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勇者エリシオ編
第26話:魔族とカツサンド
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「ザグレブにも何か美味い物を食わせてやりたい」
ルシエの要望に応え、エリシオはカートル孤児院前に来ていた。
そこでチャリティバザーが実施されていて、美味しいパンが買える事はプルミエ王族なら皆知っている。
「いらっしゃいませ。たまごパン焼き立てですよ」
トレイに乗せられて、楕円形のコッペパンのようなパンが運ばれてくる。
「大賢者シロウ様が広めたカツサンドもありますよ」
ボア肉のカツを挟んだサンドイッチも並べられている。
パンの上に被せられた透明なドーム状の物は魔道具で、中から湯気は通すが外部からの異物は遮断する。
『ザグレブはボア肉が好きだから、カツサンドがいいと思うわ』
従魔部屋にいるロミュラが視覚共有でパンを観察して念話で提案、ザグレブに差し入れるパンはカツサンドに決まった。
『カツサンド食べたい!』
『その珍しいボア肉料理を食べてみたいです』
白雪とクーロもカツサンドをおねだりする。
地球の動物なら調味料や油など身体によろしくないが、こちらの世界の犬神や竜には全く問題無かった。
「カツサンド3つ下さい」
エリシオは買ったカツサンドのうち1つをストレージに保管、2つを従魔部屋に転送した。
「ロミュラは何がいい?」
「たまごパンをお願いするわ」
続いてロミュラにたまごパンを買って転送した。
たまごパンはコッペパン風の生地の中にスクランブルエッグのような具が入った惣菜パンだ。
「勇者セイルが好んだ丸パン焼けましたよ」
新たに運ばれてきた円形のパンを見て、ルシエが目を輝かせる。
「エリ、我にあれを買ってくれぬか?」
仔猫ルシエが肩の上から肉球でプニプニと頬を押してきたので、ハイハイと笑いながらエリシオはそれも購入した。
他のパンよりも多くバターや卵や砂糖を使っているのか、丸パンは焼き菓子のような香りがする。
美味しそうだと思い、自分用も丸パンを選んで購入した。
「ザグレブ、まずはこれを食べてみるがよい」
独房にいる魔族の男に、紙袋に入ったカツサンドが転送された。
「…これは…ボア肉ですか?」
困惑しつつも好物の肉に食欲をそそられるザグレブ。
毒など入ってないぞアピールのため、同じ物をリクエストした白雪とクーロが先に食べ始める。
ロミュラも本来の姿に戻って通路の長椅子に座り、たまごパンを食べ始めた。
ルシエとエリシオも仲良く寄り添って長椅子に座り、丸パンを頬張る。
「この味…時代が変わっても受け継がれているのだな」
ルシエが遠い昔を思い出すように、少し切なさを帯びた笑みを浮かべる。
丸パンは勇者セイルがルシエを街へ連れ出し、初めて食べさせてくれた物。
彼はもうこの世にいないけれど、思い出の味は今もあると知り、寂しさと嬉しさを感じた。
「……………」
少し躊躇したものの、美味しそうな香りに負けたザグレブは、カツサンドを口にした。
ややモッチリした食感の白いパンに挟まれたボア肉は、サクサクした衣に覆われ、甘みと酸味の混在するソースが絡んでいる。
異文化の食べ物だがザグレブの味覚に合ったようで、最初の一口の後は躊躇いなく食べ進んだ。
ルシエの要望に応え、エリシオはカートル孤児院前に来ていた。
そこでチャリティバザーが実施されていて、美味しいパンが買える事はプルミエ王族なら皆知っている。
「いらっしゃいませ。たまごパン焼き立てですよ」
トレイに乗せられて、楕円形のコッペパンのようなパンが運ばれてくる。
「大賢者シロウ様が広めたカツサンドもありますよ」
ボア肉のカツを挟んだサンドイッチも並べられている。
パンの上に被せられた透明なドーム状の物は魔道具で、中から湯気は通すが外部からの異物は遮断する。
『ザグレブはボア肉が好きだから、カツサンドがいいと思うわ』
従魔部屋にいるロミュラが視覚共有でパンを観察して念話で提案、ザグレブに差し入れるパンはカツサンドに決まった。
『カツサンド食べたい!』
『その珍しいボア肉料理を食べてみたいです』
白雪とクーロもカツサンドをおねだりする。
地球の動物なら調味料や油など身体によろしくないが、こちらの世界の犬神や竜には全く問題無かった。
「カツサンド3つ下さい」
エリシオは買ったカツサンドのうち1つをストレージに保管、2つを従魔部屋に転送した。
「ロミュラは何がいい?」
「たまごパンをお願いするわ」
続いてロミュラにたまごパンを買って転送した。
たまごパンはコッペパン風の生地の中にスクランブルエッグのような具が入った惣菜パンだ。
「勇者セイルが好んだ丸パン焼けましたよ」
新たに運ばれてきた円形のパンを見て、ルシエが目を輝かせる。
「エリ、我にあれを買ってくれぬか?」
仔猫ルシエが肩の上から肉球でプニプニと頬を押してきたので、ハイハイと笑いながらエリシオはそれも購入した。
他のパンよりも多くバターや卵や砂糖を使っているのか、丸パンは焼き菓子のような香りがする。
美味しそうだと思い、自分用も丸パンを選んで購入した。
「ザグレブ、まずはこれを食べてみるがよい」
独房にいる魔族の男に、紙袋に入ったカツサンドが転送された。
「…これは…ボア肉ですか?」
困惑しつつも好物の肉に食欲をそそられるザグレブ。
毒など入ってないぞアピールのため、同じ物をリクエストした白雪とクーロが先に食べ始める。
ロミュラも本来の姿に戻って通路の長椅子に座り、たまごパンを食べ始めた。
ルシエとエリシオも仲良く寄り添って長椅子に座り、丸パンを頬張る。
「この味…時代が変わっても受け継がれているのだな」
ルシエが遠い昔を思い出すように、少し切なさを帯びた笑みを浮かべる。
丸パンは勇者セイルがルシエを街へ連れ出し、初めて食べさせてくれた物。
彼はもうこの世にいないけれど、思い出の味は今もあると知り、寂しさと嬉しさを感じた。
「……………」
少し躊躇したものの、美味しそうな香りに負けたザグレブは、カツサンドを口にした。
ややモッチリした食感の白いパンに挟まれたボア肉は、サクサクした衣に覆われ、甘みと酸味の混在するソースが絡んでいる。
異文化の食べ物だがザグレブの味覚に合ったようで、最初の一口の後は躊躇いなく食べ進んだ。
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