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2 一匹狼はつがう
12 番になる ※ 人狼×人
しおりを挟むぱちん、とゴムを弾くような音がした。
ゴーシュが説明を読んでいる間くらい、と油断していた裕壬の尻に、熱い手が触れた。
あれ、と思う間もなく、左右に力がかけられるのを感じた。
昨夜のように舐められるのかも、と裕壬が身構えると同時に、後孔にボトルの細い先端が強引に入れられるのを感じた。
痛くはないけれど、突然すぎて体がびくっと震えたのを感じたのか、ゴーシュがなだめるように尻をなでる。
「んふっ!?、んっっ」
裕壬は目を白黒させた。
一声かけてからにしてくれ、と言葉にしようにも、勢いなく注ぎ込まれる冷たさに、おかしな声が出そうになるのを歯を噛みしめて耐えるだけで精一杯。
耐えながら、買ってきたローションを温めておくのを忘れていた、と裕壬は気が付いていたけれど、この状況で温めるから待ってほしい、とは言えなかった。
ゴーシュはボトルの説明書きを読んだはずなのに、ずいぶんたくさん注ぎ込まれた気がして、腹の中が冷たい。
適正使用量が書いてないとは思えないから、適当に注いだのか。
後孔から注ぎ口が抜かれた時は、ほっと安堵の息をついた。
「これで良いのか?」
「うん、大丈夫、もう、いいよ」
男同士の場合、洗浄やほぐす時間と手間が必要だと、ゴーシュは知らないだろう。
裕壬のその考えは正しかったようだ。
洗った時にほぐしておいたけれど、傷になったりしないだろうか。
痛みなく入るだろうか、と少し不安になる。
昨日は大丈夫だったから、たぶん、今日も大丈夫だと思いたい。
そう思っている裕壬の後孔に、薄皮一枚分の厚みを足した熱が押し付けられる。
ローションの冷たさを感じた直後だったので、皮膜越しだというのに、ひどく熱く感じた。
大量に注ぎ込まれたらしいローションと、コンドームの表面の潤滑剤の助けを得て、ぬるり、と抵抗なく入ってくる先端は、それほど太くない。
洗ってほぐしてから少し時間は経っていたけれど、痛くなかったことに裕壬が安堵した次の瞬間。
ずるずる、と止まることなく押し入れられる感覚がして、裕壬は体を強張らせた。
「出スゾ」
「えっ?」
裕壬の背中に、毛皮らしきものが触れた。
背後から重さがかかる。
止まらずに後孔に入ってきた熱と共に、尻にふかふかした感触を伴う温もりが触れた。
まさか一度で根元まで入れた?
太さはともかく、長かったのに。
お尻がふかふかする。
出すって、なにを、どこに?
裕壬が幾つもの疑問を覚えたその時。
ずっしりとした重さが尻から背中にかかった。
ゆさ、ゆさ、と体ごと揺さぶられる。
人狼一人分の体重に押しつぶされて、分厚い被毛に覆われた四肢に囲い込まれながら、裕壬は硬直していた。
何が起きているのか。
背後にいるのは、ゴーシュではないのか。
さっきまで人だったのに。
「ユージン」
すり、と左ほほに温もりを感じる。
動けないまま視線だけでそちらを見て、裕壬は言葉を失った。
灰色の毛に包まれた狼の口吻が、目の前にあった。
軽く開いている口の中には、牙が見える。
背後から裕壬を覗き込んでいる。
一体、いつ人狼の姿になったのだろう。
毛皮を背負っているみたいで背中が暑いのに……とても、幸せな気持ちになるのは、なぜだろう。
まばたきをして、混乱をなんとか整理しようとしている裕壬に、狼の口吻が寄せられて、鼻先をほほに当てられた。
「俺ヲ受ケ入レテクレテアリガトウ」
「……」
低く唸るような声。
ぞくり、と背筋を冷たいものが走る。
本能的な恐怖を感じるのに、なぜか同時に、胸がうるさく音を立てる。
受け入れる?
その言葉が、きちんと裕壬の中で消化され、そして気が付いた。
便秘で出なくて困っている時のような、大きなものが挟まっている違和感がある。
尻の中に、入ってるものが気のせいではなく、すごく太くなっている気がする。
ずる、と引きずり出されれば、排泄のような感覚とともに、どうしても太さを感じてしまう。
「心配シナクテモ、全部ハ入レナイ」
ゴーシュの言葉に全部?、と首を傾げそうになった裕壬は、背後に意識を向けた。
尻に触れていたはずのもふもふがない。
毛布のような温もりを感じるのは、背中や体の側面、腕を回されている場所だけだ。
尻に入っているのに、臀部にはなにも触れていない。
どうして、中途半端に入れられた体勢なのだろう。
裕壬の疑問に気がついたのか、ゴーシュが包み込むように抱きこんでいた左腕を解放してくれた。
人の手と狼の手をそのまま合体させたような。
肉球があって、毛皮も指も鉤爪もある手が、裕壬の左手を背後へと導いた。
毛布ではなく、ゴーシュの毛に覆われた腕は温かい。
触れた熱に、びくっと裕壬が驚いたその時。
「マダ入レナイ、傷ツクユージンハ二度ト見タクナイ」
ゴーシュが、耳元で囁いた。
ぬるぬるした手触りの、熱い肉の棒。
裕壬の尻とゴーシュの体をつないでいる棒の根本近くが、まんまるのこぶのように膨らんでいた。
「……!?」
なんだこれ。
一瞬そう思ってから、裕壬は気がついた。
これ知ってるかも、イヌ科の動物にあるやつ。
たぶん、聞いたことあるやつだと。
裕壬は動物を飼ったことがない。
一人っ子で寂しい、という理由では子供に動物を与える親ではなかった。
両親のどちらかにアレルギーがある、とも聞いたことがないので、動物を飼うことに興味がなかったのかもしれない。
本物を見たことはない。
けれど、話として聞いたことはある。
人間の男根の先端が、他人の精をかきだすためのこぶなら、これは、射精の途中で男根が抜けないよう防ぐためのこぶだと。
つまり、人間は年中いつでも発情できるからこそ、他人と女を奪いあう進化をして、イヌは発情期のメスを独占する進化をしたわけだ。
……人狼は、イヌなのかな。
イヌの祖先が狼だから、この考え方は間違ってないはず。
でも人狼の祖先って……狼であってるのか?
そもそもスーパーナチュラルの存在は、進化論で説明できるのか?
動物の骨格とか生態を、もっと勉強しておくべきだった、と思ってももう遅い。
裕壬の尻には、ゴーシュの男根がずっぷりと刺さっている。
ただ、同時に思った。
これがあるなら、不慣れな奥まで挿入されなくて済むかもと。
こんな大きなもの、絶対に入らない。
軽く指先で触れただけでも分かるほど、ゴーシュの男根の根元のこぶは大きい。
自分にとって良い方向に考える裕壬に、幸せそうな甘い声でゴーシュが囁く。
「全部入ルカ調ベル、待ッテイテクレ」
「……まじか」
思わずつぶやいてしまいながら、気がつく。
腹の中に入っているものがぴくり、ぴくりと動いていることに。
男として、覚えがある動きに、裕壬は顔を引きつらせた。
まさか、射精してる?
話している間も、ずっと?
出す、ってまさか。
裕壬は実際にイヌが射精する所を見たことがない。
根元の近くにこぶがある、ということしか知らない。
狼に近い形状の下半身を持つ人狼の射精は、人の姿とは比べられないほど長いと、知らない。
「ゴーシュさん、ねえ、あのさ」
「ナンダ?」
嬉しそうに、幸せそうに、文字通り溶けてしまいそうな声。
人の姿をしている時の声よりも低くて、がらがらに割れて聞こえる。
獣の唸り声のように聞こえるのに、甘い。
「……なんでもない」
ゴーシュの声が甘すぎて、裕壬は何も言えなくなった。
背面を毛布以上の温もりに包まれ、守られている。
抱きしめられている安心感からゆっくりと目を閉じれば、思った以上に疲れていたのか、意識が溶けていくように眠りへと旅立っていった。
セックスの最中に眠ってしまうなんて、と思っても、裕壬を包む心地良すぎる温もりに抵抗できなかった。
◆
二章終わり
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