5 / 5
005 思いの丈を叫んだだけ
しおりを挟む
なんとなく殿下の顔はぼんやりと覚えてる。
キリっとした眉にブロンドの髪。ヒスイの瞳。
色が白く、背も高い。
ただ残念。
もやしとまでは言わないけど、なんか全体的に線が細いのよね。
私の好みじゃないっていうか、正直興味なさ過ぎて顔もなんとなーくしか思い出せないレベル。
どうでもいいことはよく覚えているのに、人の顔と名前を覚えるのは苦手なのよね。
まぁそれはそれとして置いといて。
私が彼女を呼び出した、一番の理由をちゃんと説明しなきゃ。
「噴水につき飛ばしたり、上靴に画びょうを仕込んだり、机に虫を入れてみたり……」
「あなたが全部悪いのよ!」
「そうだとしてもです。全然ダメです!」
「そんなことしていたのか⁉」
私の声と男性の声がかぶる。
私たちはその突然の声に、思わず振り返った。
するとそこにはアザーレ教授とトレス殿下の姿がある。
二人はこの呼び出しに気づいたのか、報告でもあったのか。
息を切らしているところを見ると、急いで駆けつけてきたらしい。
「オルコルト令嬢、何かあれば必ず頼るようにと言っただろう」
「すまない、オレのせいで君を酷い目に合わせてしまったようだ」
二人は心配そうに駆け寄ると、私の隣に立つ。
そしてそのまま目の前のフィリアを非難するように眉をしかめ、険しい表情をしていた。
もう、せっかくの呼び出しが台無しじゃない。
なんでこんなとこで登場するかなぁ。
ちょっと早すぎじゃない?
「いえ、そうではなく」
「いいんだ。身分を盾に言えなかったんだろう?」
甘く囁くような殿下の言葉に、フィリアの顔が真っ赤になっていく。
ああ、そうじゃない。
そうじゃないんだよー。
「殿下がいけないのではないですか! わたくしという婚約者がいながら、他の女にうつつを抜かされるから」
「別にオレと彼女はそんな関係ではない」
「ではどんな関係だと言うのです」
「ただのクラスメイトです」
ハッキリと私が言えば、なぜか全員私の顔を覗き込むように見る。
いやだって、本当のことだし。
「それにお二方も何か勘違いなさっておいでのようですが、私は別にフィリア様がなされたことを非難しようと思ってここに呼び出したわけではありません」
「ではなんだと言うのだ、オルコルト令嬢」
「だって嫌がらせと呼ぶにはレベルが全然足りないんですもの」
「は?」
私の言葉に全員が変な顔をしていたが、私は気にすることなく言葉を続ける。
「だってそうじゃないですか。嫌がらせにしては生ぬるい。生ぬるい以上に、下手したら気づかないレベルですよ? まず。どうせ突き落とすなら池とかじゃなきゃ。噴水とか落ちれないし。あ、しかも季節は冬限定ですね。夏はただの水浴びになっちゃいますから。それに画びょう? 典型的すぎですし、威力激よわで却下です。まぁ、一箱分入ってた時はさすがに笑えましたけど。あと、机に虫? あんなのまったく意味なしです。虫入れるならもっと大量にうじゃうじゃっとするとか、せめて毒虫とか?」
一息に言い切り、まだそれでも足りない私は思いのたけを吐き出す。
「もっとこうインパクトがあって、ああ、これは嫌がらせだーってのにして下さい。食べ物にこっそり毒入れとくとか、トイレで上から水かけるとか。あ、水はその辺でのじゃダメですよ。ドロっとした汚いヤツじゃないと」
「……それをやれと?」
「やれとまでは言いませんが、これくらいしないと意味がないってコトです!」
ふー。
ずっと言いたかったのよね。
やっぱりこのレベルですら、まだまだだって思うけど。
令嬢がやるなら、ここらへんが限界かなって思うのよね。
「人としてそれはやってはいけないレベルではないかしら……」
「そうだな。毒なんて盛ったら普通に捕まるぞ」
「命の危機があったらどうするんだ」
三人共に引いているような気がするのは気のせいかしら。
おかしいなぁ。そこまで過激じゃないと思うんだけど。
「大丈夫です。私、毒耐性ありますし!」
「いやいやいやいや、そういう問題じゃない」
「え、状態異常無効もですよ?」
「……その歳で、どんな生活をしてきたらそんなスキルが身につくんだ」
あれれ。
なんか思ってた反応と違う。
引いている以上になんか、哀れられてるみたいな?
えええ。
なんか思ってた展開と違うぞ。
「嫌がらせレベル越して、殺意あるレベルを強要してどうする」
「えええ、ダメでした?」
だって全体的に物足りなかったんだもん。
憧れのヒロイン役なんだよ?
やっぱり堪能したいじゃない。
それには完璧な悪役令嬢が欲しかったんだけど。なんかみんなの目を見てると、明らかに私の方がレベルおかしいみたいな……。
「えええ、本当にダメでした?」
「みんながドン引きしてるのが見えないのか?」
いや、真面目な顔で教授に言われなくなって分かる。
分かるよ。ドン引きされてることくらい。
でも現実を見たくないんだもん。
これって、これってさぁ。
「もしかしなくても、攻略失敗……」
「何を言っているのか意味は分からないが、嫌がらせのレベルを上げろという人を見たのは初めてだよ」
「わたくしは、なにを相手にしていたのかしら」
やだやだやだやだ。
その目、やだよぅ。
確かにトレス殿下には興味なかったけど、それとこれとは話が別だ。
攻略相手すら分からない状態で、一人目からドン引きされるって、どーなの。
いや、どーする私。
この世界でやっていけるのかな……。
「とにかくだ。職員室まで来るように」
呼び出されたのはフィリアではなく、私であったのは言うまでもない。
ただひたすら倫理と言う名のお説教は、何時間も続いた。
「私の王子様はどこ!!」
「おまえをマトモに扱える奴なんて、いないだろうな……」
「いーやーだー。恋愛したいよぅ」
「諦めるか、その性格を直してからだな」
泣きそうになる私の肩に教授は手を置き、深いため息をついた。
「なんか思ってたんとちがーーーーーーぅ」
そんな私の叫び声など誰も気づかってくれることもなく、前途多難な王子様探しは始まるのだった。
いや、知らんけど。たぶんね。きっとそのはずだ。
と、せめて、私だけはそう思うことにした。
キリっとした眉にブロンドの髪。ヒスイの瞳。
色が白く、背も高い。
ただ残念。
もやしとまでは言わないけど、なんか全体的に線が細いのよね。
私の好みじゃないっていうか、正直興味なさ過ぎて顔もなんとなーくしか思い出せないレベル。
どうでもいいことはよく覚えているのに、人の顔と名前を覚えるのは苦手なのよね。
まぁそれはそれとして置いといて。
私が彼女を呼び出した、一番の理由をちゃんと説明しなきゃ。
「噴水につき飛ばしたり、上靴に画びょうを仕込んだり、机に虫を入れてみたり……」
「あなたが全部悪いのよ!」
「そうだとしてもです。全然ダメです!」
「そんなことしていたのか⁉」
私の声と男性の声がかぶる。
私たちはその突然の声に、思わず振り返った。
するとそこにはアザーレ教授とトレス殿下の姿がある。
二人はこの呼び出しに気づいたのか、報告でもあったのか。
息を切らしているところを見ると、急いで駆けつけてきたらしい。
「オルコルト令嬢、何かあれば必ず頼るようにと言っただろう」
「すまない、オレのせいで君を酷い目に合わせてしまったようだ」
二人は心配そうに駆け寄ると、私の隣に立つ。
そしてそのまま目の前のフィリアを非難するように眉をしかめ、険しい表情をしていた。
もう、せっかくの呼び出しが台無しじゃない。
なんでこんなとこで登場するかなぁ。
ちょっと早すぎじゃない?
「いえ、そうではなく」
「いいんだ。身分を盾に言えなかったんだろう?」
甘く囁くような殿下の言葉に、フィリアの顔が真っ赤になっていく。
ああ、そうじゃない。
そうじゃないんだよー。
「殿下がいけないのではないですか! わたくしという婚約者がいながら、他の女にうつつを抜かされるから」
「別にオレと彼女はそんな関係ではない」
「ではどんな関係だと言うのです」
「ただのクラスメイトです」
ハッキリと私が言えば、なぜか全員私の顔を覗き込むように見る。
いやだって、本当のことだし。
「それにお二方も何か勘違いなさっておいでのようですが、私は別にフィリア様がなされたことを非難しようと思ってここに呼び出したわけではありません」
「ではなんだと言うのだ、オルコルト令嬢」
「だって嫌がらせと呼ぶにはレベルが全然足りないんですもの」
「は?」
私の言葉に全員が変な顔をしていたが、私は気にすることなく言葉を続ける。
「だってそうじゃないですか。嫌がらせにしては生ぬるい。生ぬるい以上に、下手したら気づかないレベルですよ? まず。どうせ突き落とすなら池とかじゃなきゃ。噴水とか落ちれないし。あ、しかも季節は冬限定ですね。夏はただの水浴びになっちゃいますから。それに画びょう? 典型的すぎですし、威力激よわで却下です。まぁ、一箱分入ってた時はさすがに笑えましたけど。あと、机に虫? あんなのまったく意味なしです。虫入れるならもっと大量にうじゃうじゃっとするとか、せめて毒虫とか?」
一息に言い切り、まだそれでも足りない私は思いのたけを吐き出す。
「もっとこうインパクトがあって、ああ、これは嫌がらせだーってのにして下さい。食べ物にこっそり毒入れとくとか、トイレで上から水かけるとか。あ、水はその辺でのじゃダメですよ。ドロっとした汚いヤツじゃないと」
「……それをやれと?」
「やれとまでは言いませんが、これくらいしないと意味がないってコトです!」
ふー。
ずっと言いたかったのよね。
やっぱりこのレベルですら、まだまだだって思うけど。
令嬢がやるなら、ここらへんが限界かなって思うのよね。
「人としてそれはやってはいけないレベルではないかしら……」
「そうだな。毒なんて盛ったら普通に捕まるぞ」
「命の危機があったらどうするんだ」
三人共に引いているような気がするのは気のせいかしら。
おかしいなぁ。そこまで過激じゃないと思うんだけど。
「大丈夫です。私、毒耐性ありますし!」
「いやいやいやいや、そういう問題じゃない」
「え、状態異常無効もですよ?」
「……その歳で、どんな生活をしてきたらそんなスキルが身につくんだ」
あれれ。
なんか思ってた反応と違う。
引いている以上になんか、哀れられてるみたいな?
えええ。
なんか思ってた展開と違うぞ。
「嫌がらせレベル越して、殺意あるレベルを強要してどうする」
「えええ、ダメでした?」
だって全体的に物足りなかったんだもん。
憧れのヒロイン役なんだよ?
やっぱり堪能したいじゃない。
それには完璧な悪役令嬢が欲しかったんだけど。なんかみんなの目を見てると、明らかに私の方がレベルおかしいみたいな……。
「えええ、本当にダメでした?」
「みんながドン引きしてるのが見えないのか?」
いや、真面目な顔で教授に言われなくなって分かる。
分かるよ。ドン引きされてることくらい。
でも現実を見たくないんだもん。
これって、これってさぁ。
「もしかしなくても、攻略失敗……」
「何を言っているのか意味は分からないが、嫌がらせのレベルを上げろという人を見たのは初めてだよ」
「わたくしは、なにを相手にしていたのかしら」
やだやだやだやだ。
その目、やだよぅ。
確かにトレス殿下には興味なかったけど、それとこれとは話が別だ。
攻略相手すら分からない状態で、一人目からドン引きされるって、どーなの。
いや、どーする私。
この世界でやっていけるのかな……。
「とにかくだ。職員室まで来るように」
呼び出されたのはフィリアではなく、私であったのは言うまでもない。
ただひたすら倫理と言う名のお説教は、何時間も続いた。
「私の王子様はどこ!!」
「おまえをマトモに扱える奴なんて、いないだろうな……」
「いーやーだー。恋愛したいよぅ」
「諦めるか、その性格を直してからだな」
泣きそうになる私の肩に教授は手を置き、深いため息をついた。
「なんか思ってたんとちがーーーーーーぅ」
そんな私の叫び声など誰も気づかってくれることもなく、前途多難な王子様探しは始まるのだった。
いや、知らんけど。たぶんね。きっとそのはずだ。
と、せめて、私だけはそう思うことにした。
86
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(3件)
あなたにおすすめの小説
女避けの為の婚約なので卒業したら穏やかに婚約破棄される予定です
くじら
恋愛
「俺の…婚約者のフリをしてくれないか」
身分や肩書きだけで何人もの男性に声を掛ける留学生から逃れる為、彼は私に恋人のふりをしてほしいと言う。
期間は卒業まで。
彼のことが気になっていたので快諾したものの、別れの時は近づいて…。
異世界の神は毎回思う。なんで悪役令嬢の身体に聖女級の良い子ちゃんの魂入れてんのに誰も気付かないの?
下菊みこと
恋愛
理不尽に身体を奪われた悪役令嬢が、その分他の身体をもらって好きにするお話。
異世界の神は思う。悪役令嬢に聖女級の魂入れたら普通に気づけよと。身体をなくした悪役令嬢は言う。貴族なんて相手のうわべしか見てないよと。よくある悪役令嬢転生モノで、ヒロインになるんだろう女の子に身体を奪われた(神が勝手に与えちゃった)悪役令嬢はその後他の身体をもらってなんだかんだ好きにする。
小説家になろう様でも投稿しています。
誰でもよいのであれば、私でなくてもよろしいですよね?
miyumeri
恋愛
「まぁ、婚約者なんてそれなりの家格と財産があればだれでもよかったんだよ。」
2か月前に婚約した彼は、そう友人たちと談笑していた。
そうですか、誰でもいいんですね。だったら、私でなくてもよいですよね?
最初、この馬鹿子息を主人公に書いていたのですが
なんだか、先にこのお嬢様のお話を書いたほうが
彼の心象を表現しやすいような気がして、急遽こちらを先に
投稿いたしました。来週お馬鹿君のストーリーを投稿させていただきます。
お読みいただければ幸いです。
お前は要らない、ですか。そうですか、分かりました。では私は去りますね。あ、私、こう見えても人気があるので、次の相手もすぐに見つかりますよ。
四季
恋愛
お前は要らない、ですか。
そうですか、分かりました。
では私は去りますね。
私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~
あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。
「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?
聖女の力に目覚めた私の、八年越しのただいま
藤 ゆみ子
恋愛
ある日、聖女の力に目覚めたローズは、勇者パーティーの一員として魔王討伐に行くことが決まる。
婚約者のエリオットからお守りにとペンダントを貰い、待っているからと言われるが、出発の前日に婚約を破棄するという書簡が届く。
エリオットへの想いに蓋をして魔王討伐へ行くが、ペンダントには秘密があった。
【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。
猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。
復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。
やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、
勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。
過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。
魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、
四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。
輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。
けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、
やがて――“本当の自分”を見つけていく――。
そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。
※本作の章構成:
第一章:アカデミー&聖女覚醒編
第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編
第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編
※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位)
※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
ヒロインが強すぎる www
005. 思いの丈を叫んだだけ❗(⌒0⌒)/~~🤣パターンを変えて別バージョンを‼️。
ハッハッハ🤣
ヒロイン面白すぎる😺
mikan様
この度はお読みいただいた上、ご感想までありがとうございます。
めっちゃいいと思ったのですが、まぁウケないことwww
でもよろこんでいただけて幸いデス