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第3話 遺跡のルール
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広間は、期待外れなほどの静寂に包まれていた。
天井は高く、ドーム状に削り出されているものの、道はここで途絶えている。完全な袋小路だ。
部屋の中央に、ぽつんと石造りの台座が置かれている以外は、がらんどうの空間だった。
なるほど、ここは墓所タイプね。
遺跡には、大きく分けて3つのタイプがある。
神殿など施設全体が地上にある『露出タイプ』。
ドワーフの坑道と工房を兼ねた『地下住居タイプ』。
そして今回のような比較的こぢんまりとした『墓所タイプ』。
墓所タイプの場合、多くは最奥に祭壇があり、そこにお宝があるのが定番だ。
「……ああん?なんだこりゃ。行き止まりかよ」
ブレイズが不満げに鼻を鳴らし、ドカドカと台座へ歩み寄る。
そこには、古びた金属片が無造作に積み上げられていた。
「おいおい、期待させやがって。たったこれだけか?しけてんなぁ」
彼は舌打ちしながら、その大きな手で金属片を鷲掴みにした。
チャリ、と乾いた音が響く。
指の隙間からこぼれ落ちた数枚が、床を転がった。
「古代アークライトの貨幣ね。保存状態は……まあまあかしら」
わたしは床のコインを拾い上げ、指先でその摩耗具合を確かめる。
レートで換算すれば、金貨数枚分といったところ。一般人なら大喜びする金額だが、命がけで遺跡に潜る対価としては、確かに「しけてる」と言わざるを得ない。
「チッ。まあ、ないよりはマシか。今日の酒代くらいにはなるだろ」
ブレイズは興味を失ったように、掴んだ貨幣を腰の革袋に放り込んだ。
彼の欲望はもっと貪欲で、こんな端金(はしたがね)ではその渇きを癒やせないらしい。
……ふふ、単純な人ね。
わたしは心の中で小さく笑うと、彼が背を向けた台座へと近づいた。
この子たち(遺跡)は見た目よりもずっと気難しい。
こんな無防備な場所に宝を放置するはずがない。
これは「疑似餌」だ。無知で強欲な者を満足させ、早々に立ち去らせるための。
わたしは台座の裏側へと回り込み、そこに刻まれた装飾に目を凝らす。
一見するとただの蔦模様。けれど、わたしには見える。
『汝、目に見える輝きに惑わされることなかれ』
『真なる価値は、影にこそ宿る』
ルーン文字が、歌うようにわたしに語りかけてくる。
わたしは迷うことなく、装飾の一部――蔦の葉の形をした隠しスイッチに指を這わせ、深く押し込んだ。
カチリ。
指先に伝わる、小さな、けれど確かなクリック感。
次の瞬間、台座の側面が音もなくスライドし、隠された空洞が姿を現した。
「……!」
そこにあったのは、一つの腕輪。
金貨のような派手な輝きはない。けれど、艶消しの銀(ミスリル)で作られたその表面には、繊細極まりないルーン文字がびっしりと刻み込まれている。
微かに脈打つような、青白い魔力の光。
間違いない。これは古代の魔導具(アーティファクト)――それも、かなりの業物だ。
——可愛い。あなた、ここでずっとわたしを待っていてくれたのね。
わたしは愛おしさを込めて腕輪を手に取ると、流れるような手つきで懐へとしまい込んだ。
「……おい」
背後から、低い唸り声。
振り返ると、ブレイズが疑わしげに目を細め、わたしを見下ろしていた。
野生動物のような勘の良さだ。空気が変わったことを敏感に察知したらしい。
「お前、今なに隠した?」
「あら、何のこと?」
「とぼけんな。その懐、なんか入れただろ」
彼は鼻をヒクつかせ、わたしの胸元へとジリジリ距離を詰めてくる。
ホントに獣みたいな男ね。
魔力の残滓(におい)を嗅ぎ取ったのか、それとも単なるわたしの気配から察したのか。
どちらにせよ、その威圧感は獲物を追い詰める獅子のそれだ。
石造りの台座と、彼の巨躯に挟まれる。
壁ドン、ならぬ台座ドン状態。
見上げれば、空色の瞳が爛々と輝いている。
「よこせ。山分けだろ」
「お断りよ」
わたしは一歩も退かず、あえて挑発するように彼を見つめ返した。
懐の中の腕輪の冷たさと、目の前の男から発せられる圧倒的な熱気。その温度差が、わたしの肌をゾクゾクと粟立たせる。
「遺跡のルールを知らないの?お宝はね……」
わたしは彼の逞しい胸板に人差し指をトン、と突きつけ、小悪魔のように口角を吊り上げた。
「発見した者に、所有権があるのよ」
ふわり、とわたしの赤髪が揺れる。
ブレイズの目が、驚きと、それ以上の熱を持って見開かれた。
天井は高く、ドーム状に削り出されているものの、道はここで途絶えている。完全な袋小路だ。
部屋の中央に、ぽつんと石造りの台座が置かれている以外は、がらんどうの空間だった。
なるほど、ここは墓所タイプね。
遺跡には、大きく分けて3つのタイプがある。
神殿など施設全体が地上にある『露出タイプ』。
ドワーフの坑道と工房を兼ねた『地下住居タイプ』。
そして今回のような比較的こぢんまりとした『墓所タイプ』。
墓所タイプの場合、多くは最奥に祭壇があり、そこにお宝があるのが定番だ。
「……ああん?なんだこりゃ。行き止まりかよ」
ブレイズが不満げに鼻を鳴らし、ドカドカと台座へ歩み寄る。
そこには、古びた金属片が無造作に積み上げられていた。
「おいおい、期待させやがって。たったこれだけか?しけてんなぁ」
彼は舌打ちしながら、その大きな手で金属片を鷲掴みにした。
チャリ、と乾いた音が響く。
指の隙間からこぼれ落ちた数枚が、床を転がった。
「古代アークライトの貨幣ね。保存状態は……まあまあかしら」
わたしは床のコインを拾い上げ、指先でその摩耗具合を確かめる。
レートで換算すれば、金貨数枚分といったところ。一般人なら大喜びする金額だが、命がけで遺跡に潜る対価としては、確かに「しけてる」と言わざるを得ない。
「チッ。まあ、ないよりはマシか。今日の酒代くらいにはなるだろ」
ブレイズは興味を失ったように、掴んだ貨幣を腰の革袋に放り込んだ。
彼の欲望はもっと貪欲で、こんな端金(はしたがね)ではその渇きを癒やせないらしい。
……ふふ、単純な人ね。
わたしは心の中で小さく笑うと、彼が背を向けた台座へと近づいた。
この子たち(遺跡)は見た目よりもずっと気難しい。
こんな無防備な場所に宝を放置するはずがない。
これは「疑似餌」だ。無知で強欲な者を満足させ、早々に立ち去らせるための。
わたしは台座の裏側へと回り込み、そこに刻まれた装飾に目を凝らす。
一見するとただの蔦模様。けれど、わたしには見える。
『汝、目に見える輝きに惑わされることなかれ』
『真なる価値は、影にこそ宿る』
ルーン文字が、歌うようにわたしに語りかけてくる。
わたしは迷うことなく、装飾の一部――蔦の葉の形をした隠しスイッチに指を這わせ、深く押し込んだ。
カチリ。
指先に伝わる、小さな、けれど確かなクリック感。
次の瞬間、台座の側面が音もなくスライドし、隠された空洞が姿を現した。
「……!」
そこにあったのは、一つの腕輪。
金貨のような派手な輝きはない。けれど、艶消しの銀(ミスリル)で作られたその表面には、繊細極まりないルーン文字がびっしりと刻み込まれている。
微かに脈打つような、青白い魔力の光。
間違いない。これは古代の魔導具(アーティファクト)――それも、かなりの業物だ。
——可愛い。あなた、ここでずっとわたしを待っていてくれたのね。
わたしは愛おしさを込めて腕輪を手に取ると、流れるような手つきで懐へとしまい込んだ。
「……おい」
背後から、低い唸り声。
振り返ると、ブレイズが疑わしげに目を細め、わたしを見下ろしていた。
野生動物のような勘の良さだ。空気が変わったことを敏感に察知したらしい。
「お前、今なに隠した?」
「あら、何のこと?」
「とぼけんな。その懐、なんか入れただろ」
彼は鼻をヒクつかせ、わたしの胸元へとジリジリ距離を詰めてくる。
ホントに獣みたいな男ね。
魔力の残滓(におい)を嗅ぎ取ったのか、それとも単なるわたしの気配から察したのか。
どちらにせよ、その威圧感は獲物を追い詰める獅子のそれだ。
石造りの台座と、彼の巨躯に挟まれる。
壁ドン、ならぬ台座ドン状態。
見上げれば、空色の瞳が爛々と輝いている。
「よこせ。山分けだろ」
「お断りよ」
わたしは一歩も退かず、あえて挑発するように彼を見つめ返した。
懐の中の腕輪の冷たさと、目の前の男から発せられる圧倒的な熱気。その温度差が、わたしの肌をゾクゾクと粟立たせる。
「遺跡のルールを知らないの?お宝はね……」
わたしは彼の逞しい胸板に人差し指をトン、と突きつけ、小悪魔のように口角を吊り上げた。
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ブレイズの目が、驚きと、それ以上の熱を持って見開かれた。
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