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第2話 ふわふわコウモリちゃん
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通路を歩きながら、わたしは羊皮紙を取り出した。
わたしのもう一つの特技。
それは、見たものを正確に地図に起こすこと。
地形、罠の配置、壁に刻まれたルーン文字。それらを完璧に記録したわたしの地図は、裏社会で高値で取引されているのだ。
「よし、描けたわ」
完璧だ。縮尺も狂いなく、美しい線で描かれた遺跡の地図。
そして、その余白には、先ほど遭遇したこの遺跡に巣食う魔物――「大コウモリ」の特徴も、しっかりと書き添えておいた。
「ほう、仕事が早えな。どれどれ……」
背後から、野太い声。
うなじにかかる熱い鼻息がくすぐったくて、わたしの肩がビクリと跳ねる。
「ちょっ……!?勝手に見ないでよ」
「あ?いいだろ別に減るもんじゃねえし。……へぇ、なかなかのモンだ。お前、地図描くのが上手いじゃねぇか」
ブレイズは悪びれもせず、わたしの手元の地図をさらに覗き込んだ。
「……ん?」
彼の視線が、地図の端に釘付けになる。
そして、数秒の沈黙の後。
「……ぶっ」
彼が、噴き出した。
「なんだこりゃ!?おいミリア、なんで地図の端っこに『羽根の生えたホコリ』が描いてあるんだ?」
「え?」
わたしは眉をひそめ、自分の描いた絵を見た。
広げた翼、体毛に覆われた体。凶暴な牙と瞳。
どこからどう見ても、凶悪な「大コウモリ」そのものでしょう?
「失礼ね。これはコウモリよ。特徴を完璧に捉えているわ」
「コウモリぃ!?いやいやいや!さっき俺たちが倒したの、もっとこう、ゴツゴツしてて爪とかあっただろ!?なんでこんな、ふわふわでつぶらな瞳の物体になってんだよ!しかも口!こんな可愛げなかったぞ!」
ブレイズがコウモリのイラストに描かれた「ω」を指差す。
ブレイズは腹を抱えて笑い出した。バンバンと壁を叩く。
ちょっと!傷がついたらどうするのよ!
「ぶはははは!お前、神の字が読めて剣の腕も立つくせに、絵心は死んでんのか!ギャップがすげえなオイ!」
「う、うるさいわね!わたしは写実的に描いたつもりよ!この曲線は敵の音波攻撃を表現してて……」
「いや、ホコリの妖精にしか見えねえって!あー、腹いてぇ……」
涙を流して笑い転げるブレイズ。
わたしは顔を真っ赤にして、羊皮紙を隠した。
なによ、この男。やっぱりデリカシーのない野蛮人だわ。
「笑うなら帰ってちょうだい!わたしは一人でやってるって言ったでしょ!」
「いやいや、待てって」
ブレイズは目尻の涙を拭うと、ニヤリと口角を吊り上げた。
その瞳は、先ほどまでの戦士に対する尊敬の色ではなく、もっと熱っぽく、粘着質な――獲物を見つけた肉食獣の色をしていた。
「気が変わった。俺は、お前についていくことにするぜ」
「はあ?迷惑よ!」
「嫌だね。お前、面白すぎる。こんな逸材、放っておけるかよ」
彼は強引にわたしの隣に並ぶと、その巨大な大剣を肩に担ぎ直した。
その圧倒的な存在感が、わたしのパーソナルスペースを侵食してくる。
「諦めな、画伯。俺に気に入られたのが運の尽きだ。……この先、お前がどんな『傑作』を描くのか、特等席で見せてもらうぜ?」
吐息がかかりそうなほどの至近距離で繰り出される、ニカッ、と一点の曇りもない笑顔。
「……っ、勝手にしなさいよ!」
わたしは吐き捨てるように言って、歩き出した。
心臓が、怒りとは違うリズムで早鐘を打っているのが悔しい。
わたしの拒絶も、剣技への自信も、この男の圧倒的な厚かましさの前では、何の意味もなさなかった。
わたしのもう一つの特技。
それは、見たものを正確に地図に起こすこと。
地形、罠の配置、壁に刻まれたルーン文字。それらを完璧に記録したわたしの地図は、裏社会で高値で取引されているのだ。
「よし、描けたわ」
完璧だ。縮尺も狂いなく、美しい線で描かれた遺跡の地図。
そして、その余白には、先ほど遭遇したこの遺跡に巣食う魔物――「大コウモリ」の特徴も、しっかりと書き添えておいた。
「ほう、仕事が早えな。どれどれ……」
背後から、野太い声。
うなじにかかる熱い鼻息がくすぐったくて、わたしの肩がビクリと跳ねる。
「ちょっ……!?勝手に見ないでよ」
「あ?いいだろ別に減るもんじゃねえし。……へぇ、なかなかのモンだ。お前、地図描くのが上手いじゃねぇか」
ブレイズは悪びれもせず、わたしの手元の地図をさらに覗き込んだ。
「……ん?」
彼の視線が、地図の端に釘付けになる。
そして、数秒の沈黙の後。
「……ぶっ」
彼が、噴き出した。
「なんだこりゃ!?おいミリア、なんで地図の端っこに『羽根の生えたホコリ』が描いてあるんだ?」
「え?」
わたしは眉をひそめ、自分の描いた絵を見た。
広げた翼、体毛に覆われた体。凶暴な牙と瞳。
どこからどう見ても、凶悪な「大コウモリ」そのものでしょう?
「失礼ね。これはコウモリよ。特徴を完璧に捉えているわ」
「コウモリぃ!?いやいやいや!さっき俺たちが倒したの、もっとこう、ゴツゴツしてて爪とかあっただろ!?なんでこんな、ふわふわでつぶらな瞳の物体になってんだよ!しかも口!こんな可愛げなかったぞ!」
ブレイズがコウモリのイラストに描かれた「ω」を指差す。
ブレイズは腹を抱えて笑い出した。バンバンと壁を叩く。
ちょっと!傷がついたらどうするのよ!
「ぶはははは!お前、神の字が読めて剣の腕も立つくせに、絵心は死んでんのか!ギャップがすげえなオイ!」
「う、うるさいわね!わたしは写実的に描いたつもりよ!この曲線は敵の音波攻撃を表現してて……」
「いや、ホコリの妖精にしか見えねえって!あー、腹いてぇ……」
涙を流して笑い転げるブレイズ。
わたしは顔を真っ赤にして、羊皮紙を隠した。
なによ、この男。やっぱりデリカシーのない野蛮人だわ。
「笑うなら帰ってちょうだい!わたしは一人でやってるって言ったでしょ!」
「いやいや、待てって」
ブレイズは目尻の涙を拭うと、ニヤリと口角を吊り上げた。
その瞳は、先ほどまでの戦士に対する尊敬の色ではなく、もっと熱っぽく、粘着質な――獲物を見つけた肉食獣の色をしていた。
「気が変わった。俺は、お前についていくことにするぜ」
「はあ?迷惑よ!」
「嫌だね。お前、面白すぎる。こんな逸材、放っておけるかよ」
彼は強引にわたしの隣に並ぶと、その巨大な大剣を肩に担ぎ直した。
その圧倒的な存在感が、わたしのパーソナルスペースを侵食してくる。
「諦めな、画伯。俺に気に入られたのが運の尽きだ。……この先、お前がどんな『傑作』を描くのか、特等席で見せてもらうぜ?」
吐息がかかりそうなほどの至近距離で繰り出される、ニカッ、と一点の曇りもない笑顔。
「……っ、勝手にしなさいよ!」
わたしは吐き捨てるように言って、歩き出した。
心臓が、怒りとは違うリズムで早鐘を打っているのが悔しい。
わたしの拒絶も、剣技への自信も、この男の圧倒的な厚かましさの前では、何の意味もなさなかった。
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