたほうがいいので……っ!」

 天狼さんの顔が見られないまま、大きな声でお願いしてみる。

 無理にとは言わないけど、食べたほうがいいのは事実だし……。断られちゃうかもしれないけど。

 身を縮こまらせながら、何を言われるかなと少し怯えて言葉を待つ。

 そんな私に対して天狼さんは、予想よりも遥かに嬉しそうな声を漏らした。

「いいのか……? そんなこと、頼んでも……いや、嬉しくないわけじゃないんだが、和凜の負担にならないか?」

 たどたどしい口調で、不安そうな表情のまま天狼さんは尋ねてくる。

 だから私は天狼さんの不安を打ち消すように、大きく首を縦に動かした。
 
「む、むしろさせてください! 私がやりたくて提案したことですし、天狼さんさえよければ……!」

 ただの自己満足かもしれないけど、天狼さんがご飯を食べてくれるのなら何でもいい。

 助けてもらった時のお礼もしたかったし、我ながらとってもいい案だと思う。

 天狼さんの表情はやっぱり心配を拭いきれていないもので、しきりに私を案じてくれているみたいだ。

 でもじーっと長く期待を込めた眼差しで見つめていると、ふっとほっとしたように口元を緩めた。

「じゃあ、頼んでもいいか?」

「はい! ありがとうございます……!」

 私もつられて笑顔を浮かべて、ひときわ大きく頷く。

 今日の帰り、早速天狼さん用のお弁当箱を探しに行こうっと……!
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