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学年が上がって少しだけ忙しい日々も落ち着いてきた。清太とも空ともクラスは違ってしまったけど、楽しい日々を過ごしている。ただ、清太と二人でいられる時間が減ったのが寂しい事ではあるけど。それでも時間を作っては二人で出かけたり勉強したり、ちゃんと恋人らしいこともした。もちろん誰にも気付かれてしまわないように。
生活が大きく変化したのは進級してすぐのことだった。先輩たちの引退に伴って僕らが引き継ぐことになり、絵梨ちゃんが部長になることになった。すごく意欲的に頑張っていたし、作品でもすごく活躍していたからそれはすごくわかる。それより不思議だったのが何故か僕が副部長に任命された。先輩たちが僕をすごく評価してくれたのは凄く嬉しいけど、僕が副部長をやってもいいのかと不安になった。だけど他の部員たちも新しく入ってくれた一年生の六人も賛成してくれて、結局は押し切られるみたいに副部長になってしまった。
結果、部活も忙しくなって清太との時間は更に減ってしまったけど、僕が楽しそうにしているからと清太は喜んでくれていた。
夏休みに入ってすぐの部活終わりに、絵梨ちゃんとこれからの事を話し合った。
「私、やりたいことがあるんだけど…」
「やりたいこと?」
僕の問いかけにまっすぐと目を見て「うん」と答えた。
「彼方くんが前に見せてくれたの、あれやってみない?」
唐突にそう切り出されて何を言っているのかすぐにわからなかった。
前に僕が見せた…?もしかして…。
「まさか、僕が書いたやつ?」
「そう!」
大きな笑顔を作って僕の瞳をまっすぐ見つめる。
僕は大きく首を横に振った。
「無理無理!絶対ダメだよ!」
「どうして?」
「どうしてって…」
僕は視線を逸らして机を見つめた。
あれは人に見せられるような出来じゃない。それに何より恥ずかしい。
「私、あれを読ませてもらった時、絶対やりたいって思ったんだよ?」
その言葉に僕は顔を上げて彼女の方を見た。
「私、敵役をやってみてやっぱりいいなって思って。それで彼方くんが書いた役も私がやってみたいって、そう思ったの」
僕は何も言えないまま、ただ彼女の輝いている目を見つめるだけ。
「もう一度、読ませて欲しい。それで、私に演じさせて欲しい」
まっすぐにそう言われて僕はやっぱり断れなくなってしまった。
そしてまた彼女に、お守りみたいに常に持ち歩いていたあのノートを見せた。
全て読み終えると大きく頷いて僕を見た。
「うん。やっぱり私、これがやりたい。…やらせてもらえない?」
そのまっすぐな視線を受けてしまったら、僕は頷くしかなかった。
「やった!」
「でも待って!」
嬉しそうに笑う彼女を遮って言った。
「どうしたの?」
「僕が書いたって秘密にして欲しい。それが、条件」
「わかった。秘密にする」
「それなら…」
「じゃあ決まり!これをパソコンに移して早速台本作ろう!」
「え?今から?」
「今なら誰にも見られないし、人がいないうちにさっさとやっちゃおう?」
そう言われるまま僕らはその日のうちに台本を仕上げた。
それから次の活動で僕の書いたものがみんなに読まれた。凄く緊張して、凄く怖かった。そんな不安をよそにそれは案外好評で、もちろん完璧とまではいかなかったけど気に入ってくれたみたいだった。
そこからは台本を少し修正して、配役を決めて、衣装作りをして撮影の準備をして、それからすぐに撮影に取り掛かった。
僕の想像が形になっていくことが何とも言えないくすぐったい気もしたけど、それよりも嬉しい気持ちの方が大きかった。
絵梨ちゃんはやりたがっていた悪役をやってくれて、僕はといえばまた絵梨ちゃんと同じ悪役。これは彼女がどうしても、と僕を推したからだ。まさか自分で作ったものを自分でやることになるなんて想像もしてなかったけど、凄く楽しみでもあった。清太にこの話をしたら凄く楽しみにしてくれていたし、絶対やり切らなきゃいけないな。
変化が起きたのは僕だけじゃなくて清太にも空にも、もちろん起きていた。清太は進級してすぐに部活で書いていた短編小説が賞を取って部長になったし、空はこれまでの頑張りが評価されて副部長になった。だから自分だけじゃないって思えると頑張れる。バイトも部活も勉強も頑張るのは大変だけど、清太が隣にいると大丈夫だって思えた。
生活が大きく変化したのは進級してすぐのことだった。先輩たちの引退に伴って僕らが引き継ぐことになり、絵梨ちゃんが部長になることになった。すごく意欲的に頑張っていたし、作品でもすごく活躍していたからそれはすごくわかる。それより不思議だったのが何故か僕が副部長に任命された。先輩たちが僕をすごく評価してくれたのは凄く嬉しいけど、僕が副部長をやってもいいのかと不安になった。だけど他の部員たちも新しく入ってくれた一年生の六人も賛成してくれて、結局は押し切られるみたいに副部長になってしまった。
結果、部活も忙しくなって清太との時間は更に減ってしまったけど、僕が楽しそうにしているからと清太は喜んでくれていた。
夏休みに入ってすぐの部活終わりに、絵梨ちゃんとこれからの事を話し合った。
「私、やりたいことがあるんだけど…」
「やりたいこと?」
僕の問いかけにまっすぐと目を見て「うん」と答えた。
「彼方くんが前に見せてくれたの、あれやってみない?」
唐突にそう切り出されて何を言っているのかすぐにわからなかった。
前に僕が見せた…?もしかして…。
「まさか、僕が書いたやつ?」
「そう!」
大きな笑顔を作って僕の瞳をまっすぐ見つめる。
僕は大きく首を横に振った。
「無理無理!絶対ダメだよ!」
「どうして?」
「どうしてって…」
僕は視線を逸らして机を見つめた。
あれは人に見せられるような出来じゃない。それに何より恥ずかしい。
「私、あれを読ませてもらった時、絶対やりたいって思ったんだよ?」
その言葉に僕は顔を上げて彼女の方を見た。
「私、敵役をやってみてやっぱりいいなって思って。それで彼方くんが書いた役も私がやってみたいって、そう思ったの」
僕は何も言えないまま、ただ彼女の輝いている目を見つめるだけ。
「もう一度、読ませて欲しい。それで、私に演じさせて欲しい」
まっすぐにそう言われて僕はやっぱり断れなくなってしまった。
そしてまた彼女に、お守りみたいに常に持ち歩いていたあのノートを見せた。
全て読み終えると大きく頷いて僕を見た。
「うん。やっぱり私、これがやりたい。…やらせてもらえない?」
そのまっすぐな視線を受けてしまったら、僕は頷くしかなかった。
「やった!」
「でも待って!」
嬉しそうに笑う彼女を遮って言った。
「どうしたの?」
「僕が書いたって秘密にして欲しい。それが、条件」
「わかった。秘密にする」
「それなら…」
「じゃあ決まり!これをパソコンに移して早速台本作ろう!」
「え?今から?」
「今なら誰にも見られないし、人がいないうちにさっさとやっちゃおう?」
そう言われるまま僕らはその日のうちに台本を仕上げた。
それから次の活動で僕の書いたものがみんなに読まれた。凄く緊張して、凄く怖かった。そんな不安をよそにそれは案外好評で、もちろん完璧とまではいかなかったけど気に入ってくれたみたいだった。
そこからは台本を少し修正して、配役を決めて、衣装作りをして撮影の準備をして、それからすぐに撮影に取り掛かった。
僕の想像が形になっていくことが何とも言えないくすぐったい気もしたけど、それよりも嬉しい気持ちの方が大きかった。
絵梨ちゃんはやりたがっていた悪役をやってくれて、僕はといえばまた絵梨ちゃんと同じ悪役。これは彼女がどうしても、と僕を推したからだ。まさか自分で作ったものを自分でやることになるなんて想像もしてなかったけど、凄く楽しみでもあった。清太にこの話をしたら凄く楽しみにしてくれていたし、絶対やり切らなきゃいけないな。
変化が起きたのは僕だけじゃなくて清太にも空にも、もちろん起きていた。清太は進級してすぐに部活で書いていた短編小説が賞を取って部長になったし、空はこれまでの頑張りが評価されて副部長になった。だから自分だけじゃないって思えると頑張れる。バイトも部活も勉強も頑張るのは大変だけど、清太が隣にいると大丈夫だって思えた。
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