41 / 48
Ω先輩の章
返したい
しおりを挟むそういえば、関係ない話してて忘れそうだったけど、一仁に服を返すんだった。僕は着ていたカーディガンを脱いで、軽くたたんで一仁に返した。
「あのさ一仁、もう大丈夫だからこれ返す。貸してくれてありがとう。」
でも、一仁は受け取ってくれなかった。
「なんで?」
「教室の温度は大丈夫だったし。……それにこれ、一仁のだし。」
「唯ちょっと震えてない? 僕は必要ないから、唯がずっと持ってていいよ。」
「いや、これは寒いんじゃなくて、ちょっと視線が気になったっていうか、思い出しちゃっただけだから。寒い訳じゃないから、これ返すよ。」
そういうと、一仁は少し考えはじめた。気遣ってくれるのは嬉しいけど、これを持っている方が良くないから、出来れば返したい。
「それにはちょっとした力があって。他のαから話しかけられないようにする効果があるんだ。さっきの話を掘り返すようで悪いんだけど、唯は多くの人から見られてたらしいけど、ほとんど誰も話しかけて来なかったでしょ? 唯は可愛いのに。だから、ずっと唯に着てて欲しい。」
真面目な顔で一仁が言った。
αから話しかけられないようにする力がある?
「これが?」
僕はそんなこと信じられないというふうにカーディガンを見た。でも確かにたくさんの人に見られてたけど、誰も話しかけてこなかった。でも普通知らない人に話しかけないし、このカーディガンは関係ないんじゃ。流石に一仁が嘘ついてると思う。あれ、そういえば人の視線がいっぱいなのは気になったけど、いつものαの嫌な感じは分からなかった。やっぱりこれのおかげ……?
「う~ん……」
「そんなに嫌なの?」
一仁がちょっと悲しそうに聞いてきた。いけない。僕、一仁が嫌だからこれ返そうとしてるみたいになってる? まずい、ちゃんと理由を言わないと。あーでも、ちょっと恥ずかしいから言えないし。えっと、えっとー、
「あ、違くて。えっと、これ着てるとちょっと集中出来ないっていうか。」
「どういうこと?」
まだ一仁の顔は晴れない。もっとちゃんと言わないと。言えないところは言わないけど、一仁の誤解を晴らせるように。
「このカーディガンから、すごい一仁の匂いがして。嫌なんじゃないよ! ただ、一仁の匂いするなーって思ってたら、授業に集中出来なくて……」
ここまで言うと、一仁は笑顔になった。
「なら問題ないね。放課後までずっと着てて。」
誤解を解くことには成功したけど、カーディガンは返せなくなった。一仁に嫌な気持ちになって欲しくないけど、僕は何がなんでもこれを手放さなくちゃいけないんだ。何か他に理由は、
「でも、、」
「教室でも着ててね。ちゃんと着てるかどうかは分かるから。」
言われて僕はギクッとして、すぐに一仁から目を逸らした。分かるわけないと思って、途中で脱いでたけど、もしかしてバレてるのかな。そう思って恐る恐る一仁を見た。でも、こういう時ってだいたいバレてるよなー。
「昼前も脱いでたでしょ。」
やっぱり。でも、どうにかしないと午後も着ることになって、また璃来くんにからかわれる。
「えーと、どうだったかなぁ……。あ、でも、一仁が僕を見てくれてるなら、これいらないんじゃ。」
「そうかもしれないけど、着ててね。」
「えっと……」
結局カーディガンは返せなかった。僕が弱いばっかりに。でも、確かにこれを着ていたからか、震えもすぐに止まって、午後は普通に授業を受けることが出来た。
48
あなたにおすすめの小説
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
全8話
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
僕の番
結城れい
BL
白石湊(しらいし みなと)は、大学生のΩだ。αの番がいて同棲までしている。最近湊は、番である森颯真(もり そうま)の衣服を集めることがやめられない。気づかれないように少しずつ集めていくが――
※他サイトにも掲載
隣の番は、俺だけを見ている
雪兎
BL
Ωである高校生の湊(みなと)は、幼いころから体が弱く、友人も少ない。そんな湊の隣に住んでいるのは、幼馴染で幼少期から湊に執着してきたαの律(りつ)。律は湊の護衛のように常にそばにいて、彼に近づく人間を片っ端から遠ざけてしまう。
ある日、湊は学校で軽い発情期の前触れに襲われ、助けてくれたのもやはり律だった。逃れられない幼馴染との関係に戸惑う湊だが、律は静かに囁く。「もう、俺からは逃げられない」――。
執着愛が静かに絡みつく、オメガバース・あまあま系BL。
【キャラクター設定】
■主人公(受け)
名前:湊(みなと)
属性:Ω(オメガ)
年齢:17歳
性格:引っ込み思案でおとなしいが、内面は芯が強い。幼少期から体が弱く、他人に頼ることが多かったため、律に守られるのが当たり前になっている。
特徴:小柄で華奢。淡い茶髪で色白。表情はおだやかだが、感情が表に出やすい。
■相手(攻め)
名前:律(りつ)
属性:α(アルファ)
年齢:18歳
性格:独占欲が非常に強く、湊に対してのみ甘く、他人には冷たい。基本的に無表情だが、湊のこととなると感情的になる。
特徴:長身で整った顔立ち。黒髪でクールな雰囲気。幼少期に湊を助けたことをきっかけに執着心が芽生え、彼を「俺の番」と心に決めている。
箱入りオメガの受難
おもちDX
BL
社会人の瑠璃は突然の発情期を知らないアルファの男と過ごしてしまう。記憶にないが瑠璃は大学生の地味系男子、琥珀と致してしまったらしい。
元の生活に戻ろうとするも、琥珀はストーカーのように付きまといだし、なぜか瑠璃はだんだん絆されていってしまう。
ある日瑠璃は、発情期を見知らぬイケメンと過ごす夢を見て混乱に陥る。これはあの日の記憶?知らない相手は誰?
不器用なアルファとオメガのドタバタ勘違いラブストーリー。
現代オメガバース ※R要素は限りなく薄いです。
この作品は『KADOKAWA×pixiv ノベル大賞2024』の「BL部門」お題イラストから着想し、創作したものです。ありがたいことに、グローバルコミック賞をいただきました。
https://www.pixiv.net/novel/contest/kadokawapixivnovel24
「出来損ない」オメガと幼馴染の王弟アルファの、発情初夜
鳥羽ミワ
BL
ウィリアムは王族の傍系に当たる貴族の長男で、オメガ。発情期が二十歳を過ぎても来ないことから、家族からは「欠陥品」の烙印を押されている。
そんなウィリアムは、政略結婚の駒として国内の有力貴族へ嫁ぐことが決まっていた。しかしその予定が一転し、幼馴染で王弟であるセドリックとの結婚が決まる。
あれよあれよと結婚式当日になり、戸惑いながらも結婚を誓うウィリアムに、セドリックは優しいキスをして……。
そして迎えた初夜。わけもわからず悲しくなって泣くウィリアムを、セドリックはたくましい力で抱きしめる。
「お前がずっと、好きだ」
甘い言葉に、これまで熱を知らなかったウィリアムの身体が潤み、火照りはじめる。
※ムーンライトノベルズ、アルファポリス、pixivへ掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる